第23話 回復魔法の戦列
ロランがクエスト受付所を通して、新規のメンバーを募集したところ、モニカの噂を聞きつけた腕利きの者達がわんさかやってきた。
Aクラス冒険者と一緒にダンジョンを探索できるという謳い文句は、それほどのインパクトがあった。
クエスト受付所による公式発表はまだだったが、耳聡い冒険者達はどこからともなくAクラス冒険者が誕生したことを聞きつけて、Aクラス冒険者とダンジョンを探索できるこのチャンスにありつこうと部隊への加入を志願してきた。
ロランは彼ら一人一人の現時点のスキルを鑑定した上で、面接し、彼らの望む報酬を聞いた。
彼らの中には冒険者ランクのアップを望む者もいれば、単純に金銭を望む者もおり、さらには特定のアイテム取得を望む者もいた。
事情も様々だった。
ダンジョン出現時には街を離れていたため、攻略に乗り遅れた者、自分の所属しているギルドでは今回は10階層以上に到達できないと踏んで合流した者、あるいは『金色の鷹』への恨みから『魔法樹の守人』の部隊に参加した者などもいた。
数日かけてメンバーを集めたところ、白兵戦部隊も攻撃魔導師も全てBクラス相当の実力を持つメンバーを揃えることができた。
新規メンバーの配備を終えたロランは、脱落した『魔法樹の守人』のメンバーに課題と目標、そして助言を与えて励ました後、部隊を率いて再びダンジョンの入口へと向かった。
ほどなくして、ロランの動向を見張っていた偵察が、コーター三兄弟の下に伝令を届けた。
コーター達は慌てて部隊を招集しロラン達の後を追った。
ロランが着々と部隊の整備を進めている間、コーター三兄弟の方も何もせずただいたずらに時を浪費していたわけではない。
来たる10階層以降の探索に向けて部隊の戦力を増強すべく、ルキウスに追加戦力の配備を要請していた。
彼らはルキウスにダンジョン内で起こったことを正直に話した。
ロランの部隊に所属するアーチャーの一人はAクラスのクエストを攻略した。
さらに彼らは既にガーディアンを攻略して10階層に到達している。
なので今後は10階層が主戦場になることが予想される。
任務を遂行するためにも、急ぎ自分達の下にBクラスの盾隊と白兵戦部隊を配備して欲しい。
さもなければ我々はロランの部隊を追跡するどころか、10階層のモンスターに対抗する部隊強度すら保てず、まともにダンジョン内を移動することすらできないだろう。
この段になって、ようやくルキウスはウィリクの話を疑い始めた。
(ロランの部隊にAクラスのアーチャーだと? バカな。話が違うじゃないか)
もしも特別部隊にBクラスの盾隊と白兵戦部隊を配備するとなれば、現在ダンジョン攻略に取り組んでいる他の部隊の編成にも影響が出る。
戦略を根本的に見直さなければならなかった。
ルキウスはウィリクを呼び出して、この件について問い質した。
「ああ、ロランが嘘をついているんですよ」
ウィリクはしれっとそう言った。
「嘘? しかし、コーター達の報告によるとロランの部隊にはAクラスのアーチャーが……」
「何を言っているんだか。Aクラスのアーチャーなんてそう簡単に育てられれば誰も苦労はしませんよ。私の予想通り、ロランは育成が上手くいっていないようですね。成果を誤魔化すために虚偽の報告までしてみっともないことです」
「そうなのか? しかし、もし何かの間違いでコーター達の言っていることが本当だったとすれば……」
「だからそれもロランの詐術ですって。偽の情報を流してこちらを撹乱しようとしているんですよ。それともなんですか? 私の言うことが信用できないって言うんですか? それならもう結構ですよ。今後、私が『魔法樹の守人』の情報をルキウスさんに教えることは一切ありません。この関係もこれまでにさせていただきます。どうぞロランからの偽情報に踊らされて、予算を無駄に浪費してください」
ルキウスはウィリクがあまりにも自信満々にそう言うものだから、それ以上疑うわけにもいかずコーター三兄弟に対して以下のように指示を出した。
「ギルドに追加の戦力と予算を割く余裕はない。現有戦力のまま、今まで通りロランの部隊を追跡し、彼らのクエスト攻略を阻止せよ」
