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駄エルフ忍者  作者: S.U.Y
第三章 上忍 魔界編
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忍務53 忍魔大戦・首無し騎士と、大タコの戦い

 聖王国の忍者たちには、謎が多い。大部分の者が、奇人変人であると言って良いくらいだ。そんな中で、至極単純明快な一人の忍者がいる。それが、上忍ゴンザである。

 禿頭髭面の大男であり、忍者服を盛り上げてはち切れんばかりの筋肉は天然ものである。忍者服の下には何ら秘密などはなく、毛むくじゃらのマッチョな肉体があるのみだ。

 頭の中身も単純明快であり、根性があればどうにかなる、という思考のみで動いている。そして頭目に忠誠を誓い、頭目のためならばどんな無茶でも根性で乗り越えてきたのだ。

 用いる忍術も、また単純である。ゴンザはただただ肉体を強化し、強靭な筋肉で敵を粉砕する。得意な武器は鞭であり、片手に四本ずつ、計八本の鞭を自在に振るう。ゴンザは自らの鞭技に、自在鞭と名付けていた。叩き、斬り、締め上げる等文字通り自在に鞭を操るこの術は、ゴンザとその愛弟子であるダクにしか使えない。

 この単純明快を絵に描いたような男には、意外なことに妻子がいた。ゴンザは叩き上げの努力家であり、若い頃から禿頭であったがモテてはいたのだ。彼の妻の名はルリエといい、ルリエはエルフであった。長きにわたる争奪戦を勝ち抜いた彼女は、今でもゴンザと仲睦まじい家庭を築いている。

 ゴンザとルリエの間には六男五女の子供がおり、各地の上忍のもとで修行の日々を送っている。手元に置いて育てれば、厳しく当たりすぎて壊してしまいそうだから、とはゴンザの言葉である。

 ともあれ、ゴンザは忍者にしては真っすぐで、わかりやすい男なのであった。



 両手の鞭を握りしめ、ゴンザは機をうかがう。対峙するのは、ポンペインと名乗った魔族の忍者だ。

「むぅん!」

 ゴンザの鞭が、ポンペインの頭に向かって振り下ろされる。右手の鞭は同時に、首、足、胴の三点にも打ち下ろされていた。

 音速を超えるゴンザの鞭の一撃を、ポンペインは右手を上げて受け止める。首、足、胴の三か所とともに、激しい衝撃波を伴い鞭が絡みつく。

「なるほど。ダク殿の鞭より、威力があるな。これが、オリジナルの自在鞭であるか」

 鞭で拘束され半身の自由を失いながら、ポンペインは余裕の声を上げる。ギリリ、とゴンザの手により鞭が締め上げられ、ポンペインの忍者服に食い込んでゆく。袋の口のように首を絞られて、ポンペインはなお笑っていた。

「吾輩に、絞め技は無意味である!」

 すぽん、とポンペインの頭が抜ける。

「何じゃと!」

 目を見開くゴンザの眼前で、ポンペインの首がふわりと浮かぶ。同時に、ゴンザの鞭がぐいと引かれた。身体をつんのめらせて前にたたらを踏んだゴンザの胸に、首の無い忍者服の左腕がうなりを上げて迫る。

「もらった!」

 強烈なパンチを、ゴンザは左腕一本でガードする。思わず、鞭を取り落としそうになるほどの威力があった。

「甘いわ!」

 ゴンザの左足が上がり、ポンペインへの胴蹴りが決まる。忍者服がひしゃげ、くたりと折れ曲がる。

「ふはは、甘いのは、そなたである!」

 ポンペインの左手が、忍者服の懐に差し入れられる。何かが出て来る、と身構えるゴンザの前に、取り出されたのは新たな忍者服だ。

「吾輩にとって、身体とは武器であり替えのきく部品でもあるのだ!」

 ゴンザの鞭に拘束されたまま、ポンペインの身体がくしゃりと崩れる。直後、左手に持っていた忍者服がポンと膨らみ、首の無い新たな肉体が生まれた。

「ぬん!」

 ゴンザは前蹴りを放ち、膨らんだ忍者服に足裏を叩きこむ。両腕をクロスさせて、ポンペインの忍者服がその一撃をしのいで跳び下がる。背後に浮かんでいた首を、忍者服が首の上に据えた。

