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追放されたS級鑑定士は最強のギルドを創る  作者: 瀬戸夏樹
第一章、冒険者の街編
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第16話 弓使いの育成

『精霊の工廠』の窯室では今日も精錬士達が忙しく立ち働いていた。


 アーリエは配下の作業員達に指示を出しながら、釜の中で精錬されていく、鉱石に目を光らせる。


『精霊の工廠』に来た当初はなんの取り柄もない彼女だったが、今となっては、五つの窯、五人の錬金術師を管理する一流の精錬士だった。


「1号の窯と2号の窯を止めて下さい」


 アーリエが指示を出すと窯の前で作業していた者がいそいそと火を止めて、鉱石を取り出し、アーリエの元に持ってくる。


(これはもう銀Bにしかならないな。こっちは銀Aになりそう)


「こっちは銀Bにしかならないのでもう最後まで精錬しちゃってください。こっちは銀Aになるので、私が鍛えます」


 アーリエは銀Aになりそうな鉱石を金具で削ったり叩いたりして余計な不純物を落とすと、また窯に入れ直すよう指示する。


 最後まで精錬が終わると、見事な『銀A』が取り出される。


 作業員達は出来上がった銀の質の高さに感嘆の声を上げた。


「おお。また銀Aだ」


「もう今日だけで10個以上出たんじゃないか?」


「やっぱり敵わないな。アーリエさんには」


「ああ、それだけにギルドに戻らなければいけないのは残念だ。アーリエさんからもっと色々学びたかったのに」


 アーリエはその眺めを少し不思議な面持ちで見ていた。


 彼らは大手ギルドから出向してきた、街でも名うての錬金術師であるにも関わらず、自分と同じことができる者は一人もいない。


(結局、誰も私より上手く精錬できなかったな。大手錬金術ギルドっていってもこんなものなのね)


 今までどこかピンと来なかったアーリエだが、彼らと一緒に働くようになり、ようやく自分が街で一番の精錬士になったのだということを実感しつつあった。




「精錬の方はどう?」


「順調です。相変わらずの安定感ですよアーリエさんは」


 ロランはランジュと控え室で話し合っていた。


 ランジュから提出された生産結果に目を通すと、彼の言う通り、『銀A』と『アースクラフト』の生産は順調に進んでいるようだった。


「ん。さすがアーリエだな」


「ただ、ゼンスさんのギルドから派遣されてきた人達が帰るので、来週からは生産の遅れが予想されます。スタッフは調達できそうですか?」


「ああ、いくつかの工房に打診してみたところ、精錬士と採掘者を出向させると言ってくれたよ。とりあえず人数は集まると思う」


「ホントですか? 良かった」


 ランジュはホッと胸をなでおろした。


 ルキウスは傘下の錬金術ギルドに『精霊の工廠』との協業を禁止したが、末端の零細ギルドにまではその効果は行き渡らなかった。


『金色の鷹』が直接傘下にしているギルドであれば、その威令に服さざるを得ないが、今にも潰れかけの零細ギルドからすれば、知ったことではない。


 そもそも彼らが潰れかけているのは、ルキウスによる過剰な買い叩きのせいでもあった。


「さすがにゼンスのギルドから派遣されてきた人達よりも質は落ちるけれど、いけるかい?」


「大丈夫です。人手さえ集まれば、どうにかしてみせますよ」


「ありがとう。君がいてくれて本当に良かった」


 こうして後顧の憂いを断ったロランは、特別顧問の任務に専念することにした。




 リリアンヌは『魔法樹の守人』のギルド長に来月の予算申請を提出していた。


「ギルド長。来月分の部隊の予算です。承認お願いいたしますね」


「リリアンヌ君。例の特別顧問の件なんだがね」


 ギルド長はいつものオドオドした調子で話し始めた。


「やはりルキウスの要求に従った方がいいんじゃないかな。ウィリクからの報告によると、育成に関してもロランの手腕は疑問が多いと言うことじゃないか。それにやはり『金色の鷹』と真正面から対立するのは得策でないように思うのだが……」


「ギルド長!」


 リリアンヌは机をバンと叩いて身を乗り出した。


 ギルド長はビクッとする。


「我々はもう育成に力を入れるしかないのですよ? ここでロランさんを手放せば、永遠に『金色の鷹』に対して優位に立つことはできません」


「うう、しかしだね……」


「もし、どうしてもロランさんを手放すと言うのであれば、先に私を解雇してください。そうすれば私はロランさんと一緒に冒険者ギルドを立ち上げます」


「うう。分かったよ。もうしばらく様子を見よう」


 リリアンヌはギルド長の部屋を出て、溜息をついた。


(やれやれ。ロランさんを特別顧問に任命するだけでこの有様。先が思いやられますね)


