魔術学院 ①
話は三日前に、さかのぼる。
その日の昼休み、あたしは寄宿舎の中庭で空を見上げていた。
ここは、ローレンス王国の国立魔術学院。あたしは、この学院の寄宿舎に14年、籍をおいている。
今の年齢が17歳だから、3歳のときから、この学院で魔術を学習していることになる。
この学院は、国の命を受け、魔術の習得を目的に創立された。
ここを卒業すると、国の機関へ配属されるのだが、その配属箇所は様々で、軍隊であったり、病院であったり、さらに成績が良いと、王宮などへも勤めることがある。
もちろん、成績が悪ければ、退校処分となり、一般人として生活する生徒も大勢いる。
「クレア、さがしたよ。なにをしているんだね?」
空を見上げるあたしのところへ、この学院の講師である、タレス先生が近づき、声をかけてきた。
めずらしいこともあるものだ。この人は幼少部担当の講師で、高等部に在するあたしとは、特段接点もないので、めったに話すこともない。むろんあたしが幼少部にいたときはお世話になったものだが。
ただ、30代半ばではあろうけれど、長身で甘いマスクをしていて、女子生徒からは常に注目をあびている人物だ。
なにか用かしら?でも、その前に、ひとつ試してみるか。
「タレス先生、気がつきませんか?」
あたしは、視線を空から外さず、タレス氏に言った。
すると氏は、問いに対する答えを出すために、あたしと同じように空を見上げた。
「ふむ、いい天気じゃないか。昼寝でもしたくなるような青空だ。ははは」
昼寝か~、のん気な先生ね。やはり分からなかったか。
でも仕方ないか。この些細にして微小な異変の気配は、そうそう感じられるものではない。今のところ、うっすらと漂い、ほんのわずかに感じるそれは、あまりよくないものであると、あたしの本能は認識した。
「クレアは、もう17歳だが、将来の夢などは持っているのかな?」
最近は、ほとんど話したこともないこの先生から、将来の夢などという、あたしのプライベートに立ち入ってくる質問を唐突に投げかけられ、いささか動揺する。
「・・夢というよりは実現したい現実があります。あたしは間もなく卒業の時期ですが、卒業後はこの王国にとどまらず、広く世界を見聞したいんです。学園長に相談したら、国の外交使節に仕えるのが希望に近そうなので問い合わせると言って下さいました」
「ふむ、成績最優秀の君のことだから、どんなところでも受け入れてくれるだろうね」
タレス先生を見ると、柔和にあたしに微笑みかけている。なんか分からないけど、心がドキッとして気恥ずかしさを覚え、視線をそらしてしまう。うつむきチラッと上目づかいで話を続ける。
「先生、あたしを探していたとおっしゃってましたが、なにか、あたしに用があったんじゃありませんか?」
「ああ、そうだ、学院長から、君を呼んできてくれと言われてたんだ。王宮から使いが来ているそうだ。君が、あまりにきれいなのに見とれて、忘れちゃってたよ、アハハハハ」
え~い、アホか!
なにが、アハハよ!この大事な時期にもう!
そう、あたしにとって今はとても大事な時期。それは、あたしの進路希望への回答が、近々あることになっていたのだ。
王宮から使いが来ているということは、外交使節に仕える件なのだろう。たぶん面接でも行われるんじゃないだろうか?
希望への第一歩に、高揚と緊張を抱え思案するあたしがいて、そのあたしに、僕と一緒に行こう、と言うタレス先生。
?・・タレス先生も一緒に・・
ふ~ん、あたしを連れてきた報告を学院長にするためか?そこに若干の疑問を抱くも、たいしたことでもなく、タレス先生にいざなわれるまま、学院長室へと歩みを進めた。