「そなた、なかなか強き者であるな! 吾輩、ゾクゾクしてきたのである!」

 再び鞭を振るおうとするゴンザの内懐へ、ポンペインが踏み込んでくる。

「速い、なれば……!」

 両手の鞭を手放し、ゴンザは身を低くして突進してくるポンペインを迎え撃つ。横殴りに振り下ろすゴンザの拳を、ポンペインの右腕が防ぐ。

「なんとも、痺れる威力である!」

 顔のすぐ横で止まった拳を見やりながら、ポンペインが称賛の声を上げる。

「まだまだ!」

 ゴンザの左腕が、唐竹割りの勢いで振り下ろされる。岩をも砕く、ゴンザチョップだ。脳天めがけて振り下ろしたその手を、ポンペインは白刃取りで受け止める。

「させぬ、のである!」

 ポンペインの足が閃き、ゴンザの腹に強烈な蹴りが叩きこまれる。勢いよく、ゴンザの身体が後ろへ吹き飛んだ。腹を押さえつつ、ゴンザはすぐに立ち上がる。

「お前も、中々やるな。根性が無ければ、内臓を痛めておったところじゃ」

 腹をさすりながら、ゴンザはにやりと笑う。

「吾輩の蹴りを受けて、何とも無い、であるか? そなた……まことに人間であるか?」

 呆然とするポンペインに、ゴンザは胸を張る。

「おう、わしは人間じゃ! ゆえに、根性がある!」

 ゴンザは両手を懐に入れて、即座に八本の鞭を取り出す。素早く放たれる八連撃は、ポンペインの両手両足、そして首と頭を打ち据える。

「ぬぐわああああ!」

 ポンペインが、初めて苦痛の声を上げた。

「やはり、頭が弱点のようじゃの」

 ようやく感じた手ごたえに、ゴンザは口角を上げる。鞭の先端が、生き物のように蠢きポンペインの頭に絡みつく。

「ぐ、は、離すのである!」

 もがくポンペインの四肢を、ゴンザは鞭で縛り付ける。指一本、動かさせぬままポンペインの顔に鞭は食い込んでゆく。

「これぞ、忍法自在鞭じゃ!」

 くたり、とポンペインの四肢から力が抜けた。直後、側に落ちていた忍者服が膨らむ。

「わ、吾輩の、身体は……!」

「それも、お見通しよ!」

 ぺしゃんこに萎んだ忍者服を六本の鞭が手放し、新たに立ち上がった忍者服に向かって伸びる。両足を取られ、忍者服は転倒した。

「ぐ……ま、まだ、まだ、である」

 青黒い顔に苦悶を浮かべ、ポンペインは呻く。

「しつこい奴じゃ。ひと思いに、絞め潰してやろう」

 ポンペインの頭へ、さらに二本の鞭が追加で巻き付く。ぐるぐる巻きになったポンペインの首が、ぎりりと締め上げられる。

 鞭を操るゴンザの視界の端で、忍者服が震える指先を懐の中へと入れるのが見えた。あ、と思う間もなく、ポンペインの忍者服の中から新たな身体が現れる。ぺしゃんこに崩れる身体から鞭を引き、ゴンザはそいつに鞭を絡ませる。だが、今度の身体は様子が違った。締め上げが、通じそうにない。

 懐から取り出されたその身体は、錆びてはいるが金属の全身鎧だった。手足を拘束する四本の鞭をものともせず、腰の剣を抜いて鞭を叩き切る。そのまま、ガシャリ、ガシャリと足音を立てて、頭を締め上げる鞭を両断する。

「そ、それは……その、鎧は!」

 短くなった鞭を捨てて、ゴンザは眼をひんむいて叫んだ。忍者頭巾の頭を鎧の首に据えて、ポンペインはにやりと笑う。鞭の跡が落書きの線のように描かれていて、いまいち締まらない顔だった。

