第105話 新しい時代
森を抜けて『メタル・ライン』に到達したアルゼア達は、予想通り撒菱や『弓射撃』の妨害を受けることがなくなったので、それまでよりは楽に進むことができた。
しかし、なかなかロラン達の背中を捉えることができなかった。
双子の兄弟アラムとリアムはその顔に焦りを募らせる。
「くそっ、なかなか追いつけませんね」
「お師匠様、このままではロラン達を見失ってしまいますよ」
「そう慌てるでない。ロラン達はいずれペースダウンし、我々と戦わざるを得なくなるはずじゃ」
「しかし……」
「気付かぬか? 『メタル・ライン』に入ったというのに、先程から『火竜』に全く出くわさなくなっておる」
「あ、確かに」
「そういえば不自然なほど遭遇しませんね」
「『精霊の工廠』同盟が『火竜』と戦ってるからじゃよ」
「『精霊の工廠』同盟が?」
「それじゃあ……」
「このままいけば、ワシらが追いつく頃には『精霊の工廠』は、『火竜』との戦闘、無理な強行軍のせいで相当消耗しておるはずじゃ」
「そうか。そこを叩けば……」
「容易く『精霊の工廠』同盟を倒せるというわけですね」
「うむ。そういうことじゃな。理想は奴らが『火竜』と戦い終わった直後にすかさず戦いを仕掛けることじゃ」
「そこまで考えていたとは。恐れ入ります!」
「流石お師匠様です!」
「フォッフォッフォッ」
(撒菱と弓使い部隊によるゲリラ戦でワシらを撒けると思ったようじゃが、そうはいかんぞい。ワシの追撃から逃れたくば、中途半端なことはせず、森の中でワシらを叩くべきじゃったな。カルテットを翻弄しておるところからなかなかの策士のようじゃが、まだまだ青いのぉ)
そうこうしているうちに『精霊の工廠』の青鎧を着た一団が見えてくる。
「お師匠様。ついに捉えましたよ。『精霊の工廠』です」
「こちらを待ち構えて布陣しています」
「ふむ。戦闘中に当たることはできなんだか。まあ、よいじゃろう。『竜頭の籠手』を前へ……」
「アルゼア様! 後ろから『火竜』です」
「む。『火竜』か。一旦攻撃を中断じゃ。『竜頭の籠手』を『火竜』に……」
「お師匠様。『精霊の工廠』が『弓射撃』で攻撃してきました」
「なにぃ? 血迷ったか?」
アルゼアの部隊は、『精霊の工廠』同盟と『火竜』の群れに挟み撃ちにされて、混乱に陥る。
「くっ、これでは戦えん。一旦退却するぞ」
(ロランめ、見境なく攻撃してきおって。『火竜』と交戦中に戦闘なんてすれば、両軍『火の息』に晒されて無茶苦茶になるじゃろうが。そんなこともわからんのか?)
しかし、『火竜』達はアルゼアの方だけを攻撃してきた。
「くっ、バカな。『火竜』め。なぜこちらだけ攻撃する?」
アラムは『火竜』と戦闘しながら、微かに聞こえてくる音色を耳に捉えていた。
(あれ? 何だろうこの音。竪琴の音色?)
