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第129話 貢献と評価

 行軍を止めたロランは、各冒険者の損耗度合いと戦果についてチェックしていた。


 リックは鼻高々な様子でロランの前に現れた。


 ロランの目の前に『火竜(ファフニール)』の首をドスンと置く。


「どうですか、ロランさん? 『火竜(ファフニール)』を2体も仕留めましたよ。まだダンジョンに入って初日だと言うのに」


「……そうか」


 ロランはさして関心が無さそうに言った。


 リックはロランの態度に戸惑った。


「それでリック。ダンジョン前半で消耗しない工夫については何か思い付いたかい?」


「えっ? いや、それはですね……」


 リックは言いあぐねた。


 今回の探索にあたって、ダンジョン後半に控える『白狼』との戦闘が本番であることは、あらかじめロランによって伝えられていた。


 そして、後半に備え前半どのようにして消耗を最小限に抑えるか考えておくようにも言い渡されていた。


 しかし、ほとんどのメンバーが地元ギルドとの競争に必死ですっかりそのことを忘れてしまっていた。


「まあ、いいだろう」


 ロランはリックへの追求をやめて、他のメンバーを見渡す。


「誰か。他にいい案のある者はいないのか? 今日一日、『魔法樹の守人』を加えたメンバーでダンジョンを探索して、何か気づいたこと、思い付いたことはないのか?」


「ちょっといいか?」


 レオンが進み出て発言した。


「どうも『火竜(ファフニール)』が現れると、冒険者同士で取り合いが過熱しちまうようだ。このままじゃ、無駄に消耗が激しくなる。ここは午前と午後で班分けして、『火竜(ファフニール)』を交代で担当した方がいいと思うんだが」


 ロランはレオンの発言に目を輝かせた。


「おお。レオン。まさしく僕もそのことが気になっていたところだ。アイディアもいい。早速、採用してみよう。他に誰か意見のある者はいないか?」


「よろしいですか?」


 クレアが進み出た。


「本日の探索で見たところ、『魔法樹の守人』の中にも『遠視』の使える方が何名かいるように(うかが)えました。『遠視』の使える者で索敵の網を広げれば、『火竜(ファフニール)』との遭遇を最低限に減らして、消耗を減らすことが出来るのではないかと」


「僕もいいかな?」


 ウィルが言った。


「今日の探索では、隊列が間延びして、後衛の力を存分に活かせなかった。効率良く敵を倒すためにも、前衛の戦列が乱れない工夫が必要だと思うんだが」


 他にも様々なギルドから改善策が提案されたが、いずれも地元ギルドからのもので『魔法樹の守人』から出た案は一つもなかった。


 翌日、ロランは同盟の参加ギルドに順次採掘場へと入るよう命じた。


 一番最初に入ったのは『暁の盾』で、次に『天馬の矢』、ウィルとラナ、そして昨日何かしらの案を出した地元ギルドの順に採掘場へと入場していった。


 その他の地元ギルドと『魔法樹の守人』は一番最後である。


 これを見て、『魔法樹の守人』の冒険者達は焦った。


 ロランは旧知の仲だからといって、またAクラス冒険者がいるからといって、贔屓にしてくれるわけではない。


 彼の考えている課題、前半戦の消耗をいかに減らすことができるか、そのことについて献策することができるギルドから順に取り立てているのは明らかだった。


『魔法樹の守人』の冒険者達は慌てて、消耗を防ぐために何ができるのか考え始めるのであった。


 鉱石の採取を終えた『精霊の工廠』同盟は、昨日出た案を取り入れて部隊の編成を変更した。


 午前と午後の班に分けて、『遠視』の得意な者達を選抜し索敵の範囲を広げ、各班に一人前衛のリーダーを定めて戦列が乱れないように努めさせた。


 これらの工夫を凝らした『精霊の工廠』同盟は、昨日を上回るスピードで火山を駆け上っていった。




『精霊の工廠』同盟が採掘場を()ってから数時間、『賢者の宝冠』もようやく第1採掘場にたどり着こうとしていた。


「よし。採掘場に辿り着いたぜ。大分差は縮まったんじゃねーか?」


 ニールは肩で息をしながら言った。


 彼は部隊の足の遅い者達に『俊敏付与』を、攻勢を受けている者達に『防御付与』を、敵を倒すのに手こずっている者達に『攻撃付与』を、それぞれかけて精力的に働いた。


 その甲斐あって、『大同盟』の探索スピードは劇的に上がっていた。


(とはいえ、我々『賢者の宝冠』が地元ギルドをおんぶに抱っこで支える構図が鮮明になってしまったな)