 リリアンヌはついつい壁にもたれかかってしまう。


 彼女は関係各所を回って、根回ししたため、少し寝不足気味だった。


(けれどもここで頑張らなければ今までの努力がすべて水の泡。私がロランさんを支えないと)


 リリアンヌは少しだけ目をつぶって休むと、気合を入れ直して壁から離れた。




 新しい月が始まった。


 街の外れには三つの新たなダンジョンが出現する。


 一つは獣が住む『森のダンジョン』、一つは死人が住む『鉱山のダンジョン』、一つは魔族が住む『魔界のダンジョン』。


 冒険者達はこぞって自分のランクにあった、おいしいクエストはないかとクエスト受付所に殺到し、アイテムの欲しい人間はクエスト受付所にアイテムを求める旨のクエストを依頼した。


 一般に公開されるクエストがある一方で、ギルド向けに公開されるクエストもあった。


 美味しいクエストのほとんどは、街の勢力を二分する、『金色の鷹』と『魔法樹の守人』に向けて先に公開される。


 二つのギルドは現れたダンジョンとクエストを吟味しつつ、部隊の編成に取り掛かった。


『魔法樹の守人』では専らリリアンヌの指揮する主力部隊が、現れた三つのダンジョンのうち、どのダンジョンを攻略するかについて協議された。


『魔法樹の守人』幹部に加えて、特別顧問のロランもダンジョン攻略会議に出席する。


「私は『鉱山のダンジョン』を攻略するつもりです」


 リリアンヌは言った。


「目下、私達『魔法樹の守人』の目標は『精霊の工廠』の規模を大きくすることです。それに必要なのは鉱石を入手すること。そのためにも私達はダンジョン内に多数の鉱石が採れる『鉱山のダンジョン』を確実に攻略するべきです」


(確かにルキウスに鉱石の入手ルートを締め上げられている今、鉱石を採れるダンジョンを『金色の鷹』に奪われれば終わりだ。『鉱山のダンジョン』を攻略するのが最優先か。でもそれは当然、ルキウスも考えているはず)


「ロランさんはどのように思われますか?」


 ロランが物思いに耽っているとリリアンヌが話を振って来た。


「ええ、私も鉱山を取るのがベストだと思います。ただそれは『金色の鷹』も承知の上。おそらく激戦になりますよ?」


「覚悟の上です」


 リリアンヌはどこか凄みのある笑みを浮かべた。


「そうですか」


(リリアンヌさんがそう言うなら僕は信じるしかないな)


「では僕は育成に集中させていただきます。『森のダンジョン』に伸び悩み組を連れて……」


「あのー。ちょっといいですか?」


 ロランが自分の計画について話そうとしたところで、ウィリクが話を遮って手を挙げた。


「……何かな?」


「やっぱり思うんですよ。いきなりやってきたロランさんに育成の全てをお任せしていいものかな、と。いえね。ロランさんにプレッシャーをかけ過ぎるのはよくないと言う意味で」


「ウィリク。その話はもう終わったはずでしょう? ロランさんは……」


「なのでですね。思うんですよ。私とロランさんで責任を半分ずつにしてはどうかと」


 リリアンヌが口を挟むのも気に留めず、ウィリクは話を続けて、提案した。


「どういうことですか?」


「つまりですね。私とロランさんで半分ずつ伸び悩み組の面倒をみようというわけですよ。それでどちらの指導が優れているか試してみましょうよ。勝った方が今後のギルドの育成方針において主導権を握るということで」


「いいじゃないか。それ」


 先程まで額の汗を拭いてばかりいたギルド長が突然、賛同の意思を示した。


 リリアンヌがギルド長を睨むと、彼はサッと目を逸らした。


 しかし撤回することはしない。


 実のところ、この提案はウィリクとギルド長の二人であらかじめ示し合わせた上でのものだった。


 その思惑は以下のようなものである。


 ロランが勝ってギルドの強化につながればそれはそれでいいし、ウィリクが勝てばそれはそれで、ロランを冷遇したという事実ができて、『金色の鷹』との関係を維持できる。


 どちらに転んでもギルドの安泰を図れるというわけだ。


 さらに言えば、リリアンヌへの牽制という意味もあった。


(最近のリリアンヌは増長しすぎだ。ここいらで少しへこませて大人しくなってもらわんとな)


