第30話 裸のAクラス冒険者
ロランはカーテンから漏れるやわらかな日差しで目が覚めた。
日差しの強さと暖かさから、すでに太陽は登り切っていることがわかった。
(もうお昼か)
ロランが傍を見るとリリアンヌが一糸纏わぬ姿でスヤスヤと眠っている。
「うぅん。ロランさん……ムニャ」
彼女は生まれたばかりの赤子のように安らかな表情で眠っていた。
この分だとまだ起きそうになかった。
ロランは無理もないと思った。
昨夜の彼女は情熱的にロランを愛してくれた。
おかげでロランは精も根も尽き果てて沈むように眠った。
そして、疲れ果てたのは彼女も同じなようだった。
今、彼女は連日の激務と緊張から解放されて、ようやくまともな睡眠をとっている真っ最中だった。
彼女の顔は至福に包まれていた。
ロランは彼女の寝顔を見て、自分の胸の中がじんわりと幸せで満たされていくのが分かった。
『金色の鷹』の本部では、ルキウスが出資者達に絞られていた。
出資者達はルキウスにまたしても『魔法樹の守人』にダンジョンをとられてしまったことについて説明を求めた。
そして彼のミスについて厳しく追及した。
「どういうことだね? ルキウス」
「なぜAクラス冒険者を多数抱えていながら、『魔法樹の守人』に遅れを取るのか」
「なぜ『魔法樹の守人』にAクラス候補者が新しく多数出ているのに『金色の鷹』からは新たに出てこないのか」
「この特別部隊のために組まれた臨時的な予算とは一体なんなのかね?」
このように彼らは帳簿を元にルキウスのミスを責めたが、いかんせんダンジョンの攻略に関しては素人も同然だった。
部隊編成や、人員の割り当て、アイテムや装備の調達、冒険者の育成について細々とした話題に入っていけば、ルキウスの手八丁口八丁によってごまかされ、深く追求することはできなかった。
しかし、いくらルキウスの口が上手いとはいえ、ダンジョンを二つもとられたこと、それによる収益の悪化、これについてはぐうの音も出ない事実なのでルキウスとしても自らの失態を認めざるをえなかった。
「君の責任問題だよ。この損失、いったいどう埋め合わせるつもりかね?」
ルキウスは出資者達の利益を守るために、ギルドメンバーの給与減俸とリストラを行うことを約束した。
『魔法樹の守人』がこの世の春を謳歌している頃、『金色の鷹』はまるでお通夜のように暗い雰囲気に包まれていた。
リストラの噂はすでに末端の会員間でもまことしやかに噂されていた。
ベテランから新人まで、誰もが自分の首が切られるんじゃないかと戦々恐々としていた。
永遠に存在するかに思えた地盤が急にぐらつき始め、崩れ始めたかのような気持ちだった。
そんな中、ジルはドーウィンに不満をぶつけていた。
「だから言ったじゃないか。ロランさんを追放したらマズイって」
ドーウィンはげんなりした顔で彼女を見る。
「今や、『金色の鷹』の優位は揺らぎつつある。以前までは三つ全て取れていたはずのダンジョンは1つしか取れず、『魔法樹の守人』に二つもダンジョンを取られる始末。それだけじゃない。このままロランさんが『魔法樹の守人』を強化し続けていけば、『金色の鷹』は一つもダンジョンを取れなくなり、やがてはしがない中小ギルドにまで落ちぶれてしまうぞ」
ドーウィンは壊れた剣を金床の上に置いて作業を始めようとする。
ジルはドーウィンの肩を掴んで揺さぶった。
「なぁ、おい。聞いてるのか? ドーウィン。ドーウィンったら」
「うるさいなぁ」
「うるさいも何もない! そもそも、あいつは……、ルキウスは一体何がしたいんだ。部隊の足を引っ張るような指示ばかり出してきて。あいつが変な指示さえ出さなければ、まだ勝負は分からなかったじゃないか。何を考えてるんだあいつは」
「ルキウスも自分で自分が何をしたいか分かっていないんだと思うよ」