この命令を聞いたコーター達は愕然として、再度部隊の増強を要請しようとしたが、ロランはその時間を与えず部隊の編成を終えてダンジョンに潜り込んだ。
コーター達はなす術も無いまま脆弱な前衛部隊のままでロランの後を追うことになった。
11階層は久しぶりの遺跡ステージだった。
ここからは人間が住んでいるとは到底思えない巨大な建物もあれば、反対に人間が通るには余りにも狭すぎる穴のような通路を含んでいる建物もあった。
それはオークよりもはるかに背が高く強靭なモンスター、『巨大な鬼』と建物を作り変えるほどの知識と器用さを持つモンスター『知恵を持つゴブリン』がいることの何よりの証だった。
彼らは10階層以前のモンスターよりもはるかに力強かったり頭がよかったりするため、多数の子分を従えることができ、もともと人間が住んでいたはずの遺跡を自分達にとって住みやすいよう、あるいは人間を迎撃しやすいよう建物を改造することまでしていた。
ショートカットの指輪で11階層に到達したロランの部隊とコーターの部隊は、ダンジョンの空気からこれまでとは段違いに強い敵がいることを感じて、誰もが気を引き締めた。
「モニカ。『ホークアイ』を」
「はい」
ロランが命じるとすぐにモニカは『ホークアイ』に視点を切り替える。
Sクラスとなった彼女の『ホークアイ』はこの階層の全てを見渡すことができた。
入り口から出口までのマップに加えて、どこにどのモンスターがうろついているかまで把握でき、どのルートを通ればモンスターに遭遇せずに出口まで行けるか、あるいは目当てのモンスターと遭遇することができるかまで詳らかに知ることができた。
さらに風の流れまで見ることができるようになった彼女は、その淀みから建物の中に隠れているモンスターさえ見つけることができた。
窓から道路に向かって弓矢や吹き矢を構えているコボルト・ゴブリン。
上階から道路に飛び降りようとしているオーガ。
そしてこれらのモンスターを射撃できる角度、ポイントまでつまびらかに知ることができた。
(凄い。これが『ホークアイ』の本当の力。ダンジョンに潜伏しているモンスターの動静が手に取るように分かる。これなら自分の思い通りのプランでダンジョンを攻略できる)
「モニカ。どうだい? 出口までのルートは見えたかい?」
「はい。出口までのルートは大きく分けて三つです。一つは一匹もモンスターに遭遇しないルート。もう一つは遭遇数が非常に多いルート。もう一つは潜んでいるモンスターが非常に多いルートです」
二人は後ろのコーターの部隊に聞こえないよう顔を近づけてヒソヒソと話した。
「よし。よくやったモニカ。それさえ分かればダンジョンは攻略できたも同然だ。それじゃもう少し難しいことを聞いてもいいかい?」
「はい。なんでしょう?」
「単にダンジョンを攻略するだけじゃなく、後ろにいる奴らを撒きたい。そのためには彼らの足を止める必要がある。上手いこと後ろの部隊にだけ、モンスターを当たらせることができる、そんなルートはあるかい?」
「待ってください。探してみます」
モニカは再び『ホークアイ』に視点を切り替えて、ルートを探ってみる。
「ありました。三つのルートのうち、潜んでいるモンスターが多いルートを辿れば、いくつかのポイントでモンスターが背後から奇襲を仕掛けてくると思われます。そのポイントで駆け出せばあるいは……」
「よし。よくやった」
ロランはモニカの肩をポンと叩いた。
「……はい」
モニカはちょっとだけ頰を赤く染めて俯き、返事した。
今では彼女の中で新しいモチベーションが生まれつつあった。
ロランの役に立ってより強く認めてもらうこと。
それが今の彼女のささやかな幸せだった。
(もっと頑張ってもっと役に立てれば、ロランさんも私のこと見てくれるかな)
「おーい。隊長さんよ。いつまでヒソヒソ話してんだ。こうして待っている間にも体力は消耗されるんだ。いい加減、先へ進もうぜ」
新規に募集したメンバーのうちの一人が不満を漏らした。
「ああ、待たせてすまない。それじゃ進もうか。モニカ」
