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駄エルフ忍者  作者: S.U.Y
第二章 中忍編
38/71

忍務34 大きな大きな火山の竜

 魔術師の使役するゴーレムと、ゴーレム系の魔物にはいくつかの違いがある。

 まず作成過程において、魔術師のゴーレムは体組織の素となる材料が必要な点だ。ウッドゴーレムならば木材を、アイアンゴーレムなら鉄材を必要とする。

 一方、魔物として生み出されるゴーレムは、始めは丸い核のみで誕生する。それから、周囲の物質を取り込んで肉体を形成するのだ。

 ゴーレムが核を中心として肉体を組み上げるのは、変わらない。だが、多くの魔術師が生み出すゴーレムは、胸の中心部分に核を置いている。これは、生成時点での肉体の安定に関係しているという。核を得た時点でゴーレムは起動をはじめるため、魔術師はゴーレムの核を最後の仕上げとして埋め込まなければならないのだ。

 対して、魔物のゴーレムは核の位置を自在に動かすことができる。核自身が生命体であり、肉体は殻に過ぎないからだ。

 だが、魔物のゴーレムたちも、核を胸部装甲の内側に置くことが多い。次いで、頭に置く個体がほとんで、手足などの末端に核を置くものは少数派である。ヒト型のゴーレムならば、胸や頭は守りやすく、攻撃に使用する四肢に核を置くのは危険だからだ。

 だが稀に、変わった場所に核のある個体に遭遇することもある。ゴーレムの上半身を吹き飛ばして油断した冒険者が、勝利のポーズのまま握り潰されたという報告も、上がっているのだ。

 ゴーレムは、核を破壊するまで止まらない。これは、魔術師の生み出すものも魔物も同じ特徴なのだ。



 急峻な斜面のそこかしこに、マグマ溜まりがぽこぽこと泡立っていた。むっとする熱い空気が、ダクたち一行を包みこむように広がっている。

「うぅ、暑ちぃぜ……」

 顎まで滴ってきた汗を拭いながら、オジィが呻いた。体内のアルコールは汗と共に揮発してゆくようで、オジィの運動能力は一気に落ち込んでしまっていた。寄り添って肩を貸すヒースがいなければ、満足に歩くことも難しい。