「はあ? 自分で自分のやりたいことが分からないってどういうことだよ」
ドーウィンはため息をついた。
「『金色の鷹』は大きくなりすぎたんだよ。人間も、部署も、部隊の数も、予算も膨大になって、全てに目を行き渡らせるなんてできやしない。おまけにルキウスは投資家とか取引先とか外向けの付き合いもある。内側の人間関係とか事情とかまで目が行き届かないんだよ。こういう時、代表者は外側の仕事だけに専念して、内側のことは他の人間に任せられればいいんだけど。あいつ全部自分で口を出したがるからさぁ。自分以外の人間を信用してないんだろうけど……」
「だったら、なおさらロランさんが必要じゃないか。ロランさんなら、人材を適材適所に効率よく配分し、部隊編成にも知恵を絞ってくれるはず」
「だーかーら、一度追放した人間を呼び戻すのは組織のメンツに関わるんだって。そもそもルキウスはロランさんが嫌いだって。これ何回言ったら分かるの君?」
「そんなこと言ってる場合か。このままじゃ『魔法樹の守人』にいる奴らはどんどんロランさんに育てられていって、ロランさんは私達のこと忘れてしまうぞ。ドーウィン。お前はなんとも思わないのか? なあドーウィンったら」
「そんなこと言われても。僕にどうしろってんだよ」
「ルキウスに直訴しよう。今すぐロランさんを引き戻すように。みんなで頭を下げて大金を積み、誠意を示せば、きっとロランさんだって昔の誼を思い出してくれるはず。とにかく是が非でもロランさんを連れ戻そう。それしかない。このままじゃ、急がないと間に合わなくなってしまう。『魔法樹の守人』の方が大きくなって、『金色の鷹』の資金的優位が揺らいでしまってからじゃ遅いんだぞ」
ドーウィンは今日何度目になろうかという溜息をついた。
「だからルキウスはロランに頭を下げないっつーの。第一そんなにロランさんの指導を受けたいんなら、君だけ『金色の鷹』を辞めて『魔法樹の守人』に行けばいいじゃん。何でいつまでも『金色の鷹』にこだわってんの?」
「なんで私がルキウスに金を払って出て行かなきゃならないんだ」
ジルは噛みつくように言った。
ジルのような上級会員は、約5年単位でギルドと契約を結んでおり、ギルドを抜ける場合、給与一年分の違約金を支払わなければならなかった。
「ま、そういうことだね。どれだけ泣こうが喚こうが、契約が切れるまではこのギルドで働き続けなければならない。愛しのロランさんからの指導は受けられなくても、我慢するしかないね」
ドーウィンはそれだけ言うとそっぽを向いて、ハンマーで剣を叩き始める。
ジルはしばらくの間、ジトッとした目でドーウィンのことを睨んでいたが、急にうつむき始める。
「そうか。なるほどなるほど。つまりルキウスは、どうあっても、たとえギルドがどれだけ傾こうともロランさんを戻すつもりはないと。つまりそういうことだな?」
「そーいうことだね」
ジルは納得したようにウンウンとうなづいた後、急に吹っ切れたようにニッコリと笑った。
「要するに全ての問題はルキウスなわけだ。あいつがいるせいで部隊には変な指示が飛ぶし、ロランさんはギルドに帰ってこれない」
「……まあ、そーいうことだね」
「つまり、ルキウスさえ……、あいつさえギルドから追放すれば、全ての問題は解決される。そういうわけだな?」
「えっ!?」
ドーウィンは思わずジルの顔を見た。
そして彼女が浮かべる酷薄な笑みを見てドキリとする。
「そうか。よーく分かったよ。ありがとなドーウィン。話に付き合ってくれて」
ジルは立ち上がって部屋から出て行こうとする。
「ちょっと。どうするつもりだよ」
「直に分かるさ」
ジルはそれだけ言うと扉を閉めて、部屋を後にした。
