出会い ②
剣を持った人物は、赤毛をポニーテールにした女だった。剣士の装具を身にまとっている。
あたしたちの方に駆けてきたその剣士は、腰から刀を抜くと「ヤ――!」と掛け声と共に跳んだ。
王を切るつもりだ!
その時、そこにシスターのソフィーが立ふさがり、祈りの構えから呪文を発し、半透明の防御膜で、自分と王の周囲を囲う。バシッと音がして剣士はその膜に弾き返されたが、バク転で見事に着地した。
息もつかせぬ攻防が眼前に繰り広げられている。この子たち凄い・・。
「ふふ、やるじゃない。じゃあ、これならどう、守りきれるかな?」
薄笑いを浮かべた剣士は、手のひらで刀をツゥーっとなでると、その刀は光を発した。なにか術の力で刀の威力を高めているようだ。ソフィーは口をキッと結び、応戦の様相をみせた。
「おまえたち!王の御前であるぞ!場をわきまえよ!」
王の弟であるタレス先生が叱責すると共に、両手を剣士とソフィーに向けバッと伸ばした。すると、ゴッとした音とともに、剣士とソフィーがゴロゴロっと転がった。転がった剣士はペタッと座り込み、一瞬ポカンとした表情を見せた後、ニッと笑った。
「へ~、あんたやるじゃん。素手であれほどの風圧を出せるなんて素人じゃないね」
「ジャネットか。久しぶりだな。大きくなった。おまえはわたしの事を覚えてはおらぬだろうが、おまえは泣き虫でよくわたしが抱き上げてやったものだったな。ハハハハハ」
タレス先生は、あたしはちは3歳までこの城で過ごしたと言っていたが、幼いころのその剣士を思い出したのだろうか、懐かしそうに笑ったが、その言葉にジャネットとよばれた剣士は顔を真っ赤にしてキッと歯をかみしめる。
そこへ先ほど弾き飛ばされたソフィーが聖服の汚れをパタパタと払いながら口をはさむ。
「そこのあなた。なに者かは知りませぬが、王を守ろうとした、私に対するこの狼藉。どう説明をつけていただけるのかしら」
「ははは、すまぬまソフィー。おまえも大きくなったな。おねしょ癖は治ったか?はは、これは立派なレディーに育ったおまえに失礼だったかな」
おねしょ癖と言われたソフィーも顔を赤くし両手で口を押さえた。
「しかし、とっさとはいえ、わたしのあんなつまらぬ手気圧を防げぬとは・・、これから先が大変不安だ。アルレ、プレセ、大丈夫なんだろうな?」
タレス先生がアルレ、プレセと呼ぶ人物は、最初にこの部屋にソフィーと一緒にいた守護院服を着たハイシスターと、ジャネットの後から歩いてきた甲冑を身に付けた妖艶な女剣士だった。
「お兄様、お久しゅうございます。相変わらず心配性のご様子ですわね。しかしそこのソフィーは、まだまだ伸びしろがあるとはいえ、守護法術についてはマスタークラスに達しております」
「兄上、ご無沙汰いたしておりました。先よりジャネットが大変無礼な振る舞い失礼いたしました。しかしこちらも同様、剣技についてジャネットの腕は超一流。これかからの目的には欠かせぬと思われます」
ふ~む。話しを聞くに、あたしの後見にタレス先生がいたように、ソフィーの後見にアルレと呼ばれたハイシスター、ジャネットの後見にプレセと呼ばれた女剣士がいたというわけね。とすると、剣士のジャネットがあたしのもう一人の姉妹ってことか・・・
「ふ~ん、それであたしの姉妹ってのは、今やりあった、おねしょ癖の小娘と、そこにゴキブリみたいに横たわってる魔術使いってとこか」
あたしがあれこれ考えをめぐらしていると、タレス先生に泣き虫を暴露されたジャネットが、不機嫌な顔をして、あたしを見据え、そう言う。
あたしはというと、ソフィーに、あんたどいて!っと突き飛ばされ、カーペットに転がされたまま、成り行きを見ていたところだが・・言うに事を欠いてゴキブリとはなによ!このあばずれ剣士め!
ソフィーもソフィーだ!直前まで、おねえさま~なんて可愛い顔して言ってたくせに、突発とはいえ、あんたどいてはないでしょうに!
この時点で、あたしと同じような境遇に育った姉妹に会って話しをしたいという、淡い思いは霧散した。
あたしは立ち上がり、服のほこりをパタッと払い、ジャネットとソフィーをキッと見た。ジャネットの不機嫌な顔はともかく、出会いが柔和だったソフィーも、タレス先生の、おもらし発言が相当に頭に来たのだろう、先ほど対峙したジャネットのことはむろん、あたしのことも怒り顔で見ている。