【ニコラのスキル】
『演奏』:B(↑1)
(ニコラのスキル『演奏』がBクラスになった。これで『火竜』に簡単な攻撃を依頼することはできるようだな)
ロラン達はアルゼアが森の中で足踏みしているうちに、ニコラの『竜音』で『火竜』を集めていた。
撒菱を撒いたり、ジェフ達弓使いに襲撃させていたのもひいてはこのための布石だった。
右側に『火弾の盾』を構えながら、左側から矢弾に晒されて、アルゼアの部隊はすっかり腰砕けになってしまった。
「ええい。下がれ。下がるんじゃ。一旦森まで退却じゃ」
アルゼア達は一目散に裾野の森まで退散していく。
ロラン達は『火竜』に約束していたゴブリンの肉を与えて、探索を再開する。
すっかり消耗した上ロラン達を見失ってしまったアルゼアは、一旦街に帰って『竜の熾火』で兵装を整えることにした。
「どういうことだよ、ジイさん。ロランと一戦も交えず帰ってくるなんて。『竜頭の籠手』もほとんど使った形跡がないじゃないか」
「慌てるでない。『精霊の工廠』同盟の中に『竜音』を使う者がおったんじゃよ」
「何? 『竜音』を?」
「うむ。故に追いかけて戦いを仕掛けず、一旦退却したのじゃ。あのまま下手に追いかけても消耗するだけで、相手のペースにはまるばかりじゃからの。それならこうして山を登る敵を追いかけるよりも、街に戻り力を溜めた上で、消耗した敵が山を下ってくるところを待ち伏せして討つ方が得策。そう考えたというわけじゃ。というわけで、追加の予算頼む。索敵用に俊敏の高い弓使いと盗賊も増員するようにの」
「それはいいけど。こっちは装備を無償で提供しているだけじゃなく、冒険者の賃金まで払ってるんだぜ?これだけやって何も戦果なしってんじゃ割に合わなすぎる」
「安心せい。それも踏まえて、『精霊の工廠』同盟が帰ってきたところを待ち伏せすると言っておるのじゃ。奴らの持ち帰ってきた鉱石を奪えば、かさんだ費用もペイできるじゃろう」
「まあ……、そういうことなら……」
「うむ。それじゃ、首尾よく準備するようにの。よっこらせっと」
アルゼアはそれだけ言うと長椅子の上に胡座をかいて寛ぎ、パイプを吸い始める。
(大丈夫かよ。こんな悠長なことで……)
ラウルはアルゼアの態度を不審に思いつつも、ダンジョン内でのことは分からないため、彼のいうがままにするほかないのであった。
装備の調整と部隊の再編を終えたアルゼアは、再びダンジョンに入り『メタル・ライン』の入り口付近、道の交差する場所まで進んだ。
ここは『湖の道』に連なる全ての道の結節点で、帰りには必ず通らなければならない。
しかし、ここは防御には向いていないため待ち伏せする場所としては不適切だった。
そこでそこから伸びる三つの道に弓使いと盗賊を放ち、敵が網に引っかかり次第即応して、攻撃を仕掛けることにした。
そうして待ち構えていると、一人の弓使いがいつまで経っても帰ってこないという事態になった。
(ふっ、早速網にかかりおったわい。まだまだ青いのぉ)
アルゼアはロランがいると思われる方向に部隊を進めた。
アルゼアの部隊が近づいているのを察知したロランは、一旦引き返して高所に陣取ることにした。
麓の平地にはラナに『地殻魔法』で塹壕を作らせて、そこに戦士と盗賊を伏せ、防備を固めておいた。
アルゼアは『竜頭の籠手』の一斉砲撃さえ当てれば勝てると見込んで、アラムとリアム、二人のCクラス攻撃魔導師を先頭に部隊を進めた。
ロランは彼らに向かって『弓射撃』させる。
攻撃魔導師達も『竜頭の籠手』で応戦した。
『弓射撃』の射程は高低差を利用することで伸びるが、一方で『竜頭の籠手』は魔力によって射程が一定となっているため、高低差の影響を受けない。
そのため、ロラン側の『弓射撃』は当たるが、アルゼア側の『竜頭の籠手』は届かず、アルゼア側が一方的に攻撃されるという展開になった。
「くっ、このぉ」
リアムは高所からこちらを撃つ弓使いに向かって、『竜頭の籠手』放つが、ジェフの目の前まで迫った炎の弾丸は直前で拡散してしまう。
「いかん。『竜頭の籠手』部隊を下げろ。盾使いの後ろに隠すのじゃ」
アルゼアは急いで戦士達を前に出したが、前に出しても上方から狙い撃ちされているので、『竜頭の籠手』部隊が『弓射撃』にさらされることは変わらなかった。
やむなくアルゼアは、部隊を下げる。
両軍離れた場所から睨み合う形になった。
アルゼアは攻めあぐねる。
そのままその日は、夜を迎える。
(ふむ、なるほど。互角の形勢に持ち込んだというわけじゃな。流石にタダでは勝たせてくれんの。とはいえ、そろそろポーションに余裕がないのではないかの?)