『金色の鷹』の職員の誰もが項垂れて、どうなるとも知れない明日の恐怖に怯えている中、一人だけ楽天的な様子の人間がいた。
Aクラス冒険者のセバスタである。
多くの人間が将来の不安に怯えながら仕事している中(どれだけ身分が不安定であろうともギルドから課されたノルマをこなさなければならない)、彼だけは鼻歌交じりに本部の廊下を歩いているのであった。
「よう。どうした?暗い顔をして」
「あ、セバスタさん」
うなだれている会員の一人にセバスタが肩を叩きながら呼びかけた。
「そんな暗い顔をしていては運が逃げていくだけだぞ。ワハハハハハ」
セバスタは豪快に笑いながら歩いて行く。
肩を叩かれた会員はセバスタの背中を眺める。
「セバスタさん。ご機嫌だな。ギルドがこんな状況だっていうのに」
「あの人はAクラス冒険者だからな。俺達のような平会員と違ってリストラの不安なんてないんだろうよ」
そう言って彼らはますます肩を落としながら廊下を歩いて行くのであった。
事実、セバスタは自身の身の振り方について楽観的だった。
彼は来年で契約切れするものの、契約は問題なく更新されると思い込んでいたし、そればかりか増額もありうると思っていた。
「セバスタさん。法務部の方がお呼びですよ」
「お、来たか」
ロビーで座っていたセバスタは、係員から呼び出しを受けて、その肥満気味の体を大儀そうに起こした。
心躍らせながら法務部に入る。
(さて、ギルドはいくらほど給与を増額するつもりかな? この俺との契約を継続したいのであれば最低でも月100万ゴールドは増額してもらわんことにはな)
セバスタは給与の増額によってできる新たな贅沢について考えを巡らせながら、交渉の席に着くのであった。
しかし、提示された新しい契約書を見たセバスタは、その大きな顔をみるみるうちに赤くし、青筋を立てたかと思うと、部屋を飛び出していくのであった。
「ルキウス!」
セバスタはギルド長の部屋の扉をバァンと勢い良く開けて、肩をいからせながら入室する。
帳簿を見て頭を抱えていたルキウスはギョッとする。
慌てて帳簿を机の下に隠した。
「なんだセバスタ。いきなりドアを開けたりして。ノックくらいしたらどうだ?」
「そんなもんどうでもいいわ! それよりも! なんなんだこの契約書は? 一体どういうことなのか説明してもらおうか」
「なんだ? 一体何が不満だというのだ?」
「なんだもかんだもない。俺の給与を50万ゴールドも減らすとは、一体どういうことなんだ!」
セバスタはルキウスの机に契約書を叩きつけた。
「なんだそんなことか」
ルキウスは疲れた顔をしながら椅子に座りなおす。
「君の耳にも入っているだろう、経営効率化の話は? 君達がダンジョンでヘマをしたせいで、私は今、金策に追われているんだよ。毎月、安定して入っていた収入源が断たれてしまったからね」
「そんなもの、下級職員を給与減額なりクビ切りなりして、費用を捻出すれば済む話だろうが!」
「それだけでは足りないから君の給与を引いているんだよ」
ルキウスはめんどくさそうに言った。
「話がそれだけならもう出て行ってくれないか。先ほど言ったように私は忙しいのだ」
しかしセバスタは納得せず、ルキウスに抗議し続けた。
ついにウンザリしたルキウスは彼を脅すことにした。
「これ以上駄々をこねるようであれば、背反行為とみなし、罰則を適用するぞ!」
しかし、それでもセバスタは自分がいかにこのギルドのために骨身を惜しんで、尽くして来たかを熱弁し続けるため、ルキウスは本当に罰則を適用してしまった。
セバスタは罰金20万ゴールドの支払いと共に自宅謹慎を命じられた。
「こいつをつまみ出せ」
セバスタはルキウスの側近によって無理矢理部屋から追い出される。
「おのれルキウス。貴様がそのつもりならこちらにも考えがあるぞ」
