表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駄エルフ忍者  作者: S.U.Y
第三章 上忍 魔界編
53/71

忍務47 染められちゃう魔族

 魔族とは、基本的に長寿の者が多い。魔界で力を示し、魔物の中でも抜きんでた実力を持つものや、生まれながらのエリート種族などで構成されているため、短命なものが淘汰されていった結果である。

 人間と比べ途方もない寿命を持つ彼らにも、世代交代というものはある。冒険者によって討伐された先代の無念を晴らす的な交代もあれば、決闘により若い世代に負けたロートルが消滅の際に後を託す、などなど事例は多岐にわたる。

 太古の昔より、受け継がれてきたものを、魔族たちは大切にしてきた。それは技術であったり、魔力であったり、あるいは装備であったりする。眉唾物ではあるが、世界創造に使われた戦槌、などというものも伝わっているという噂まであるのだ。

 長命であり頑健な生命である彼らは、偉大なる伝説を受け継ぎ今日まで生きてきたのだ。失われたものもまた多くあるが、継承された伝統を彼らは誇りに思う。そういう意味で、魔族とは保守的な種族の集まりであると言えよう。

 重厚な歴史と伝統の重みは、ときに進化の足かせとなる。それでも、彼らには守り続けてきたものがあったのだ。革新の嵐の吹き荒れる、そのときまでは。



 魔族四天王の座についたダクは、魔王ユラの命により着々と魔族内に勢力を伸ばしつつあった。強さを測る指針である魔力は皆無だが、ロウドスとの決闘は多くの魔族が目にしたわかりやすい強さである。さらに、騎士団長のポンペインがダクに傾倒していったのも大きい。今や魔族の中の勢力図は、旧来の統括である魔将軍派と新勢力の忍者派に分かたれていた。

「計画は、順調のようだな、ダク」

 謁見の間の玉座に座るユラが、膝下に身を置くダクへと声をかける。謁見の間には魔族たちが居並んでいるが、その様はひと月前のダクの顔見せの時とは違った光景になっていた。

 赤絨毯の両サイドに、魔族たちは列を作り並んでいる。そこまでは、変わりは無い。だが、絨毯の片側に並んでいるのは、忍者装束の魔族たちになってしまっている。

 しれっとした顔で忍者の列の先頭を務めるのは、頭巾頭を首の上に据えたポンペインだ。以下、リザードマンの忍者、ミノタウロスの忍者、よくわからない不定形の忍者と忍者が続く。

 ダクの右腕として四天王に昇格したポンペインが、精力的に忍者服を広めた成果であった。重い鎧としがらみを脱ぎ捨てたポンペインは、強力な体術と幻惑系の忍術によって半数の魔族を力で押さえつけ、麾下としたのである。

「ほえ。魔王様ノオ望ミノママニ、忍者ノ軍勢ヲ作リ上ゲマシタ」

 首を垂れるダクの頭を、ユラは愛しげに足先で撫でる。その様子を苦虫を噛み潰したような顔で見つめるのは、魔将軍だ。己の麾下である暴風のヴァルカンと爆炎のシティリア、そして魔将軍を慕い忍者を拒んだ半数の魔族たちも、同じように渋面を作っている。

「恐れながら、魔王様」

 魔将軍が、後ろ手に手を組んだままユラに話しかける。

「なんぞ、アドルフ。余は、ダクを愛でるのに忙しいのだ」

 魔将軍には顔も向けず、ユラはぐりぐりとダクのつむじを靴先でいじる。絶妙な力加減があるのか、ダクには痛みは感じられない。少し、こそばゆい程度である。

「御愉しみの最中ではございますが、どうしても、申し上げたき儀がございます」

 かしこまって言う魔将軍に、ユラはようやく顔を上げた。

「手短に、申せ」

 はっ、と魔将軍は短く返事をして、息を吸う。

「ダークエルフの子供を愛でるのは良いのですが、忍者とは手を御切りいただけませぬか?」

 一拍置いて、魔将軍は言い切った。思い切った発言に、場の魔族たちはざわついた。何を馬鹿な、とは忍者側の、よくぞ言上してくださった、というのは魔将軍派の魔族たちの声だ。

「静まれ」

 ユラの命令に、魔族たちは一斉に押し黙る。それはもはや、一種の芸のような光景だった。

「何故、それを申すのだ」

 不機嫌さを顕わにして、ユラが下問する。

「忍者は、危険な存在であるからでございます」

 揺るぎない声で、魔将軍は答える。うんうん、とうなずくのは魔将軍派の魔族たちだ。

「何故忍者を危ぶむのだ。このように、余は忍者を飼いならしているぞ」

 そう言ってユラが手招きをしたので、ダクは立ち上がりユラの側へ寄る。ぎゅむ、とユラがダクを抱いて、頭をなでなでする。目を細めて愛撫を受け入れるダクは、まさに飼いならされたと形容するに相応しい様子である。