ロラン達はダンジョン探索の帰りのためポーションを消費していたが、一旦引き返して補給したアルゼア側にはまだまだ余裕があった。
(いずれはポーションが尽きて、決戦を挑む必要が出てくる。そうなればこちらのものじゃ。遮二無二突っ込んできたところを『竜頭の籠手』で消し炭にしてくれようぞ)
しかし、ロランが決戦を挑まないのは、援軍がいるかどうかを見極めるためであった。
(これだけ時間が経っても援軍が来ない。敵の数はあれで全てということか。やはりカルテットは個人主義集団のようだな。力を合わせて戦おうという気概をまるで感じない。あるいは、互いの長所を組み合わせる方法が分からないのか?)
高所から鑑定することで敵のスキル・ステータス・装備もチェックすることができた。
ロランは朝、日が昇る前に荷物をまとめて道を引き返し、迂回して、別の道を通りアルゼア達をパスすることにした。
ロラン達が陣地から引き払っているのに気づいたアルゼアは慌てて後を追いかけた。
流石のアルゼアも苛立ち始める。
(くそっ、待ち伏せするつもりが、また追いかける展開になってしまった。ええい。チョロチョロ動き回りおって。いい加減覚悟を決めて勝負に来んかい!)
両軍は曲がりくねった、アップダウンの激しい道を追いかけっこする。
アルゼアはロラン達を追いかけながらその先の地形について考えを巡らせた。
(確かあの先には高所が一つあったはずじゃな)
その高所は登りきったその先が崖になっているところだった。
道具なしにはとても降りることができない断崖絶壁だった。
そのため登ったところで麓を封鎖してしまえば、閉じ込めることができる。
すでにポーションが少なくなっているロランは、決戦を挑んでこざるを得ないだろう。
(よし)
「行軍速度を上げて、ロランにプレッシャーをかけるのじゃ。多少、ステータスを削っても構わん!」
(『竜頭の籠手』を相手にする以上、高所を取りたくなるもの。これでロランが高所に陣取れば、麓を塞いで終わりじゃな)
しかし、ロランはその高所の先が行き止まりなのを一瞬で見抜いたため、アッサリとパスする。
(くっ、こやつあっさり見抜きおった。小癪な)
「それならばこちらが高所をもらうまでじゃ。『竜頭の籠手』部隊、逃げていくロラン達に背後から砲撃を食らわせてやれ!」
高所に陣取ればこの曲がりくねった道でも、上から『竜頭の籠手』で狙い撃つことができる。
(所詮は急造の部隊。攻撃には強くても、攻撃された場合、案外脆いものじゃよ。『竜頭の籠手』の砲撃に晒された部隊は混乱して逃げ惑う。そこを『魔法細工』の鎧と剣で装備した重装備の部隊で強襲して、ジ・エンドじゃな)
高所に陣取ったアラムは眼下に逃げていくロラン達の姿を捉える。
「ようやく。『竜頭の籠手』を当てるチャンスが巡ってきた。喰らえ!」
轟音とともに炎の弾丸が放たれる。
エリオに直撃した。
青鎧の『外装強化』が剥がれ、エリオ自身にも直接ダメージが与えられる。
「ぐあっ」
エースであるエリオの負傷に部隊が騒めく。
「落ち着け。『竜頭の籠手』による一過性の攻撃だ」
レオンがエリオを助け起こしながら声を張り上げた。
「この程度のダメージなら取るに足らん。このまま予定通り行軍するんだ」
このレオンの一声により、部隊は平静を取り戻した。
部隊は『竜頭の籠手』の砲撃に晒されながらも粛々と行軍を続ける。
レオンは自ら進んで部隊の後ろ側に陣取り、砲撃に身を晒して、『竜頭の籠手』が恐るるに足りないことを示す。
【レオンのステータス】
指揮:70ー80
(レオンにも指揮能力が付いてきたな。この状況でのこの落ち着きは頼りになる)
背後の安全を確認したロランはエリオのダメージを確認することにする。
「エリオ。大丈夫かい?」
「うん。ただ、装備とステータスを削られちゃったかな」
【エリオのステータス】
耐久:60(↘︎10)ー80
体力:80(↘︎10)ー100
【エリオの鎧のステータス】
防御力:120(↘︎20)
耐久:70(↘︎10)
※威力の低下は『外装強化』が剥がれたことによる
(一撃で『外装強化』を剥がした上、装備者の耐久と体力を削り取った。遠距離からの攻撃でこの威力。やはり『竜頭の籠手』の威力は侮れないか)
やがてロラン達は高所から狙い撃つ『竜頭の籠手』の射程外に逃れる。
ダメージを受けながらも予定地に辿り着いた、エリオ達はポーションと『アースクラフト』で自身と装備を回復させた。
【エリオのステータス】
耐久:60(↘︎10)ー80
体力:90(↗︎10)ー100
【エリオの鎧のステータス】
防御力:140(↗︎20)
耐久:80(↗︎10)
(よし。耐久は回復できないけど、鎧は全回復した。これならまだ戦えるぞ)
高所からの砲撃を加えても足止めできず、アルゼアは焦りを覚え始めた。
(『竜頭の籠手』の砲撃に晒されても微動だにしないじゃと? なんという練度の高さ。それに先程からワシの攻撃がことごとくいなされておる。冒険者歴20年のこのワシの経験と知見が通用しないというのか? バカな。まるで百戦錬磨の強者ではないか。指揮しているのは本当に錬金術ギルドの者なのか?)