「はい」
おもむろにモニカは弓矢を上空に構え曲射した。
彼女の矢は放物線を描いて、部隊のすぐそば、目と鼻の先にあるダンジョンの入り口の門、その向こう側にいる『知恵のあるゴブリン』に命中した。
『知恵のあるゴブリン』は一撃で絶命して、倒れ、部隊の前にその手に持っている毒槍と共に姿を晒した。
その場にいた者達は全員真っ青になる。
(ダンジョンの入り口に毒槍持ちの『知恵のあるゴブリン』かよ……。えげつねぇ。もし、迂闊に進んでいたら少なくとも誰か一人はあの毒槍の餌食に……)
(いや、それよりもこの女、完全な死角に潜んでいた敵を一撃で仕留めた。これがAクラスアーチャーのスキルなのかよ)
新人は入り口に潜んでいたゴブリンにもモニカに対しても恐れを抱くのであった。
「では、行きましょう。私が先導します。皆さん、ついてきてください」
モニカは高らかにそう宣言すると部隊の先頭にたってダンジョンを進んで行く。
部隊は静かに粛々と進んだ。
モニカが進んでいる間はそのまま歩き、彼女が止まると部隊もストップする。
止まると彼女はおもむろに矢を構えて建物の影や内部に潜んでいる敵を射殺した。
敵を矢で殺せない時には盾隊に敵の場所を教えて盾を構えさせながら進ませ、モンスターを追い詰めて、殺した。
全ては彼女によって裁量された。
部隊の他の人間はただただ彼女の指示に従うに過ぎない。
ある時、モニカは5匹ほどのコボルトが建物を陰に迂回して部隊の側面に回り込むことをホークアイで捉えた。
(! コボルトが動いた。回り込む気だ!)
弓矢や毒矢を装備している。
「ロランさん。このまま進んでください」
モニカはそれだけ言い残すと、『サイレントラン』で部隊を離れて、コボルトが陣取ろうとしている場所に先回りして、掃討した。
その後、何事もなく部隊に合流する。
こうして部隊は不気味なほど何事もなく着実にダンジョンを進んで行った。
このように伏兵の多いこのルートでは基本的に射撃戦だけで事足りたが、どうしても白兵戦の避けられない場所があった。
それがこの勝者の門である。
広場を超えた先に構えるこの巨大な門には巨大な鬼の紋章が刻まれており、その先に何が待ち構えているのかをはっきりと示していた。
モニカは曲射して門の向こうに矢を放ったが、どうやら敵は盾を持っているようで、どれだけ矢を放り込んでも門を開け、撃って出てくることはなかった。
「モニカ。敵の構成は分かるかい?」
「はい。少し待ってください」
モニカが『ホークアイ』で調べたところ、敵の構成は、オーガ3体に、オーク15体、人狼(アジリティに優れるだけでなく、攻撃時には二足歩行になり武器を使ってくる)10体、盾を弾く雄牛(突進してダメージを与えるだけでなく、高確率で盾持ちを吹き飛ばして戦列を乱すことができる)5体、疾風を起こす鷲(その羽ばたきは三度に一度強風を巻き起こして部隊を動けなくしたり、弓使いの放つ矢を反らせたりする)5体ということだった。
特に厄介なのは巨大な鬼と盾を弾く雄牛だった。
盾を弾く雄牛は突進でこちらの戦列を乱してくるため、幻影魔法か地殻魔法などの搦め手系支援魔法によって食い止めなければ、後衛の魔導師や弓使いに直接攻撃される恐れがあった。
盾を弾く雄牛は一塊になって突っ込んでくる習性があるため、シャクマの支援魔法で対応できるとして、オーガは三体それぞれバラバラに攻撃してくる恐れがあった。
オーガの攻撃力は桁外れで、一度に二、三人をまとめて攻撃できるだけでなく、一撃でフル装備の戦士の体力を激減させる。
Bクラスの盾持ち戦士であっても体力の半分以上は削られてしまうだろう。
つまりオーガを倒すには、広範囲に回復魔法をかけられる治癒師がどうしても必要だった。
ロランはこのことにも対策をしていた。
「ユフィネ。打ち合わせしていた、あれをやってみようか」
「はい」
ユフィネには『銀の杖』を与えたものの、命中率の向上は限定的で、結局、部隊全体を一度に回復させる方法は見つからなかった。
そこで発想を転換して、戦闘中の白兵戦部隊に回復魔法をかけるのではなく、あらかじめ発動させた回復魔法の魔法陣に白兵戦部隊が陣取るという方法を試してみることにした。
