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駄エルフ忍者  作者: S.U.Y
第二章 中忍編
33/71

忍務30 すりーおんすりー

今回は少し長めです。

 バンジャン王国の公式記録において、アサシンという組織は存在しない。王国を揺るがす事件の後に、その痕跡が見られるだけである。

 オアシスを荒らしまわった大盗賊団の頭が不審死を遂げる、クーデターを企てた貴族が謎の病死を遂げる、さらには女王ホルスに夜這いをかけようとした冒険者が全裸で大通りに晒される、などといった事件があった。これらを成した者は、衛兵でも軍兵でもない。女王ホルスに仕える秘密部隊、アサシンなのだ。そういう噂が、誰からともなしに流れていった。

 王国の民は女王の治政を讃え、そしてアサシンを恐れる。王国の影を司り、決して表には出ず、自信の痕跡でさえ国内から綺麗に消してしまえる者たちがアサシンなのだ。



 門をくぐったダクたち一行は、宮殿の前庭にやってきた。等間隔で植えられたオリーブの木が、夜風に吹かれてそっとそよいでいる。背後の門の外側には、もう動くものの気配は無い。衛兵をすべて、蹴散らしてきたのだ。

「ほえ。もうすぐだよ、オジィ」

 顔色の怪しくなってきたオジィに、ダクが振り向いて声をかける。その足元に、短刀が飛来する。かつん、と音立てて、前庭の石の通路へと刃が突き立った。

「やってくることは、解っていた……」

 上方から、少女の声が響いた。ダクとオジィ、そして段ボール箱をかぶっているミツメが宮殿の屋根を見上げる。丸い屋根の頂点に掴まるように、アサシンの少女と二人の人影があった。足を止めて見上げる二人とひと箱の前へ、まず少女が屋根から飛び降り宙返りをして着地する。

