出会い ①
あたしたち姉妹の出会いは強烈だった。
初めて来た王宮。大理石をふんだんに使った、豪華な城へ、これまた八頭立ての豪華な馬車に、タレス先生、デボラ女子と同乗し、国立魔術学院から、3時間かけて到着したところだ。
もう日は落ちていて、道中は薄暗い道を進んできたが、城内の門をくぐると、高価な高輝度発光石を使用した灯りがいたるところに設置され、闇をくつがえし非常に明るい。
「オレが過ごしていたころと、変わりばえしないな」
王の弟だというタレス先生は、十数年ぶりに帰ってきた城内を見渡しながら、ボソリとつぶやいた。
あたしたちは、筆頭侍女のデボラ女子の先導で、城門から王の間へと歩く。
あたしは、ここで3歳まで暮らしたらしい。一生懸命記憶をたどろうとするが、ひとつもよみがえらない。やはり、なにかの間違えじゃないのかな、という思いが色濃く占める。
だが、すれ違う人々は、王族関係者であろうが、あたしとすれ違うと、立ち止まり、深い会釈をしてくるのだ。
やはり、あたしは王の娘なんだろうか。
実感など、微塵も感じないし、父と称する王に会いたいなんて、一つも思わない。ただ、なぜ、幼いあたしが、魔術学院に送られたのか、その真実はちゃんと話してもらいたい。
そして、あたしと同じ境遇におかれた、二人の姉妹。この二人には会いたい。会って話しをしてみたい。
あたしたちが、豪華で重厚な扉の前に到着すると、衛兵がドアを開いた。
そこは広い王の間。天井には発光石をふんだんに使ったシャンデリア、厚くフワリとした絨毯。豪勢な部屋だ。
赤いカーペットが、奥の壇上へと続き、壇上には、王と思しき人物が鎮座している。カーペットの周りには、二人の人物が立っていて、到着したあたしたちを、眺めるように見ている。
「お姉さま~」
あたしたちがカーペットを歩くと、立っていたうちの一人、少女であったが、タタタタと走って向かってくる。
その少女は、あたしの目の前に立つと、じっと、あたしを見つめ、いきなり抱きついてきた。
「あ~、お姉さま、お会いしたかった!」
いきなりのことで、あっけにとられたが、多分この子が、あたしの妹なんだろう。
あたしより若干背の小さなその子は、金髪のストレートロングヘア―、碧い瞳に、白い肌、童顔でとても可愛らしい。
ちなみにあたしは黒髪のセミロング、瞳は黒く、周りには美人って言われるけど、そんなことはまあいい。
「お姉様、わたしの名はソフィーっていうの。守護院でシスターをしているのよ」
抱きついていたあたしから離れ、目の前でお辞儀をするソフィー。天真爛漫って感じだ。なんか輝いてるわね。
「あたしはクレアよ。魔術学院で魔術を勉強しているの。よろしくね、ソフィー」
ソフィーに応えるべく、あたしも一礼をする。それに対してニコッと微笑むソフィー。いい子ね。いい子だわ、とっても。
あたしの手をとったソフィーは、玉座のほうへあたしをいざなう。
「クレアお姉様、ぜひ、王様にご挨拶を」
壇上には、王冠をかぶり、正装に身を包んだ中年の人物が、玉座にちょこんと腰を下ろしている。 これで、若いころはなかなかの好男子だったのではと思われる様相であったが、いかにも、くたびれきった面もちだった。視点もどこを見ているのだろうか、ボ~っとしていて呆けている感がする。
話しによると、この人が父親だそうだが、今さらそんなことを言われても、なんの感情もわかない。まあ、王に対する一市民ということで挨拶させていただこう。
そのときであった。気配に後ろをふりむくと、剣を持った人物が、タタタタっと、この部屋のドアのほうから走ってくる。
あたしの手を握っていたソフィーが、「ちょっと、あんたどいて!」と、いきなりあたしを突き飛ばし、走って来た人物と対峙した。
突き飛ばされたあたしは、カーペットにゴロっと転がり、あっけにとられたまま、目の前の出来事を見るしかなかった。