その後もロランは隙を見せない。
明日には裾野の森に辿り着くという場所まで辿り着く。
(まずい。このままでは森に辿り着いてしまう。敵の方が盗賊と弓使いは優秀なんじゃ。また敵の『罠設置』と『弓射撃』のゲリラ戦に悩まされることになるぞ)
結局、アルゼアは防備でガチガチに固められたロランの陣地を強襲することにした。
しかし、ロランは陣地に連なる唯一の細い道を『地殻魔法』の壁で塞いでいる。
これを壊してもその先には撒菱と塹壕が張り巡らせれて、そこに踏み入った途端、『弓射撃』を浴びせられるに決まっていた。
(くっそー。先程から全然『竜頭の籠手』を使わせてくれん。いやらしいことばかりしおって)
どうにか、敵の裏をかくことはできないものか。
(はっ、待てよ。あったぞい。『竜頭の籠手』を使う方法が)
ロランの陣地の右側には崖があった。
少し時間はかかるが、そこに『竜頭の籠手』部隊を回りこませれば、高所からロランの陣地に砲撃を浴びせられる。
撒菱も塹壕も無力化できるだろう。
アルゼアは『竜頭の籠手』で『地殻魔法』の壁に砲撃を加え派手な音を立てた上で、それを囮に残りの3人の攻撃魔導師を敵の陣地に接する崖側に回す。
(『地殻魔法』で壁を作ったせいで、向こうからもこちらの動きが見えない。ふっ、まだまだ詰めが甘いのぉ、若造よ)
アラムとリアム、そして残りの一人の攻撃魔導師は、崖に回り込んでいた。
「よし。敵の側面上側に回り込めた」
「これで今度こそ『竜頭の籠手』の威力を発揮できる!」
しかし、その動きはロランに読まれていた。
崖側にはハンス、クレア、アリス、ジェフの4人の弓使い達が待ち構えていた。
アラムとリアムが姿を表すやいなや、『弓射撃』を浴びせる。
「うわっ。待ち伏せされていたか」
「上等だよ。射撃戦なら望むところさ」
「……敵の位置までちょっと遠いかな?」
「構うもんか。『竜頭の籠手』の威力なら問題ない!十分射程距離さ」
『竜頭の籠手』の弱点として、敵が離れれば離れる程、収束された『爆炎魔法』が拡散して威力が弱まるというものがあった。
アラムとリアムの『竜頭の籠手』は通常、Aクラス相当の攻撃魔法の威力を備えていたが、これだけ離れているとBクラスの威力になってしまう。
しかし、ハンス達にダメージを与えるには十分なように思えた。
『弓射撃』が収まった瞬間、顔を上げて反撃に転じる。
「「喰らえ!」」
三つの砲門が火を噴いた。
それらは真っ直ぐハンス達の方に伸びていったが、彼らの弓矢についている紅い宝玉に吸い込まれていく。
「なっ、あれは、『炎を吸い込む鉱石』?」
「そう。僕達の装備『竜穿穹』に仕込まれた『炎を吸い込む鉱石』はBクラスの火炎攻撃までは吸い込むことができる。そして『竜穿穹』は対空射撃に対して真価を発揮する。上手く裏をかいたつもりかもしれないが、罠にはまったのは君達の方というわけさ。加えて……」
ハンスは『竜頭の籠手』の炎を纏った『弓射撃』を放つ。
「僕のユニークスキル『魔法射撃』なら、君達の『竜頭の籠手』の威力をそのまま返すことができる!」
ハンスの『魔法射撃』はアラムに直撃した。
「ぐあっ」
「アラム!」
「ちくしょう」
ヤケになったCクラス攻撃魔導師が崖を滑り降りる。