「レディアサシンの一、サーラ」

 着地の姿勢から顔を上げ、少女が名乗りを上げる。

 続いて、三日月刀を背負った女が優雅に跳躍し、サーラと名乗った少女の隣へ静かに降りてくる。

「レディアサシンの二、ヒースよ」

 ふわり、と夜風に長い髪をなびかせ、女が名乗った。抜き放たれた三日月刀が、月の光を照り返して妖しく光る。

 最後に、無手の細身の人影がスマートに飛び、着地する。

「レディアサシンの三、クリス。ようこそ、侵入者さん。そして、さようなら」

 透き通った高い声で、名乗りを上げる。

「ほえー、かっこいいね」

 ぱちぱち、とダクは拍手をした。

「ぼくたちも、なのったほうがいい?」

 ダクの質問に、サーラは首を横へ振る。

「どうせ、ここで死ぬのだ。名前など、知る必要も無い」

 その言葉に、ヒースが眉をしかめて首を向ける。

「ダメよ、サーラ。彼らの素性を、知らなくては」

 抗議の言葉に、サーラは鼻を軽く鳴らす。

「どうせ、聖王国の連中だろう。忍者、とかいう連中だったか……そういう恰好だ」

「人は、見かけで判断しちゃだめだよ」

 決めてかかったサーラの言葉に、今度はクリスが反論する。険悪な空気が、三人のアサシンの間に流れた。

「ダク様、これって、チャンスじゃねえか?」

 オジィが、小声でダクに言う。ダクはうなずき、両手を上にあげてポーズを取る。

「せいおうこく、エルファンりょうのちゅうにん、ダクだよ!」

 高々と名乗りを上げるダクに、オジィがずっこける。段ボール箱の中で、ミツメもこけていた。

「違う! 今仕掛ければ有利に戦えるって……うぉえ、酔いが醒めてきた」

 ほえ? と首を傾げるダクを見やりつつ、オジィが顔を青くする。

「オジィ、もうはんぶん、のんでいいよ」

 ダクの許可に、オジィの手が素早く腰の竹筒に伸びる。ぐびり、と咽喉が鳴り、オジィの身体が小刻みに震えた。

「二日酔いには……迎え酒えええ!」

 大気を震わせる、オジィの絶叫が迸る。

「うるさい! 今、何時だと思っている!」

「ふぇふぇふぇ、こいつは失礼」

 サーラの叱責の声に、オジィは頭をかいた。

「ともかく、これでわかっただろう。こいつらは、聖王国の忍者だ。さっさと殺して、憂いを断つ」

 殺気を漲らせながら、サーラが二本の短刀を逆手に構える。

「そうね……レディアサシンの恐ろしさに、地獄で震えるといいわ」

 ヒースが三日月刀を振り、ひゅんと音を鳴らす。

「油断は禁物だよ、二人とも。こいつら以外にも、伏兵がいるかもしれない」

 拳を軽く握り、足を前後に開いたクリスが言う。

「ダク様ぁ……どうするつもりだ?」

 ふらふらと上体を揺らしながら、オジィが問う。

『ほえ。オジィはあのかたなのおねーさんのあしどめを。ミツメは、のこりのふたりをせんりがんでかんさつして、じゃくてんをさがして』

 問いかけに、ダクが気配で答える。うなずく気配が、オジィ、そして段ボール箱から発せられる。それぞれの構えで対峙する忍者とアサシンたちが、一斉にぶつかり合った。


 戦端を切ったのは、オジィとヒースだった。オジィは大人の男の手足の長さで、ヒースは三日月刀のリーチの長さでそれぞれ最初に力をぶつけ合う。

「ヒャア、止まって見えるぜえ!」

 華麗な剣捌きで斬りつけてくるヒースの一撃を、オジィは酒と忍術の力で見切り、剣の腹を殴って切っ先をそらす。

「速い……でも、素手では!」

 動きをいなされたヒースが、回転の動作を加えてさらなる斬撃を放つ。突っ込んでくるオジィに対し、後退しながらの胴薙ぎである。空気を裂く強烈な刃風が、オジィの忍者服の胸を浅く切った。

「やるじゃねえか……今の俺に、当ててくるとは!」

 言いながら、オジィはヒースの右へと駆け出す。剣を振るう上で、死角になる位置からの攻撃を目論んでいるのだ。もちろん、ヒースもさせじと同じ方向へ駆けながら、さらに斬撃を繰り出そうと剣の持ち手を返す。

「おっと、もうあんたの剣筋は、見切ったぜ!」

 身を沈め、迫る白刃をオジィがかわす。そのままオジィが放った足払いを、ヒースが軽く跳んでかわした。

「ふらふらと……やりにくい相手ね!」

 体勢の崩れたオジィへ振り下ろした刃が、ぬらりと避けられる。バネのように起き上がったオジィの拳が、ヒースの左手をかすめる。斬撃と、拳の応酬が激しく繰り広げられた。弧を描く、美しくも合理的なヒースの攻撃は、オジィのふらふらとした不規則な動きを捉えきれない。そして、オジィもヒースに対し、決定的な一撃を叩きこめない。蹴りや拳の行く手に、うまく白刃を潜り込ませてくるのだ。千日手のような攻防が、しばらく続いた。

「本当に、すごい身体能力ね……」

 紅潮したヒースの頬に、汗が伝う。ヒースにとって、全力で斬り続けて仕留められない敵は初めてだった。

「あんたも……やるじゃねえか……」

 肩で息をしながら、オジィが言った。ついでにやってきた袈裟掛けの一撃を、掌底で弾いて逸らす。その一攻防で、オジィに決定的な瞬間がやってきた。

「う、うぷ……」

 酒を飲んで激しく動き回ったことと、極度の緊張が続いたことが、裏目に出た。オジィの顔色は真っ青で、頬は膨らんでいる。

「な、何?」

 危険を察知して、ヒースが距離を取った。オジィが下を向いて、口を開ける。

「おげえええええ!」

「ひっ!」

 いきなり嘔吐し始めたオジィを、ヒースは驚愕の面持ちで見つめる。

「ぐぇほ、ぐぇほおおおお!」

 苦しみ、涙目になってえづくオジィは、ダメな酔っ払いのお手本のような男だった。先ほどまで、ヒースと互角の戦いを繰り広げた猛者は、もういない。

 ヒースの様子もまた、変化していた。苦しみ、のたうち回るオジィを見つめて、ぎゅっと胸の中心を握りしめるように立ち尽くす。きゅん、とヒースの胸から、何かがときめくような音が聞こえた。