「それは擬態やも知れませぬ。陛下の寝首を掻くための」

「余の魅了術に、疑いを挟むというのか?」

 魔将軍の言葉を遮り、ユラが問う。その圧力に、ヴァルカンとシティリアは全身に汗をかいた。だが、魔将軍は怯えた様子を見せず、堂々とユラを見返していた。

「先代の魔王様でさえ、忍者という存在に暗殺されたのです。君子危うきに近寄らず、という言葉もございますれば」

「だからこそ、身辺に忍者を侍らせておくのだ。わからぬか?」

「……我々魔族の力を、お疑いであると?」

「先代魔王はそなたらの警備をすり抜けてきた忍者によって、暗殺されたのだ」

 言われて、魔将軍は言葉に詰まった。

「毒を以て毒を制す、という言葉がある。忍者に対するには、忍者を用いるのが上策というものではないか。そうだろう、ダク?」

 胸に抱いたダクへ、ユラが視線を落とす。こっくりと、ダクはうなずいた。

「ほえ。聖王国ノ忍者ニハ、指一本触レサセマセン」

 にぱ、と笑うダクに、魔将軍は苛立った顔を向ける。

「ええい、ダークエルフの誇りを忘れ、忍者の外道に堕ちた慮外者め! そなた、一体何を企んでいる!」

 魔将軍の声に、ダクはユラの腕から離れて対峙する。

「ほえ、ボクハ、ユラ様ノタメダケヲ考エテマス」

 平然と言い切るダクに、魔将軍のこめかみに浮かんだ血管がぷちんと切れた。

「だまらっしゃい!」

 魔将軍の手からバッテン印が飛び、ダクの口に貼りつく。相手に沈黙を強いる、恐ろしい魔術である。

「ムームー」

「そのような抜けた態度で我らの油断を誘い、魔王陛下を害するつもりであろう! 我らの矜持を奪い、忍者などに変えおって……」

 手を横へ払い、魔将軍が忍者となってしまった魔族たちを見やる。

「忍者の術をあやつらに仕込ませたのは、余なのだが」

 憤慨する魔将軍に、ユラが横から言った。

「手駒を増やし、我らを滅するつもりであろう! 違うと言うなら、言ってみよ!」

 ダクをねめつけて、魔将軍は言った。むーむー、としか言えないダクには、否定はできない。魔将軍はこれをもって、強引にダクを排する心づもりであった。

『ほえ。ちがいます。そんなつもりは、ありません』

 だが、ダクは答える。気配による、腹話術である。通常の腹話術とは口の動きを工夫するものが主であるが、忍者の場合は違う。たとえ口が塞がれようと、水中であろうと、真空状態であったって声が出せるのだ。もちろん、声が遅れてくることも無い。

「め、面妖な術を! それに、何か声が違うような……」

 忍者の腹話術にも、欠点はある。気配そのもので喋るので、声色の誤魔化しがきかないのだ。

『ほ、ほえ、なにか、へんですか? いつものこえですよ?』

 あたふたと言い繕うダクの横合いから、ユラの腕が伸びてきた。

「おお、ダク。そなた、そんな声も出せるのだな。可愛い!」

 ぎゅむ、と再びユラに捕まえられて、ダクはまた抱き寄せられた。

『ほえ、ユラさま、くるしいです』

「うむ、うむ。よーしよしよし」

 頬擦りしながらご満悦のユラに、ダクは成す術も無い。

「魔王様、お放しください! このような面妖な術を用いるとは、やはり忍者は危険にございます!」

 言いすがる魔将軍に、ユラはキッと厳しい視線を向ける。

「まだ、申すか。そなたは余計なことを気にせず、人族領域への侵攻を進めよ!」

 もはや、ユラは聞く耳を持たない。そう理解した魔将軍は、がっくりとうなだれた。

「かしこまりまして、ございます……」

 そのまま引き下がるかに見えた魔将軍が、がばっと顔を上げた。

「では、魔王様。人族への大侵攻を、お許し願えますでしょうか」

 魔将軍の言葉に、ユラはうなずく。

「うむ、よかろう。我ら魔族の総力をもって、聖王国を滅するのだ」

 ユラの命に、魔将軍は首を横へ振る。

「いいえ、魔王様。大侵攻には、半数だけを伴いたくございます」

「半数? どういうことか」

 魔将軍に怪訝な目を向けて、ユラが聞いた。

「ここにいる、忍者以外の魔族をもって聖王国の忍者を滅して参ります。さすれば、魔王様を脅かす忍者もいなくなり、忍者を側に置く理由も無くなりますれば」

 それは恐るべき、魔将軍の執念であった。魔将軍の眼を見つめて、ユラは息を吐いた。

「そなたは余程、忍者を嫌っておるのだな」

「先代魔王様を、弑し奉った者どもにございます」

「それ程の相手を、半数の兵でどうにかできると思っているのか?」

 ユラの問いに、魔将軍は不敵に笑い、うなずく。

「そのための、準備はしてきたつもりでございます」

 そう言った顔は、魔将軍としての矜持と覚悟に満ち溢れていた。こうなれば、もはやユラに止めることはできない。ユラを魔王として擁立したのは、他ならぬ魔将軍なのである。

「……よかろう。力を示せ、魔将軍。聖王国の忍者どもに、魔族の恐ろしさを見せつけてやるのだ」

 はっ、と頭を下げ、麾下を連れて退出しようとする魔将軍の背に、ユラが待ったをかける。

「アドルフ……」

 名を呼ばれ、魔将軍は振り向いた。その眼には、感慨深い色があった。生きては帰れぬかも知れない大戦を前に、幼少の砌より仕えてきた魔王ユラからどんな言葉が下されるのか。武人としての誉れと親心のようなもので胸をいっぱいにして、魔将軍はユラの言葉を待つ。

「ダクのバッテン印は、このままにしておくように。余は、この可愛い声をもうしばらく楽しんでいたい」

 にっこりと笑ったユラからの言葉は、それだけだった。

「……仰せのままに」

 ユラに背を向けた魔将軍は、憤懣やるかたないといった様子で謁見の間を辞した。

「何としても、勝たねば……! そして、忍者を魔界から追放してくれる!」

 バタンと背後で閉まった巨大な扉の前で、魔将軍は誓いも新たに歩き出すのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