「クレア」
「はい」
クレアは滑り降りてきた敵に『連射』を浴びせ、戦闘不能にした。
「ちぃっ」
アラムはアリスの方に『竜頭の籠手』を向ける。
アリスの『炎を吸い込む鉱石』には、まだ先程受けた『竜頭の籠手』の炎が溜まっていた。
(『炎を吸い込む鉱石』は炎を溜めた状態で吸い込むことはできない。せめてあいつだけでも……)
「ハンス!」
「オーケー!」
アリスとハンスは互いの持っている『竜穿穹』を交換する。
こうしてアリスはもう一度『竜頭の籠手』の砲撃を受け止めることができた。
ハンスはもう一度『魔法射撃』を放つ。
「なにっ!?」
リアムは伏せてどうにかかわした。
(くそっ。なんて連携だ。隙がない)
リアムはしばらく伏せて粘っていたが、アリスが矢を曲射してくる度に心が騒めき始める。
(なんだ? 心の中に憎悪が……)
【アリス・ベルガモットのスキル】
『憎悪集中』:A
「ふふっ。私のスキル『憎悪集中』の前にいつまで耐えられるかな〜?」
「くっ、くそおおおおお」
ついに怒りを爆発させ、立ち上がり『竜頭の籠手』を構えたリアムをハンスは『魔法射撃』で撃ち抜いた。
ハンス達とアラム・リアム兄弟が射撃戦をしている頃、アルゼアの方も『地殻魔法』の壁を突破しようとしていた。
壁を壊した先には意に反して罠も塹壕もなく、戦士が待ち構えているだけだった。
しかし、砲撃に晒されている様子はない。
(ええい。アラムとリアムは何をやっとるんじゃ)
「こうなったら白兵戦で勝負をつけてやるわ! 『攻撃付与』!!」
『魔法細工』の剣と鎧で覆われた戦士達が、赤い光に包まれる。
今や彼らは実質Aクラス戦士の攻撃力を兼ね備えていた。
青鎧を身に付けた敵に向かって突進する。
レオン達は敵の剣を『絡みつく盾』で受け止めた。
『攻撃付与』の赤い光に煌めく『魔法細工』の剣は重しがついて、使い物にならなくなる。
レオン達は彼らの剣を叩き落とし、そのまま敵に攻撃を加えようとする。
「い、いかん。『防御付与』」
アルゼアは慌てて支援魔法を『攻撃付与』から『防御付与』に切り替えた。
(っ、硬え)
レオン達の剣は跳ね返される。
こうして前衛の戦いは膠着し、戦線が形成された。
「ようやく僕の出番が来たようだね」
ウィルが杖の先を光らせる。
アルゼアは慌てた。
(し、しまったぁ。敵にも攻撃魔導師がいたのか!)
アルゼアの方にもまだ『竜頭の籠手』を身に付けた攻撃魔導師が一人いたが、『竜頭の籠手』は威力は高いものの直線的な攻撃で、前衛の戦士越しに攻撃を加えることはできなかった。
何より彼は『地殻魔法』の壁を壊すのに力を使い果たして、すでに魔力切れだった。
(バカな。冒険者歴20年以上のこのワシがこんな若造に……)
「アルゼア老師。かつては島一番の魔導師の名をほしいままにしていたあなたですが、どうやら時代は変わったようです。『爆風魔法』」
ウィルが呪文を唱えると、『魔法細工』の鎧を着た戦士達の足下に魔法陣が浮かび、爆風が巻き起こる。
支援魔法の威力を高める『魔法細工』の鎧とはいえ、魔法攻撃までは防ぐことはできない。
ステータスを削られる。
「わー。凄いですわ。お兄様」
レオン達が敵を制圧し、ロランはアルゼアを捕虜にした。