セバスタは再びギルド長の部屋を襲撃し、ルキウスに辞表を叩きつけた。
「また貴様か。一体どういうつもりだこれは?」
「見ての通りだ」
セバスタは意地悪くニヤリと笑った。
「もし貴様が契約を改めて提示しないと言うのなら、私はこのギルドを辞めさせていただく」
「そうか。ではこの辞表を受け取ろう」
ルキウスは毅然とした態度で辞表を手に取り机の引き出しに入れた。
「なっ」
セバスタはワナワナと震える。
「どうした? もうこれで貴様は『金色の鷹』とはもうなんの関係もない。どこへなりとも勝手に行けばいい。ただし、違約金についてはきっちりと支払ってもらうからな」
セバスタの契約はまだあと一年残っているため、今、辞めれば違約金を支払う義務が発生した。
セバスタは顔を真っ赤にしたが、すぐに怒気を引っ込めるとニヤリと意地悪く笑った。
「ふん。後で吠え面をかくなよ」
セバスタはそれだけ言うと、『金色の鷹』を後にする。
実のところ、この時二人の考えていることは全く同じだった。
(どうせすぐに困って向こうから頭を下げてくるだろう)
「くだらん駄々をこねやがって。Aクラス冒険者だからといってなんだと言うのだ。ギルドの力もなしに人を揃えられるのか? 部隊を編成できるのか? アイテムを用意できるのか? 装備を用意できるのか? そもそも違約金すら払えんだろ。誰が金を調達しているから冒険者として食っていけていると思っているんだ? 全く馬鹿馬鹿しい。育ててもらった恩を忘れて図に乗りやがって」
ルキウスは机の上に乗せられたセバスタの辞表に向かってそれだけ言うと、また帳簿を引っ張り出して金策について頭を悩ませるのであった。
セバスタは『金色の鷹』を飛び出したその足で『魔法樹の守人』へと向かった。
(ルキウスめ。強がりおって。しかしそっちがその気なら俺にも考えがあるぞ。『魔法樹の守人』に加入して『金色の鷹』にいっぱい食わせてやるのだ。『魔法樹の守人』なら俺の違約金も支払えるだろう)
実際、ギルド間で人材を引き抜きたい場合、スカウトする側のギルドが本人の代わりに違約金を支払って移籍金がわりにするというのは、冒険者ギルドの間で広く認められている慣習だった。
(『魔法樹の守人』のような二流のギルドなら俺のようなAクラス冒険者をありがたがって受け入れるに違いない。二流ギルドに入らねばならんのは、耐えがたいが止むを得ん。今は不遇を耐え忍び、二流ギルド会員の誹りを甘んじて受け入れよう。そしてルキウスが謝罪とよりよい条件を提示してくるまで待つのだ)
そうして意気揚々と『魔法樹の守人』に駆け込んだセバスタだが、『魔法樹の守人』のギルド長はセバスタの話を聞いてギョッとした。
ギルド長はセバスタのことをてっきりルキウスからの使いだと思っていたのだ。
しかし、実際に話を聞いてみればセバスタはすでに『金色の鷹』を退団していると言うし、ルキウスに一杯食わせようとしていると言う。
(冗談じゃない。これ以上『金色の鷹』との仲をこじらせるわけにはいかない)
今月、『金色の鷹』の快進撃に土をつけた『魔法樹の守人』だったが、ギルド長はいまだに『金色の鷹』とルキウスのことを恐れていたため、セバスタの申し出を断り、来た時と同様丁重に送り返すのであった。
「おのれ! なんだ奴らのあの態度! 二流ギルドの分際で、この俺の申し出を無碍に扱いおって!」
しかし腹を立てていても始まらない。
このままでは、ルキウスから違約金を請求されニッチもサッチも行かなくなってしまう。
業を煮やしたセバスタは、ルキウスに反旗をひるがえすことにした。
セバスタ隊の縁故あるものに檄文を送り、ルキウスの圧政を罵り、各員の蜂起を促した。
全員でストライキを起こし、ルキウスに待遇の改善とセバスタの復帰を要求するのだ。
ところが、セバスタの誘いに乗る者は一人としていなかった。