「いいですよ」


 ロランはさらりと言った。


「おお、ロランさんもそう言っていただけますか」


「ただし、表向きこのような勝負があったとは会員に伝わらないようにしてくださいますか? ただでさえ伸び悩んでいる彼らに余計なプレッシャーを与えたくないので」


 こうしてロランとウィリクの間でそれぞれ指導を担当する冒険者を半々に分け、今月中にそれぞれの担当した冒険者がどれだけ成長したかで競い、負けた方が勝った方の方針に従うということで合意した。




『魔法樹の守人』がダンジョンの攻略及び、育成方針について固めている頃、『金色の鷹』でもダンジョン攻略会議が行われていた。


『金色の鷹』のダンジョン攻略会議はAランク冒険者と部隊長のみが参加を許される、実質的な最高決定機関でもあった。


 先月、『魔法樹の守人』に一矢報いられたこともあって、今月こそは三つ全てのダンジョンを攻略せんと意気込む面々であったが、会議はのっけから紛糾した。


「ルキウス、これは一体どういうことだ?」


 Aランク冒険者にして『金色の鷹』第一部隊隊長のアリクはルキウスの部隊編成案について問い詰めていた。


「何か不服があるのかね?」


「不服も何もないだろ。Bランクの弓使い(アーチャー)及び支援魔導師、治癒師ヒーラーを主力部隊から根こそぎ外すなんて。射撃要員も支援要員も回復要員もCランクでダンジョンを攻略しろっていうのか?」


「Bランクの弓使い(アーチャー)、支援魔導師、治癒師ヒーラーについては別に重要な任務がある」


「重要な任務? ダンジョン攻略以上に重要な任務など……」


「アリク。君はいつから部隊の人事に口を出す立場の人間になった?」


「……」


「君はダンジョンを攻略することだけを考えていればいい。そもそもだ。最近の君達は『金色の鷹』の組織力に甘えすぎではないかね?」


「なに?」


「常日頃からバックアップを受けていて、勘違いしがちだが、Bクラス冒険者など、そうホイホイ用意できるものではない。君達は部隊をBクラス冒険者で固めなければダンジョンの攻略も出来ないのかね? 『金色の鷹』の部隊長ならば、ダンジョンを攻略しつつ、部下の育成もこなす。そのくらいしてみせろ」


「そうだぜ。アリク。何をビビってんだ?」


 同じくAランク冒険者にして部隊長のセバスタが椅子にふんぞり返りながら言った。


「別に俺はビビってなど……。ただ、もっと慎重にだな……」


「『魔法樹の守人』の主力部隊もリリアンヌ以外はBクラスCクラスの混成部隊。大した脅威ではないだろ」


「……」


「それともなんだ? 俺の第二部隊がお前の代わりに『鉱山のダンジョン』を担当してやろうか?」


「……っ」


 セバスタは実力こそAランク冒険者なものの、やや自信過剰気味なところがあった。


 そしてアリクに対してライバル意識を持っているためすぐにマウントを取ろうとした。


 アリクとしてもこうもあからさまに挑戦されては引き下がるわけにはいかない。


「他に異論を唱える者はいるか? いないな? ではダンジョン攻略会議は以上だ。各々、『金色の鷹』の名に恥じぬよう奮闘するように」


 アリクが黙り込んだのをいい事に、ルキウスが会議を終わらせてしまう。


 アリクはまだ言いたいことがあったが、歯噛みするしかなかった。


 最近、アリクはこの二人にやり込められることが多くなっていた。


 以前はマルコが慎重論を唱えてくれたため、二対二に持ち込むことができたのだが。


 こうして二つのギルドは、両陣営ともに対立と不安を抱えたまま、ダンジョンの探索が開始するのであった。




 ロランは『魔法樹の守人』の1部隊を率いるべく、『森のダンジョン』の前に来ていた。


 エース候補のモニカ、シャクマ、ユフィネの3人もいる。


 この3人には、部隊の集合に先立って集まってもらっていた。


 ロランは3人が集まっているのを見て説明を始める。


「よし。それじゃあ説明するよ。今回のダンジョン探索は攻略が目的ではなく、部隊の育成にある。さらに言えば君達3人の育成だ」


 三人は一様に緊張した顔つきになる。


「僕は君達三人にはAクラス冒険者になる資質があると思っている。もちろん今の段階では資質だけで可能性に過ぎないけれどね」


 三人はまだピンとこない様子だった。


(無理もないな。今までずっとDクラスだったんだ。少しずつ自信を高めていくしかない)