「ミツメちゃん、大丈夫? すごい汗だよ」

 クリスに抱っこされたままのミツメの顔じゅうに、汗の粒が浮かんでいる。クリスは心配そうな顔で、ミツメに水筒を差し出す。

「あ、りがとう、ですわ……」

 ミツメは水筒を受け取り、わずかに躊躇った後に口をつける。間接キスだ、とかそういったときめきは、命あっての物種だ。

「少しずつ、ゆっくりと口に含んで飲むといいよ。何なら、ボクが飲ませてあげようか?」

「結構、ですわ……んぐ」

 ミツメを抱えたままのクリスには、まだまだ余裕があるようだった。

「ほえ……あついね」

 ダクも、長い耳をへにょりとさせて忍者服の襟元をぱたぱたと引っ張る。隣を歩くサーラが、ふんと鼻を鳴らした。

「だらしがないな。聖王国の忍者とは、こんな暑さにも耐えられないのか」

 そう言うサーラは、マントの下で袖をめくっていた。

「ほえ、からだじゅうから、あせがでてくるみたい」

 片手を行く手へと向けながら、ダクが言った。ダクの忍法で、一行の周囲には風の結界が張られている。これが無ければ、暑いどころでは済まないのだ。

 ゆるゆると山を登っていく一行の前に、赤黒い丸太のようなものが現れた。山道を横断しているそれは、見事に行く手を遮っている。

「ほえ、なんだろ、これ?」

 ダクの問いに、サーラもそれに近づいてしげしげと眺める。黒々とした皮のようなもののついた、丸太に見える。高さは、ダクとサーラの背丈ほどもあった。

「飛び越えていくしか、なさそうだな」

 サーラの意見に、全員がうなずいた。まずはサーラとダクが難なく飛び越え、続いてクリス、それからオジィとヒースがなんとか跳躍する。

「よ、余計な体力、使っちまった……」

「もうひと頑張りです、オジィ」

 寄り添いながら、ヒースがオジィの口に水筒の水を放り込む。甲斐甲斐しく世話を焼く様は、健気な妻と情けない夫、といった図式が浮かぶものだった。

「ヒース。その男は、捨てて行ったらどうだ?」

 サーラが呆れたように二人を見やり、言った。対するヒースは、まるで大事な人形でも抱きしめるようにオジィの身体に手を回し、いやいやと首を振る。

「この人を捨てるなんて、とんでもない! 私は、なんとしてもオジィと一緒にいます」

 ヒースの言葉にクリスが口笛を吹き、サーラは呆れたように肩をすくめて背を向ける。立ち止まっている時間が、惜しいのだ。

 黙々と、山道を登る。火竜の棲み処へと近づいているのだが、他の魔物や動物、さらには植物さえも見当たらない。身を焼く空気と、マグマ溜まりがちらほらとあるだけだった。

 ぞろぞろと歩く一行の前に、再び赤黒い丸太が姿を見せた。それは先ほどのものよりも大きく、高さがある。

「ほえ……またこれだ」

 ダクの声に、サーラは丸太へ手を伸ばす。布手袋に包まれた手が、丸太に触れたとたんに弾かれたように引っ込められた。

「熱っ……この丸太、かなりの熱を持ってるな」

「触れないように、乗り越えていきましょう」

 ヒースの提案に、皆うなずく。今度の丸太は、オジィの背丈くらいの高さがあった。

「ほえ。それじゃあ、忍法、かたぐるま!」

 印を組んだダクの肩に、オジィが立つ。そして、跳躍した。へろへろとオジィが放物線を描き、なんとか丸太の向こう側へと着地する。

「ボクも、乗っていい?」

 クリスの問いに、ダクはうなずく。

「ほえ。なんにんのっても、だいじょうぶ!」

「それじゃあ、お言葉に甘えて……跳ぶよ、ミツメちゃん」

「ダク様を足蹴に……ごめんあそばせ!」

 謝るミツメを抱きかかえたままクリスも跳んで、へたり込むオジィの隣へと着地する。

「わ、私も……」

「ほえ。どうぞどうぞ」

 続いてヒースがダクに乗り、跳躍する。

「サーラもやる?」

 ダクの問いに、サーラはぷいと他所を向いて自分で跳んだ。危なげなく、その身は丸太を越えていく。残ったダクも、問題なく跳び越える。みんなが揃ったところで、一行は再び進み始める。山頂は、すぐ側に見えていた。

「ほえ、なにかたってるね」

 山肌を指差すダクの声に、みんなが視線を動かす。白い三本の、柱のようなものがあった。

「なんだ、この柱は?」

 柱は地面に突き立っており、下の部分が細くなっている。柱の上には、赤黒い岩のようなものがあった。

 ダクは柱に近づいて、こんこん、と叩いてみる。

「ほえ、かたいよ」

 柱の硬度はかなりのもので、折ったり砕いたりは出来ないかもしれない。首を傾げながらも、道を塞いでいるわけでもないのでダクは歩を進める。一行も、それに続いた。

 山から見下ろす景色が、かなりの高さになった。頂上まで、もう少し。そんな確信が得られたダクたちの前に、またもや丸太が姿を見せる。

「ほえ……おっきくなってる」

 丸太を見上げ、ダクが感心の声を上げる。すでにして丸太というより壁のようなそれは、背の高いオジィとクリスを縦に並べたよりも高くそびえ立っている。

「この丸太も、高熱を持っているようだな」

 丸太に手を近づけたサーラが、首を横へ振る。跳び越えることは難しい高さで、登攀していくことも出来そうにない。

「それじゃあ、壊して進むしかないね」

「ほえ。ぼくにまかせて! 忍法、かまいたち!」

 ダクの両手が交差し、生じた真空の刃が丸太へ到達する。だが、丸太の表面で真空の刃が弾かれ、乾いた音を立てた。

「ほえ……すっごく、かたい」

 目をまん丸にするダクを、サーラが押しのける。

「お前の忍法とやらが、へなちょこなだけだ。私がやる」

 サーラの短刀が閃き、丸太にいくつもの斬撃が叩きこまれる。だが、短刀の刃は丸太の表面で弾かれ、びくともしなかった。

「くっ、こいつ、硬い……」

 戦慄しながら下がり、衝撃で痺れた手を撫でながらサーラが言う。背後にいたヒースが、三日月刀をすらりと抜いた。

「それなら、私が……」

 ひゅんひゅんと三日月刀がヒースの手で踊り、空気を切り裂く。回転させることにより、遠心力と重量を充分に乗せた一撃が、丸太に向かって振り下ろされた。三日月刀の刃が、丸太にわずかに食い込んでいく。とたんに、丸太が大きく跳ねた。

「きゃあっ!」

「ヒース!」

 三日月刀ごと跳ね飛ばされたヒースを、オジィが受け止める。後ろから抱かれたヒースは、頬を少し緩めたが自分の得物に目をやると、その表情が凍り付く。

 三日月刀の刃の中ほどが、わずかに曲がっていた。その表面には、白い煙が上がっている。刃が、溶けたのだ。そう理解したヒースが前方に目をやると、跳ねた丸太がどしんと地面を叩き、山肌を揺らすのが見えた。