「あ、あの……大丈夫、ですか?」

 恐る恐る、といった様子で、ヒースが問う。

「さ、酒だ……酒、飲ませろ……」

 血走り、濁った眼でオジィが訴えるよいうにヒースを見た。きゅうん、と先ほどよりも強い音が、ヒースの胸から鳴り響く。

「な、なんてダメな男性なのかしら……」

 うっとりと、ヒースの唇から声が漏れる。剣を投げ捨て、別の意味で頬を紅潮させたヒースが、甲斐甲斐しくオジィの背中をさする。

「いいから、酒ぇ、もってこおい!」

 地面に座り込んだオジィが、へべれけな勢いでヒースに命じる。ヒースは、オジィの腰についた竹筒を一本抜き、中身の匂いをかいだ。どうやら、酒が入っている。

「ど、どうぞ……」

 嫋やかな仕草で、ヒースがオジィに竹筒を捧げる。オジィは一口、酒を飲んで先端をヒースへと向ける。

「あんたも、のめ」

「ふぇ?」

 不意のことで驚くヒースの口に、オジィが竹筒をかませる。

「俺のさけがぁ、のめねえってのかぁ?」

 ヒースの口の中に、火を噴きそうになるくらいの強い酒が流れ込んでくる。だが、ヒースはそれを拒まない。されるがままに、竹筒の中身を飲み干していく。

 この、ダメな人は私がなんとかしなくては。そんな思いと強い酒で、ヒースの胸はいっぱいになってしまったのである。


 一方、段ボール箱の細長い穴の中からミツメはダクの戦いを見守っていた。隠形術をかけていれば、そうそう敵に気付かれることは無い。現に、二人のアサシンからは殺気を向けられてはいない。もう一人のアサシンは、オジィが引き付けてどこかへ行ってしまった。これなら、と思いミツメは目を閉じ、千里眼を開く。段ボール箱の中に淡い光が満ちて、ミツメは第三の視覚を取得する。

 ダクが、押されている。ミツメにはその光景が、はっきりと見えた。サーラと名乗った少女の実力はかなりのもので、さらにはクリスというアサシンがタイミングよく援護をする。隙の無い二者の攻撃に、さすがのダクも防戦一方となってしまっている。

 ミツメは目を凝らし、クリスを舐めるように観察する。サーラの観察もしたかったのだが、動きに目が追いつかないのだ。

 ミツメの視界に、ほっそりとしたクリスの肢体が映し出された。手足に金属のようなものを巻き付けて、打撃を重くしているようだった。重量物を身に着けてなお、素早い体術を繰り出す。それは、恐ろしい相手だった。

 身体のどこかに、古傷のようなものは無いか。ミツメは千里眼の精度を、さらに絞る。布マントの下は動きやすい布服で、ひらひらとした女性用の簡素な飾りがついていた。あのフリルは、自分の忍者服に取り入れてもいいかも知れない。そんなことを考えながら、ミツメはさらに服の下を見る。薄い胸板には、脂肪はついていない。持たざる者の共感を覚えながら、ミツメの眼はさらに下へと移動する。

「なっ……!」

 くわ、とミツメの両目が見開かれる。千里眼の集中が解けて、段ボール箱の隙間の視点に戻ってしまう。視線の先で、ぶるりとクリスが身を震わせるのが見えた。きょろきょろと周囲を見回し、クリスはミツメの潜む段ボール箱へと顔を向ける。近づいてくるクリスに、ミツメは反応できなかった。

「……やっぱりいたね、伏兵さん」

 段ボール箱を、クリスがひょいと持ち上げる。そこには、驚愕のまま口を戦慄かせるミツメがいた。

「あ、あなた……レディ、アサシン……」

「ずっと、視線を感じてた。そう、ボクはレディアサシンの三、クリスだよ」

 ボーイッシュで美形な顔が、底知れない笑みを浮かべてミツメを見下ろしている。

「ど、どうして……」

 かたかたと震えながら、ミツメが問いを口にする。

「どうして、隠形が破れたのか、って聞きたいの? キミの見てくる気配、隠してるつもりだった?」

 不敵な笑みを浮かべ、クリスが問い返す。だが、ミツメは首をふるふると振った。

「どうして、レディアサシンなのにおと……むぐぅ!」

 クリスの手が、ミツメの口を塞いだ。その顔には笑みは無く、焦りの表情が張り付いていた。

「ど、どうしてキミがそれを? ボクの正体は、アサシンギルドでも限られた者にしか……くっ!」

 クリスはミツメを素早くお姫様だっこすると、サーラに顔を向ける。

「サーラ、ボクはいったん離脱する! そっちは任せた!」

「あ、おい、クリス!」

 制止の声を振り切るように、クリスは駆けた。身に着けた重しを解いて、民家の屋根へと飛び上がる。宮殿からかなり離れた北地区まで来て、ようやくクリスの足が止まった。

「どうして、キミは知っている? ボクの、本当の性別を」

 ささやくような声で、クリスはミツメに問いかける。だが、ミツメは言葉を発することはできなかった。自分より圧倒的に上の戦闘能力を持つこのアサシンに、お姫様だっこされて見知らぬ場所へと連れてこられたのだ。ふるふると、涙目になって震えるくらいしかできない。