ユフィネの魔力自体は常人を遥かに超えるキャパシティなので、戦闘中、回復魔法を発動させていても魔力が尽きることはなかった。
つまり白兵戦部隊は戦闘中、常に回復しながら戦えるはずだった。
残る懸念は発動した広範囲回復魔法が綺麗に戦列を形成できるかどうかである。
ロラン達の部隊は広場に足を踏み入れ門に向かって進み、白兵戦を受けて立つ構えを見せた。
広場の半ばを過ぎたところで突然門が開き、モンスターがなだれ込んでくる。
部隊は敵の構成と戦列を見て、素早く展開した。
出て来たモンスターはあらかじめモニカから聞かされていた通りの構成だった。
先鋒は盾を弾く雄牛だった。
予想通り、5体で固まって、右翼の方に突っ込んでくる。
その次はオーガだった。
三体の重厚な盾を構えたオーガは門を通り抜けると、散開して、それぞれ右翼、中央、左翼に襲いかかって来る。
その後ろには人狼、アーマード・オーク、疾風を起こす鷲が控えていた。
「シャクマ、右翼に『地殻魔法』を展開! 白兵戦部隊はユフィネの回復魔法に沿って戦列を形成! モニカは対空迎撃だ!」
「「「はい!」」」
ロランが矢継ぎ早に指示を出すと、部隊のメンバーは次々に配置を変え、命令を忠実に実行していく。
シャクマは右翼の先頭に立つと、『地殻魔法』を発動させた。
『地殻魔法』は何の変哲も無い地面を盛り上がらせて、堡塁を出現させる魔法である。
『地殻魔法』によってラッシュ・ブルの進撃を食い止める作戦は特に何の弊害もなく上手く行った。
前方への推進力はあるが、一度走り出すと止まることのできないラッシュ・ブルは、堡塁の前に尽く激突してその場に昏倒し、後ろのモンスターの足まで止めて渋滞を引き起こした。
こうしてシャクマは右翼にかかりきりとなったため、中央と左翼の命運は、新しく刷新された盾隊とユフィネの回復魔法に委ねられた。
「行きます。『広範囲回復魔法』!」
ユフィネは部隊全てをカバーできる規模の回復魔法陣を発動した。
しかし発生した数十の魔法陣はてんでバラバラの位置に発生して、列すらまともに形成していなかった。
白兵戦部隊に緊張が走った。
このままでは回復魔法の援護なしでオーガの攻撃を受けなければならない。
(くっ。ダメか)
ユフィネは歯噛みした。
「もう一度だ!」
ロランが叫んで激励した。
「はい。『広範囲回復魔法』!」
(お願い。命中率が悪いならせめて一列に並ぶくらいのことはしてよ)
ユフィネは祈るようにして杖の先から魔力を発する。
彼女の杖が光り、地面に多数の魔法陣が散りばめられた。
今度は数十の魔法陣が整然と並び、重なり、帯状を形成した。(全く見当はずれな場所で発動しているのは一つか二つ程度だった)
これなら、回復魔法を受けつつ戦列を形成することができるだろう。
「よし。行け!」
ロランの号令を合図に盾持ちの戦士達が、回復魔法陣を占拠して、自身は回復の恩恵を受けつつ、敵に回復の恩恵が渡らないようにした。
オーガが盾隊に向かって巨大な棍棒を振り下ろした。
金属同士が激しくぶつかり合う音が聞こえて、オーガの攻撃を受けた盾持ちの戦士達は内臓にに圧迫を受け、血を吐くほどの衝撃だったが、瀕死には至らずすぐに回復魔法によって全快した。
次にオーガは盾をぶつけて盾隊を魔法陣からズラそうとしたが、盾隊の者たちは3人がかりでオーガの体重を乗せた攻撃を受け止め、その場に踏みとどまった。
そのうちに攻撃魔導師が高火力の魔法をオーガに食らわせる。
爆炎をまともに食らったオーガは怯み、さらに盾隊が槍を浴びせたため、その場に膝をついて体勢を崩し、一旦後ずさりするしかなかった。
オーガ以外のモンスターも戦列に突っ込んでくるが、回復魔法の加護を受けた盾隊はモンスターからの攻撃を尽く跳ね返した。
(よし。いける)
ロランはこれがユフィネの回復魔法を最大限、有効活用できる戦術だと確信した。
(戦術は固定しない。メンバーのスキルに合わせて最適な戦術を導き出す。これが僕のやり方だ)
