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第136話 リスク

4巻発売中です!

 今月3回目のダンジョン探索に赴くため、ハンス、クレア、アリスの3人は家を出た。


 姉妹と共に家を出たハンスは、工房(アトリエ)へと行く道の途中でロランの言葉を思い出していた。


(容赦のなさが足りない……か)


 会議の内容を振り返る。




「ロラン。もう少し詳しく教えてくれねぇか」


 レオンが言った。


「俺達は『白狼』相手にも戦えるようになったし、容赦のなさが足りないと言っても具体的にどうすればいいのか」


「そうだな。例えば、前回のダンジョン探索において『白狼』と戦った時、エリオとリックが敵の攻勢を押し返したあの場面。あそこで逃げ惑う敵に対して、後ろから後衛が飛び出して追撃すればより大きな被害を与えることができたはずだ」


「なるほど。後衛の飛び出しか」


「そう。敵に打撃を与えるには前衛がしっかりと支えるだけではダメだ。後衛の働きが重要になってくる。装甲の薄い後衛が前に出れば、危険も増えるから難しいところではあるが……」




(あの注文。名指しこそしなかったが、おそらく僕に向けたものなのは間違いない。『賢者の宝冠』に致命的なダメージを与えられるかどうかは僕にかかって……)


「ハンス!」


 ハンスは自分を呼ぶウィルの声にハッとした。


 気付けば集合場所にたどり着いていたようだ。


「ウィルか……」


「探索が始まるまでまだ時間がある。少し話さないかい?」


 二人は号令がかかるまで広場のベンチに腰掛けることにした。


「会議でロランが言ってたこと、どう思う?」


 ウィルが聞いた。


「容赦のなさが足りない、……のことかい?」


「そう、それ」


「分かってるよ。名指しこそされなかったが、要するにロランは僕の働きに不満を覚えているんだ」


「僕達の、だ」


「ウィル?」


「エリオ達前衛が『白狼』の攻撃を押し返しているのに、勝負を決められないのは僕達後衛の責任だよ」


「ウィル、君から見てどう思う? 僕達に何が足りないのか」


「そうだね」


 ウィルは少し考えるような仕草をしてから話し始めた。


「『魔法樹の守人』の戦い方を見て感じたんだけれど、彼らと僕達とではリスクの取り方が違うように思うんだ」


「リスク?」


「そう。彼らは僕らから見れば、少し危険に感じるほど前に出ようとする意識が強い。けれども、島の外のギルドでは、後衛でもあのくらい前へ出る意識が高くないといけないのかもしれない」


「なるほど。リスクをとって前へ出る意識か」


 ハンスはしばらく考えた後、ウィルの方に向き直った。


「ウィル。今回の探索で僕は前に出る意識を高めてみることにするよ。ある程度の危険は覚悟して」


「いいのかい? 負担は倍増するし、責任重大だよ?」


「覚悟の上だ」


「よし。君がそこまで言うなら僕も付き合うよ。一緒にロランに直談判してみよう」


 二人はロランに追撃の意識を高めたい旨伝えた。


 ロランは許可した。


 ただし本来の役割、索敵や前衛のサポートをきちんと果たすのならと条件をつけた上で。




 自分の部隊のチェックを終えたユフィネは、レリオとシャクマを伴って敵方である『大同盟』の方を見ていた。


『大同盟』は兵装も作戦も特に前回と何も変わりなく、準備を終えようとしていた。


「何か仕掛けてくるかと思いましたが、特になんの工夫もなくきましたね」


 レリオが言った。


「何も有効な策を思いつかなかったんでしょうかね?」


 シャクマが言った。


「どうかしらね。まだ、何があるか分からないわ。油断しないように……」


 ユフィネがそう言いかけたところで、イアンとバッタリ出会(でくわ)してしまう。


「レイエス!」


「シャクマ、レリオ、戻るわよ」


 ユフィネは二人を伴って、自陣営に戻ろうとした。


「レイエス。待ってくれ! 話したいことが……」


「私にはないわ」


「後生だ。どうか聞いておくれ」


「くどい。もう、あんたとは何一つ口利(くちき)いてやんないから」


「待ってくれ。このままじゃ、『白狼』の思う壺だ。ここは僕達で連携して……」


 ユフィネは酷薄な笑みを浮かべながら、イアンの方を見た。


「ふん。『白狼』に襲われて困るのはあんた達だけでしょ。変な小細工ばかりするからそうなるの。自業自得よ。さ、二人とも行くわよ。私達も最後の準備を終えないと」


 ユフィネにすげなくあしらわれたイアンは、肩を落とす。


(ダメか。こうなったら仕方ない。ニールの言う通り、『白狼』と『竜の熾火』との共同戦線に賭けるしかない)


 イアンはユフィネの方をチラリと見た。


(今の和平交渉で多少は油断を誘うこともできるはず。最善は尽くした。後は天命を待つのみだ)




 イアンをあしらったユフィネは、その足でロランの下に報告しに行った。


「私、言ってやりましたから。あんた達と組むつもりはないって」


 ユフィネは得意げに言った。


「……そうか」


 ロランは喜ぶどころかむしろ思い悩むような顔になる。ユフィネは、キョトンとした。


(イアンは情報収集のエキスパート。『精霊同盟』の会議内容も既に把握しているはず。なのにこのタイミングで和平交渉?)


「ユフィネ。ダンジョンに入ったらすぐ『広範囲回復魔法』をかけられるように準備しておいて。何かが起こるかもしれない」




 その後、準備を終えた『大同盟』は、粛々と裾野の森へと入っていった。


 少し遅れて『精霊同盟』もダンジョンへと入る(今回、『大同盟』は前回よりも大幅に人数を減らしたためいつもより速やかに準備をこなすことができた。どうも彼らは少数精鋭を選別したようだ)。


 ロラン達はしばらく裾野の森をつつがなく進んだ。


 散発的に雑魚モンスターが襲ってくるが、難なく片付けて探索を再開する。


『大同盟』の進むスピードが速いので、追いつけなかったが、大した問題ではない。


 自分達はこれまで通り探索すればいい。


『メタル・ライン』に至ればどうせ『大同盟』のスピードは鈍化する。


 巻き返すチャンスはいくらでもある。


 誰もがそう考えていた。


 そんな考えを改めることになったのは、『メタル・ライン』最初の高原にたどり着いてからだった。


 前衛を務めていた部隊の前に、突如として『大同盟』の部隊が展開したのだ。


 彼らは平地に布陣して準備万端で待ち構えていた。


 慌てふためく『精霊同盟』を前にして一気呵成に攻撃を仕掛けてくる。


 最初の一撃にはどうにか耐えられたものの、『魔法細工』の剣鎧を纏った戦士(ウォーリアー)、ニールの

『攻撃付与』、グレンの『爆炎魔法』によって畳み掛けられると、部隊は敗走することを余儀なくされた。


『精霊同盟』の前衛を蹴散らしたニール達は、余勢を駆って風の速さで坂を駆け下ると、ロランのいる本隊に向かって猛然と襲いかかった。

本日はもう1話投稿します!

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文庫第6巻が3月25日(金)に発売です!
ふーろさんが丹精込めてイラスト描いてくださりました。
可愛いピンクのツインテールが目印です。
よければチェックしてあげてください。
i632441
― 新着の感想 ―
[一言] 盗賊行為が許される島とかアホすぎて笑えない ってか、何時までこの盗賊ギルドの話は続くんだろう
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