「吾輩の、元の身体である。そなた相手には、こちらのほうが都合が良いようであるな」

 布製品から、金属製品への突然変異だった。ポンペインの剣も錆びついたように見えるが、鞭を切断できるところをみると相当の業物である。ゴンザの禿頭に、冷や汗が浮かぶ。

「それでは、第二ラウンド開始、である!」

 頭巾首を小脇に抱え、ポンペインは右手一本で剣を構える。その小手には、小盾が装着されていた。応じるように、ゴンザは八本の鞭を懐から取り出し、構えた。

「むぅん!」

 先に動いたのは、ゴンザである。八本の鞭をしならせて、狙うはポンペインの頭巾首だ。八本の先端が、鋭く頭巾首に伸びる。

「笑止! である!」

 ポンペインの小盾が、一撃を遮った。

「狙いどころが知れれば、攻撃を防ぐに難きこと無しである!」

 小脇に抱えた首を守りながら、ポンペインがガシャリガシャリと歩を進める。ゴンザはじりじりと、距離を取りながら横へと動く。ポンペインは向きを変えず、真っすぐに歩く。

「これは……もしや」

 ゴンザは呟き、ポンペインの剣を持つ右手側をくるりと回り背後に立つ。ポンペインは反応せず、ただただ真っすぐに歩き、そして剣を振り上げる。

「これで、終わりである……な、何、消えた?」

 驚きの声を上げるポンペインの背後から、ゴンザが鞭を振るった。狙い通り、それはポンペインの後頭部をぴしゃりと叩く。

「あいたっ! し、しまった!」

 すぽん、と音立てて、ポンペインの首は小脇から抜き取られた。ゴンザが鞭を操り、巻き付けて引っ張ったのだ。

「戦いのさなかに、敵から目を離すやつがおるか、この馬鹿者め!」

 引き寄せたポンペインの頭に、ゴンザは拳骨を落とす。ごいん、と鈍い音が鳴った。

「痛い! 痛いである!」

 続いてゴンザは、こめかみに拳を当ててぐりぐりと回す。うめぼし、と呼ばれる忍者の拷問術だ。ゴンザの前で、あらぬ方向を向いたままの全身鎧がギブアップの合図として地面を叩く。だが、ゴンザは力を緩めない。

「修行と、根性が足りぬわ! 未熟者が!」

 ガシャン、と全身鎧が崩れ、ゴンザの背後で忍者服が膨らむ。足音を忍ばせて歩み寄ってきたそれを、ゴンザは振り返りもせずに後ろ足で蹴りとばす。

「これくらい、気配でわからぬか!」

 吹き飛ばされた忍者服が、ぷしゅんと萎んだ。

「ま、まいりました! まいりましたゆえ、離してほしいのであるー!」

 悲痛な叫びが、草原にこだまする。完全に戦意を失ったポンペインの頭を、ゴンザはしばしの間ぐりぐりし続けていた。


『ほえ? いま、ポンペインさんのこえがしたような……?』

 木炭となったゲノーバを懐に仕舞いながら、長い耳をぴくりとさせてダクが呟いた、ダクの向かう先、ユラの元からは離れた、前線の方からその声は聞こえてきた。

『ポンペインさんなら、だいじょうぶだよね』

 情けない悲鳴のような声だったが、ダクは気にしない。今、ダクにとって大事なのは魔王ユラの安否なのだ。

「ぎゃあああ! ダク殿、助けてであるー!」

 風に乗って聞こえてくるそんな叫びを黙殺しつつ、ダクは走る。爆発のダメージとダンゴ、キャロとの戦いで傷つき消耗した小さな身体に鞭をくれながら、必死に走る。先にある、ユラともうひとつの、大きく懐かしい、正体不明の気配を目指して。

『ほえ、ユラさま、とーもく……いま、いきます!』

 魔族と忍者の争う戦場の中を、ダクは駆け抜ける。空は茜に染まり、いつしか戦場は夕暮れの色に染め上げられていた。

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