 グレンは苦渋の思いだった。


 彼は地元ギルドにもダンジョン攻略に参加して、貢献して欲しいと考えていた。


(ニールも魔力を大幅に消耗してしまった。これは探索後半にかけて、大きな課題を残してしまったな)


「よし。採掘場に入るぞ。お前らソッコーで鉱石採取しろよ。サボってる奴を見かけたら、タダじゃおかねえからな」


「お待ち下さい隊長」


「うおっ。なんだ?」


 ニールは突然進み出て跪いてきた男に面食らって足を止めた。


 彼は以前、『精霊の工廠』同盟にも参加したことのある男だった。


「採掘場に入る前に提案したいことがございます。各ギルドの貢献度に応じて、採掘場に入る順を決めてはいかがでしょうか。そうすることで、同盟側から各ギルドへの評価を明示することができ、評価されると分かった各ギルドも同盟のために貢献しようという意欲が上向き、切磋琢磨しあって、ひいてはより早いダンジョン攻略に繋がるというわけでございます。『賢者の宝冠』の皆様にあっても同盟を統率しやすくなり、同盟の連帯感を高めることに繋がるでしょう」


(なるほど。そんなやり方があるのか)


 イアンは男の提案に素直に感心した。


 しかし、ニールには心の余裕がなかった。


 彼の頭の中には先を行く『精霊の工廠』同盟に追いつくことしかない。


「貢献度に応じてだぁ? テメーら今のところ俺達におんぶに抱っこで、『火竜(ファフニール)』の1匹も倒してねーじゃねーか。寝言を言ってる暇があるなら、さっさと手と足を動かして、少しでも早く鉱石の採取に取り掛かりやがれ。ホラ。さっさと採掘場に入るぞ」


 提案した男は自分の具申を受け入れてもらえずがっくりと肩を落とす。


 イアンは男のことを気の毒そうに眺めた。


 内心では彼の提言に賛成していたが、実際に行動に移すことはしなかった。


 下手に自分の領分を超えた職務に口出しすれば、失敗した時、責任を負うことになりかねない。


 イアンは情報収集・処理には優れた手腕を発揮したが、貢献度を評価する手法となると門外漢だった。


 結局、『大同盟』は順番も何もなく無秩序に採掘場へと足を踏み入れていった。


 そこに貢献に応じて評価しようという姿勢は微塵も感じられない。




 採掘場へと入ったニール達だが、(かんば)しい成果は得られなかった。


(チッ。クズ鉱石しか残ってねぇな)


 目ぼしい鉱石はすでに『精霊の工廠』によってすべて採取されていた。


(しゃあねぇ。さっさと次の採掘場へ行って……)


 その時、山の上の方から戦闘音が聞こえた。


『精霊の工廠』同盟がモンスターと戦う音だった。


「おい、見ろ。あの装備、『精霊の工廠』の奴らだ」


「あいつらもうあんなところまで行ったのか?」


 グレンとイアンは目を疑った。


(バカな。奴ら昨日よりも探索スピードが上がっている?)


(僕達もニールの魔力を犠牲にしてペースを上げたっていうのに。彼らはそれよりも速いっていうのか?)


 ニールはギリッと歯を食いしばる。


「急いで出発するぞ。今日中に追いつくんだ!」


 しかし、気炎を吐くニールをよそに、地元ギルドの士気は目に見えて低下した。


 先ほどのやり取りで、地元ギルドが評価される余地はほとんどないことは目に見えていた。


 地元ギルドの者達は戦闘では殊更消極的になり、モンスターが近づいてくるのを見ても報告しない者までいるほどであった。


 モンスターの強度も高くなってきたため、ニールだけでなく、グレンとイアンも消耗することを余儀なくされた。




 次の日も、その次の日も『賢者の宝冠』は『精霊の工廠』に追い付けず、第2、第3、第4の採掘場もロラン達が押さえた。


 リックはロック・ファングと戦いながらも前に出過ぎないようにしていた。


「ラインを維持しろ。後衛の援護が来るのを待て」


 程なくしてウィルとラナが駆けつけて、『爆風魔法』と『地殻魔法』で敵を追い払う。


 リックは敵を追い払いながらも釈然としない想いだった。


(うーむ。やはり街が変わると、ダンジョン攻略の勝手も違うものだな。こんな消極的な戦い方が評価されるとは)