「こ、これは、丸太ではない!」

 サーラは叫び、揺れる地面に手をついた。

「ほえ。ミツメ、せんりがんを!」

 はい、とクリスの腕の中で、ミツメが目を閉じてうなずく。

「こ、これは……そんな、ああああ!」

 千里眼を発動させたミツメが、恐怖の叫びを上げる。だが、ダクたちはそれを待つことなく、その原因を知ることができた。山頂から、巨大な竜の顔がこちらを覗き込むように現れたのだ。

「先ほどから、こそばゆい攻撃を仕掛けてくるのは貴様らか、脆弱な人間どもめ」

 地を揺るがすほどの大音声で、竜が吠える。その顔は、赤黒い鱗に覆われていた。

「ほえ、さっきの、まるたじゃなかったんだ」

 全てを吹き飛ばしそうなほどの勢いの竜の言葉に、ダクは平然と立って言った。風の忍法を得意とするダクにとって、このくらいの暴風はなんともない。すぐに忍法結界を張り直し、サーラたちも保護をする。

「それは、我の尾だ」

 びたん、と竜の尾が、山肌を叩く。山頂の岩が砕け、溶岩流がダクたちへ向けて流れてくる。

「ほえ、忍法、ふーじんたつまき!」

 迫る溶岩を飲み込んで、ダクの起こした竜巻が竜に叩きつけられる。溶岩混じりの竜巻を受けた竜は、わずかに目を細めた。

「脆弱、なり! 貴様の風など、涼風ほどにも感じぬわ」

 暴風の塊を、竜は平然と耐えきった。

「ほえ……」

 ぽかん、と口を開けるダクの前へ、竜の顔がやってくる。

「我はこのビブロ火山の支配者、魔竜のロウドス! 我が前に立つ人間よ、この最強の火竜に何の用だ?」

 竜が口を開き、大音声で言う。ぞろり、と竜の口からのぞく白い牙が、威嚇するようにがちりと噛みあった。

「ぼくは……」

 答えようとするダクを押しやり、サーラが前に出る。

「我らは、バンジャン王国女王ホルス陛下麾下、レディアサシン! 魔竜ロウドス、お前の首を取りに来た!」

 サーラの言葉に、ロウドスはしばし黙り、そして哄笑する。

「ははは! 砂漠にこびりつくゴミども風情が、我が首を取る、だと? 思い上がりも、ここまでくると笑い話にしかならぬ!」

 笑い声の風圧だけで、前に出ていたサーラの身体がずるずると下がっていく。その背を、ダクの手が支えた。

「ダク! 邪魔をするな! これは、我らレディアサシンの使命……」

「ほえ。だいじょうぶ、サーラ。ぼくも、いっしょにたたかう!」

 力強くサーラにうなずいて、今度はダクが前に出た。

「ほえ! せいおうこくちゅうにん、ダク! おまえをやっつけてやる!」

 大見得を切って言うダクに、ロウドスが再び哄笑をぶつける。

「聖王国が、小童を寄越すか! ははは!」

 凄まじい逆風を受け、ダクの前髪が逆立つ。風の流れに逆らいながら、ダクは九字印を切った。

「りん、ぴょー、とお、しゃ、かい、じん、れつ、ざい、ぜん!」

 逆巻く風が、ダクを中心にロウドスへと吹き返していく。

「ほう、面白い術を使う小童だ」

 覇者の余裕を見せて、ロウドスはダクを見やる。

「ほえ! 忍法、たくさんのかまいたち!」

 ダクが手を振り回すと、無数の真空の刃がロウドスの顔へと飛来してゆく。ロウドスは一切動きを見せず、鎌鼬をその顔面で受け続けた。

「ははははは! そんなものか、小童……ん?」

 全ての真空の刃を受けきったロウドスが、訝しげな声を上げる。強固な鱗に覆われたロウドスの鼻先から、たらりと血が滴った。じゅう、と音立てて、ロウドスの血は岩を溶かす。重ねた鎌鼬が、ロウドスの鱗をわずかに切り裂いたのだ。

「き、き、貴様、この、我に、傷を……!」

 屈辱の声を出し、ロウドスが身を震わせる。火山が、ロウドスの動きに呼応するように鳴動を始めた。

「ほえ! ぼくたちは、まけない! みんな、いくよ!」

 ダクの号令に、一行はうなずく。火山の支配者、魔竜ロウドスとの戦いが、いま始まったのであった。

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