「キミは、ギルドの人間なんだろ? どうしてあそこにいたの? 上からの、命令なの? どうして黙ってるの? ボクに、知る権利が無いの? ねえ、教えてよ」

 かたかたと震えながら、何も言えないミツメをクリスはしばらく揺さぶり続けるのであった。


 遠く彼方へ去って行くクリストミツメの姿を見送って、ダクとサーラは少しの間呆然としていた。

「ほえ、いっちゃったね」

 ダクの呟きに、サーラが我に返る。

「な、何をやっているんだあいつは……だが、これは好機。ダクとやら、お前の味方は全て、私の仲間が足止めをしている。お前を倒して、それから仲間も倒せば、我々の勝ちだ」

 ちゃきり、とサーラが二刀を構え、言った。

「ほえ。ぼくの、けーかくどーりだよ。きみのなかまを、あしどめしてるあいだにぼくがきみをたおせば、じょうおうさまにあいにいけるもんね」

 ダクも腰を落とし、両手をにぎにぎして構える。

「違う、私の計画通りだ! 見た所、一番強いお前を孤立させることができた!」

 両手を交差させるように構え、サーラが言う。

「ほえ、でも、きみのほかにもうアサシンのひとはいないよね? じゃあ、きみをたおせばいいだけだよ」

 両手を懐へ入れて、ダクが取り出すのは二本の鞭だ。サーラの二刀流に対抗するように、くねくねと鞭の先端が蠢いている。

「……まあいい。ここから先は、力だけが意味を持つ。私に対抗して武器を持ったようだが、そんな付け焼刃では」

 地面すれすれにまで身を低くして、サーラが突っ込んでくる。ダクの心臓めがけ、二本の短刀が閃く。だが、ダクも黙ってはいない。二本の鞭が、挟み込むような動きでサーラに襲い掛かる。

「くっ、なんの!」

 サーラは両手の短刀で、鞭を弾く。その間にダクは、掬い上げるような蹴りをサーラに見舞った。ダクの足を寸前で停止してかわし、サーラが大きく跳び退る。

「忍法、じざいムチだよ!」

「こんなもの!」

 サーラが、再びダクに接近する。今度は体勢を整えて、鞭を警戒するように短刀を振り回していた。ダクの鞭が閃き、サーラを挟み込むが斬撃によって鞭が弾かれる。サーラは体勢を崩さず、そのままダクへと肉薄する。

「これで終わりだ!」

 短刀の切っ先が、ダクの忍者服へと浅く突き刺さる。皮膚が引き裂かれ、痛みが走る中でダクは不敵に笑う。

「からみつけ、じざいムチ!」

 ダクの声に合わせるように、弾かれた鞭が軌道をぐにゃりと変えてサーラの身体を両手ごと縛り付ける。

「何っ!」

 虚を突かれ、動揺を見せるサーラの身体をダクが蹴り、距離を取った。

「りん、ぴょー、とお、しゃ、かい、じん、れつ、ざい、ぜん……」

「くっ、こんなもの、すぐに解いて……」

 もがくサーラだったが、鞭はなかなか外れない。そして、ダクの九字印が完成する。

「ほえ! にんぽう、まねっこごうえんりゅう!」

 ダクが、懐から取り出した十本の竹筒をサーラの周囲へとばら撒いた。そして取り出すのは、火打石である。かちり、と火打石が打ち合わさり、火花が散る。

「もえちゃえ!」

 ダクの声とともに、火花が火炎の竜となり、サーラの周囲にある竹筒の中身、火薬を飲み込んでいく。

「ぐ、うあああああああ!」

 大きく噴き上がった火炎竜に、サーラはあっけなく飲み込まれていった。

「ほえ、忍法、まねっこすいりゅうばくふ」

 大きな火柱と化したサーラへ、ダクが今度は懐から出した水筒の水をかける。普通に水をぶっかけただけに見えるが、これも忍法である。炎は、瞬く間に鎮火した。

「ほえ。ぼくの、かちだね」

 にっこりと宣言するダクの前で、ぼろぼろになったサーラはゆっくりと崩れ落ちるように倒れた。そのはずみで、サーラの身に着けていたターバンが解けてしまう。ぴょこん、とサーラの頭から、飛び出してくるものをダクは目にした。

「ほえ……きみ、エルフだったの?」

 倒れ伏したエルフの少女、サーラに向かってダクは問いかけるのであった。

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