 ロランはとりあえず三人の気負いを解くことから始めることにした。


「とりあえず三人とも久しぶりの職業だし。まずはそれぞれの職業について復習しておこうか。モニカ。弓使い(アーチャー)の役割は?」


「はい。弓使い(アーチャー)の役割は主に三つです。白兵戦前の射撃戦での敵戦力削減。上空から攻撃してくる敵の迎撃。そして白兵戦中の援護射撃です」


 彼女は突然のコンバートであるにも関わらず、スラスラと模範的な解答をした。


 おそらくこの日に備えてキッチリと予習・復習してきたのだろう。


 彼女は真面目な性格のようだった。


(でも……私は援護射撃ができないんだよね。俊敏性アジリティがないからいつも優位なポジションを取れなくて……)


 モニカはそう考えて、暗澹たる気持ちになる。


「うん。その通りだ。しかし君には俊敏性アジリティがない。そこで君は援護射撃を捨てて、白兵戦前の射撃と上空戦力の迎撃。この2点に絞ってもらう」


「えっ!?」


「そのための装備も用意して来た。これを」


 ロランはモニカに弓矢を渡す。


 それは丈の長さが彼女の身長ほどもある巨大な鉄製の弓だった。


「これは『鉄破弓』!? それもドーウィンの作った限定モデル……」


「手に入れるのに苦労したよ」


 ロランは『鉄破弓』を手に入れるために街中の店を走り回る羽目になった。


(重い)


 モニカが『鉄破弓』を持つと普通の弓矢よりもずっしりとした重量感を感じた。


 腕力パワーの高い彼女でも重く感じる。


「正面からの射撃戦と対空射撃なら俊敏性アジリティはほとんど関係ない。その代わりに火力と射程距離、そして連射性能がモノを言う。それらを発揮するためにその『鉄破弓』は最適だよ」


 モニカはロランのことを不思議そうにマジマジと見た。


(援護射撃を捨てるなんて。こんな指導する人初めて)


 そうこう言っているうちに部隊のメンバーが集まって来た。


『魔法樹の守人』のメンバーの他、この日のために臨時で雇った者達もいる。


「他のメンバーも集まって来たようだな。さ、それじゃ時間が惜しい。早速、ダンジョンに行こう」




 ダンジョンに入ったモニカは両脇を盾役の戦士ウォーリアーに守られながら進んだ。


 側面からモンスターが現れて、不意打ちされても両側の人間が対応してくれる。


 これで彼女は俊敏性アジリティの不利を気にすることもなく、正面の敵に集中することができた。


 モニカは森の中を進みながらロランに言われたことを思い出した。


「まずは弓の射撃だけに集中してくれ。前面の敵に矢を当てること。それだけでいいから」


 ロランはまずモニカに弓射撃のスキルを伸ばしてもらおうとした。


 そのこと以外には、何一つ彼女のスタミナを使わせない。


(本気なの? 弓使い(アーチャー)に援護射撃させないなんて……)


 モニカはいまだ半信半疑のまま、ダンジョンを進んで行く。


 と、その時一行の前にモンスターが現れた。


 ゴブリン三匹だった。


 距離は50メートル先といったところだろうか。


 彼らもモニカ達に気づいたようだった。


 武器を構え、こちらに向かって走り出して来る。


 両脇の戦士ウォーリアーが武器を身構える。


 モニカは弓に矢をつがえ、ゴブリンに向けて構える。


(っ。固いっ)