右翼で盾を弾く雄牛の進撃を阻んだシャクマは焦ったい気持ちだった。
『地殻魔法』を発動したため、また彼女の鎧は重くなり、動けなくなっていた。
(くっ。今、『幻影魔法』をかけられれば逆にラッシュ・ブルを敵に向けて、突進させられるのに。また鎧が重くなって動けなくなりましたよ。先に『幻影魔法』から発動すべきでしたか。いやしかしそれでは突撃に間に合わないし)
今回もロランの要求する一度に三種類の支援魔法を発動させるという要求を満たすことはできそうにない。
シャクマがスキルの構成について考えを巡らせていると、剣を装備した戦士達が駆け寄って来た。
シャクマは仕方なく思考を中断して彼らに攻撃支援魔法をかける。
攻撃支援魔法をかけられた者達は赤く輝きながら、敵の最も弱い部分を切り開いていく。
地上部隊の攻撃が尽く失敗に終わったモンスター達は最後の頼みの綱として、疾風を起こす鷲による空からの後衛部隊への攻撃にかけたが、モニカはあっさりとゲイル・イーグルを迎撃した(疾風を起こす鷲の羽ばたきは三度に一度強風を巻き起こして部隊を動けなくしたり、弓使いの放つ矢を反らせたりするが、『ホークアイ』を使えるモニカには何の問題にもならなかった)。
その後は、シャクマの『地殻魔法』で出現した堡塁の上に乗り(シャクマはモニカがゲイル・イーグルを撃ち落としている間、『地殻魔法』を発動し続け、今や堡塁は建物一階分の高さになっていた。堡塁は敵側に対してはただただ聳え立つ壁を見せるだけだが、味方側の壁には天井に登るための階段が付いていた)、ラッシュ・ブルを一匹ずつ仕留めた後、オーガも一匹ずつ仕留めていった。
その後は盾隊も剣を抜いて、残ったオークやウェアウルフといったモンスター達を掃討していき敵を全滅させた。
ボトルネックであった白兵戦を制したロラン達は再びダンジョンを進んだが、今度はコーター三兄弟からの妨害が激しくなって来た。
彼らは行軍中であるにもかかわらず、ロラン達の部隊の最後尾に体をぶつけてきたり、罵声を浴びせたり、喧嘩をふっかけてきたりといった違法すれすれの行為をしてきた。
彼らは先ほどのロラン達の戦いぶりを見て焦っていた。
ロランの部隊は以前とは比べ物にならないほど、充実している。
もはやCクラス、Bクラス程度のクエストを攻略するのは時間の問題のように思えた。
かくなる上は、せめて行軍の進行を遅らせて体力を消耗させるしかなかった。
新規のメンバーは彼らの露骨な妨害にイライラして苦情を言いに行く者もいないではなかったが、その度にロランは自制を促した。
ある時、突然、モニカが合図すると、ロランの部隊はそれまでのようにゆっくり歩くのはやめて、全速力で駆け出した。
慌ててコーターの部隊も後に追いすがろうとするが、その時、突然、背後からモンスターに襲われる。
彼らはロラン達を追いかけようと前のめりになっていたため、突然背後からの攻撃にさらされ、動揺し、混乱した。
コーター達はどうにか事態を収拾し、部隊に落ち着きを取り戻させたが、敵にはウェアウルフも含まれており、とても振り切れそうにないので、やむなく部隊を展開して応戦することになった。
そうしてコーター達が戦っているうちに、ロラン達の部隊は全速力でダンジョンを進み、敵の部隊を引き離した。
コーターの部隊は敵を倒した後、どうにかロラン達を追尾するべく、なるべく速く行軍しようとしたが、先ほどまでと違い、モニカの『ホークアイ』による加護を受けられなくなったので、奇襲や伏兵に対応できなくなり、少し進んでは敵に手を焼かされるの繰り返しで行軍は遅れに遅れた。
何よりも彼らはオーガが怖かった。
彼らの脆弱な部隊でオーガに遭遇しようものなら、盾隊は一撃で破られてしまい、撤退を余儀無くされるであろう。
恐怖は彼らの足を遅くして、焦りは彼らの体力を削り取った。
ロラン達はモニカの先導と加護の下、着々とダンジョンを無傷で進んだため、この階層の出口にたどり着いた時には、コーターの部隊とはおよそ1キロ近く離れていた。
ロラン達は12階層への転移魔法陣を開いてその先へ進んだ。
ダンジョンに潜り込んでから24時間が経っていた。