セバスタの元部下からは以下のような返事が帰ってくるのみだった。
「我々は『金色の鷹』に所属している以上、ギルドからの指令に従わなければならない。セバスタ殿は現在、『金色の鷹』に所属してもいなければ、我々の上司でもない。よってあなたの命令に従うことはできないし、ましてやあなたの指示をギルドからの指令よりも優先することはできない。悪しからずご了承いただきたい」
「ぐ、ぬ、ぬ」
セバスタはかつての部下の中で自分についてくるものが一人もいないことに憤慨しつつも愕然とした。
セバスタの部下達は組織の上下関係であるため、表向きセバスタにおもねっていたが、内心では任務のたびにワガママを言う彼を宥めることにウンザリしていた。
たまに飲みに連れて行ってもらうことがあっても、それすら彼らはパワハラだと感じていた。
肥大したセバスタの自我はもはや部下にとっても迷惑以外の何物でもなかった。
(おのれこいつら。あれほど俺が目をかけてやったというのに。まさかこんな恩知らずな奴らだったとは)
進退極まったセバスタは悩みに悩み抜いた末、ついに一つの妙案を思い出した。
(そうだ。ロランだ。奴は俺に恩があるはず。あいつならなんとかしてくれるかもしれん)
実際には、ロランの方が当時伸び悩んでいたセバスタに躍進のきっかけを掴ませてやったのだが、セバスタの頭の中では、彼の方がロランの世話をしたことになっていた。
セバスタはロランの自宅に向かった。
「ロラン! ロラン! 俺だ。セバスタだ。『金色の鷹』にいた時、世話をしてやっただろう。話がある。ロラン。出てこんか」
しかし、どれだけ家のドアを叩いてもロランは出てこなかった。
その頃、ロランはリリアンヌの家で、恋人同士の甘い時間の続きを楽しんでいる最中だった。
お昼になってからようやく起き始めたリリアンヌが、またロランに甘え始めたのだ。
「リリィ。そろそろ出勤しないと」
「いいじゃありませんか、今日くらい。みんなが慌てふためいている間、私達二人だけ、ゆっくり楽しみま
しょう」
「全く仕方のない女だな。今日だけだよ」
「はい」
リリアンヌはロランの首に腕を回してキスをする。
ロランはリリアンヌの白磁のような背中に手を回して抱きしめる。
彼女の肌の艶やかさと柔らかさは、ロランを心地よい刺激に誘ってくれるのであった。
「ええい。どいつもこいつもこの俺をコケにしやがって」
「セバスタさん? もしやあなた、Aクラス冒険者のセバスタさんではありませんか?」
「誰だ。俺の名を呼ぶ奴は」
セバスタが振り返るとそこには見知らぬ男がいた。
「よかった。やはりセバスタさんでしたか。私、裁判所から派遣されてきた者です」
「裁判所だと!? 裁判所が俺に対して一体何の用だ?」
「『金色の鷹』様より契約違反の訴えが届いております。『貴殿はギルド・冒険者間に結ばれた契約を違反したにもかかわらず、いまだギルドに対してなんらの返事も補償もない。かくなる上は両名裁判所に出廷し、仲裁を求め、公正な判決が下されることを求む』とのことです。そういうわけで、裁判所としましては、両名で和解が成立しない場合、セバスタさんにも弁護士を立てていただいた上で、裁判所に出廷してもらいたく……」
「俺に訴えられるいわれなどない!」
「ちょっ、セバスタさん、何を? グハァ」
セバスタは裁判所からの派遣者を殴ってその場を逃れた。
これにより、セバスタは公務執行妨害の罪により指名手配されることになる。
ギルドへの違約金も払えず、警察にも追われることになったセバスタは、その日のうちに着の身着のままで、冒険者の街から出て行ってしまうのであった。
Aクラス冒険者がギルドに造反した上で罪を犯し、逃亡したというこの不祥事は、『金色の鷹』に衝撃を与えた。