 モニカは久しぶりに引く弦の固さと反動の強さを感じながら、矢を引き絞る。


 狙いを定め、矢を放つ。


 外れる。


 矢はゴブリンの一匹の脇を通り過ぎていった。


 2本目。


 今度は当たった。


 肩に矢を受けたゴブリンは仰向けに倒れて、もがき苦しむ。


 モニカの腕力パワーと『鉄破弓』の弾力が合わさった一撃は、ゴブリンの進撃を止めるのに余りある威力だった。


 モニカは次々と矢を放ち続ける。


 二匹目は膝に当たった。


 ゴブリンは膝を抑えてうずくまる。


 三匹目はもう目と鼻の先にいた。


 矢をつがえる暇はない。


 モニカは弓を下ろして後ろに下がる。


 後は白兵戦部隊の仕事だ。


 彼女のいたポジションには、後ろに控えていた戦士ウォーリアーが入り、対応する。


 戦士ウォーリアーの人々は難無くゴブリンを押さえつけ、倒してしまう。


 矢を受けて転がっている二匹のゴブリンにもトドメを刺す。


 モニカは一仕事終えて、ホッと一息つく。


「お疲れ。モニカ」


「ロランさん」


「4本中、2本命中か。久しぶりの実戦にしてはいい感じじゃないの?」


「ありがとうございます」


 モニカはロランの言葉にホッとした。


(Aクラスの弓使い(アーチャー)になれる、なんて言うから一体どんな大変なノルマを課されるのかと思ったけれど、意外と普通だ。これならなんとかなりそう。よかった。ロランさんが常識的な人で)


 内心、先行きが不安で仕方がなかったモニカは、当面はロランの指導についていけそうで、とりあえず安心した。


「でも、ゆくゆくはもっと命中率、発射速度、射程を上げなくちゃいけないよ」


「はい」


「しばらくはこのフォーメーションで行くから、君は弓使い(アーチャー)としての実戦感覚を取り戻すことと、『鉄破弓』に慣れること。この二つに集中して」


「はい」


 一行が進んで行くと、今度はゴブリンが10匹現れた。


「白兵戦部隊展開! 回り込ませるな」


 ロランが叫ぶと、白兵戦部隊は横一列に広がって、敵が側面に回り込めないようにした。


 モニカは弓矢を構える。


 矢を放ったところ、また2匹に命中して戦闘不能にした。


 今度は3本の矢でできたが、そこまでだった。


 ゴブリンの間合いに入られる。


 モニカは後衛に下がった。


 後は白兵戦部隊に委ねるしかない。


 弓使い(アーチャー)の攻撃は直線的なため、後衛に回ればそれ以上は何も出来ない。


 下手に矢を放てば、前衛の味方に当たるからだ。


 そのため、本来は側面に回り援護射撃するべきなのだが……。


「あの、ロランさん。本当にいいのでしょうか。私何もしなくて」


 モニカはロランと一緒に白兵戦部隊が戦っているのを後ろから見ながら言った。


「ああ。後は彼らに任せよう」


「でも……」


「今回の探索は君達のスキルを伸ばすことがテーマだ。君はスキル『弓射撃』を磨く以外のことで、一切スタミナを使ってはいけない。いいね?」


「うっ。はい」


「まだまだ、君の弓射撃には向上の余地があるはず。そうだな……」


 ロランはモニカにいくつかのアドバイスを授けた。


 前方にいる敵のうち一番近い敵から狙うこと、矢を構えるまでの初動を限りなく速くすること(そのために進む最中も重心を意識しながら進むこと)、矢を放った後もすぐに次の矢をつがえられるように意識すること。


「とりあえずこんなところかな」


「分かりました。やってみます」


「当面の目標は白兵戦前に4匹に矢を当てることだ」


「はい」


 そうこうしているうちに白兵戦部隊はゴブリンを全て仕留めていた。


 部隊はまたモニカを先頭にしてダンジョンを進む。


 その後もモニカは前方の敵に矢を放ち続けた。


(本当に矢を放ってばかり。こんなに射撃にばかり集中したのは初めて。でも……)


 モニカは弓に矢をつがえて、ゴブリンを狙う。


 今回も現れたのは、10匹のゴブリンだった。


 しかし、3匹は既にモニカの矢の餌食になっている。


 接敵までまだ距離があった。


(これなら難しくない。全然いける)


 モニカの放った矢がゴブリンの顔面に当たる。


 ゴブリンは仰向けに倒れた。


(できた。接敵までに4匹に矢を当てることが……。本当に私がAクラスの弓使い(アーチャー)に?)


 彼女は一瞬信じかけてしまった。


(まさかね。ちょっと装備を変えただけで夢を見過ぎだわ。こんなのより深層のダンジョンでは通用しないに決まってる)


 一行はモニカを先頭にしたまま、ダンジョンの奥へと進んで行く。

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文庫第6巻が3月25日(金)に発売です!
ふーろさんが丹精込めてイラスト描いてくださりました。
可愛いピンクのツインテールが目印です。
よければチェックしてあげてください。
i632441
― 新着の感想 ―
[良い点] こういう数十人規模の戦闘って新鮮でいいね 登山で言う極地法だけど現実的なダンジョン攻略って感じがする
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