「リック。壁役おつかれ」


「あ、ロランさん」


「良かったよ。今の動き。大分このダンジョンにも慣れてきたんじゃない?」


「ありがとうございます。いや、しかし、本当にこれでいいのでしょうか? とにかく省エネで戦うばかりでいまいち貢献している実感が湧かないのですが……」


「このダンジョンではその省エネが大事なんだよ。なにせ帰りには盗賊ギルドとの戦いが待っているからね」


「はぁ」


「ん? これはユフィネからの合図だな」


 ロランは足下に現れた魔法陣を見て言った。


「これは『下がれ』の合図ですかね」


「少し前に出過ぎたようだな。陣形を下げよう」


 今回、ユフィネは回復役というよりも管制塔としての役割を果たしていた。


 戦線が拡がり過ぎないように、彼女の魔法陣によって合図を出すのだ。


「む。今度は偵察隊からの合図ですよ」


 矢が3本空に射ち上げられている。


「『火竜(ファフニール)』が3体こっちに近づいてくる……か。追い払う強弓部隊と攻撃魔導師を……っと、もう準備してるな」


『魔法樹の守人』の冒険者達も『精霊の工廠』同盟のやり方に適応しつつあった。


 リックは壁役に徹し、ユフィネは管制塔、シャクマは陣形の指揮、レリオは偵察隊に加わり、マリナは鉱石の保有と『冒険者の街』とは微妙に役割を変えながらもそれぞれ活躍の場を見出していた。


(ここまでは怖いほど上手くいっているな。残る気掛かりは帰りと『賢者の宝冠』か)


 ロランは背後を振り返る。


 ドンっと爆発音が鳴り響く。


 強力な攻撃魔法が放たれた音だった。


(さっきから高ランクの魔法をぶっ放しているのに、全然追い付いてくる気配がない。そろそろ追い上げを仕掛けてくる頃かと思っていたが……。『賢者の宝冠』は今どうなってるんだ? なぜ何もしてこない?)


 帰り道が成功するかどうかは『賢者の宝冠』次第だった。


 もし、彼らが戦いを仕掛けてくるなら『白狼』も交えての三つ巴を覚悟しなければならない。


 その場合、そろそろ探索の限界点を迎えつつあった。


(仕掛けないのか、あるいは仕掛けられないのか。どっちだ?)


 ロランは下方に目を凝らすが、『賢者の宝冠』の様子は窺い知れない。


(『アースクラフト』の採掘場はあと一つだが、少し遠い。どうする?)




 レリオは背後の偵察をしながら、手柄を立てる機会を探していた。


(ダンジョンと同盟への適応でこの数日を潰してしまったな。そろそろここいらで何か手柄を立てておかないと……。ん? あれは……)


 レリオは遠目に『賢者の宝冠』の姿を確認した。


 しかも、ニール、イアン、グレンのAクラス魔導師3人がちょうど視界に入っていた。


(あれは……『賢者の宝冠』のエース3人。……鑑定しておくか)


【ニール・ディオクレアのステータス】

 魔力:20-130


(!? これは……)


 レリオは急いで『精霊の工廠』同盟の本陣に戻った。




「ロランさん」


「レリオ。どうしたんだい? 偵察に行っていたはずじゃ……」


「それが……『賢者の宝冠』の姿が見えて、鑑定したところ……」


 レリオは見たままを報告した。


「レリオ、よくやった。それこそ僕の欲しかった情報だよ。みんなちょっと集まってくれ」


 ロランがそう言うと、近くにいた仲間達が集まってきた。


「レリオが耳寄りな情報を持ち帰ってきてくれた。『賢者の宝冠』のエース3人はステータスを著しく消耗している。これで帰りは大分楽になったぞ」


 部隊の間で歓声が上がった。


(帰り道で『賢者の宝冠』を気にする必要はない。なら、もっと奥まで探索できる。『アースクラフト』を採り尽くして、勝負を決める!)


 レリオの貢献を高く評価したロランは、5つ目の採掘場において初めて『魔法樹の守人』に一番乗りの栄誉を与えるのであった。

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文庫第6巻が3月25日(金)に発売です!
ふーろさんが丹精込めてイラスト描いてくださりました。
可愛いピンクのツインテールが目印です。
よければチェックしてあげてください。
i632441
― 新着の感想 ―
[一言] 信賞必罰、貢献者にはすぐに目に見える形で報いるのはいいですね。ちゃんとどういう理由で報いたのかわかる形なので依怙贔屓とは感じないし。
[一言] 毎週日曜を楽しみにしています。 更新ありがとうございます。
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