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「なぁ!あれはなんだ?!」
帰り道、神様は見るもの全てが珍しいようでずっと目を輝かせています。
ひとつひとつ説明するのですが恐らく興奮していて耳に入っていないのではないかと……
あ、城山くんは胡蝶さんに引きずられて帰っていきました。彼は女難の相でも出ているんでしょうか?
「うわっなんだありゃ!うまそー!!」
今頃胡蝶さんに怯えているであろう城山くんに心中で合掌していると神様が走っていってしまいました。その先を見てみるとどうやら焼き鳥屋さんの様です。
そのくらいならお金あるかな……?
「早苗!これ食っていいか?」
「え、ええ!?ちょっ、ま、待って下さいい!」
お財布の中にいらっしゃる野口さんを確認していた少しの間に神様がお店の焼き鳥に手を伸ばしています。
これは……もしかしなくても、神様にはお金の概念がないのでは?
サーッと血の気が引くのが自分でも分かりました。た、大変です!このままでは神様が犯罪者になってしまいます!!パタパタと扇ぎながらお肉を焼いているおじさんには、当たり前ですが神様が見えていません。わ、私が止めないと!!
「神様!ダメです!おかっお金を払わないと……!!」
慌てて追いついた時には時既に遅く美味しそうに焼けたねぎまが神様のお口の中に……
あ、あああ……間に合わなかった……
「す!すすすすみません!お金払いますので!おいくらでしょうか?!」
「うめぇー」
もきゅもきゅとお肉を噛み締めている神様の横で、おじさんに深々と頭を下げ財布を取り出しますが反応がありません。
おじさんはぽかんと神様の方を見ています。
「あ、あの……お代……」
「……お嬢ちゃん、神付き、なのか?」
「へ?は、はい。新米ですが……」
全くこちらに目を向けず神様の方を見ているおじさんに疑問符が溢れます。
えーと、どうしたらいいのでしょうか。
「あー。いや、すまねぇな。神様なんさ生まれてこの方縁がなかったもんでな。いきなり串が宙に浮いた時は驚いたが、そうかそうか。神様はうちの味どうだって?」
「なー、もっとねぇの?」
楽しそうにしているおじさんとお肉しか見えてない神様に挟まれて頭が痛くなってきました。
とりあえず神様には後でお金について説明しましょう。
「あ、あの、すごく美味しいとおっしゃってます」
「おっ、そりゃあ嬉しいねぇ」
おずおずとおじさんに伝えると目尻を下げてサービスで何本か焼いて下さいました。
神様、これは特別な例なんですよ。次からはやめてくださいね……
「それにしても、こんなに可愛らしい子が神付きたぁなぁ」
「い、いや、そんなこと」
「大変だとは思うが町のため国のため、頑張ってくれよ、応援してるからよ」
「は、はい。ありがとうございます!」
「頑張るのは結構だけどよ、お前実践の前に体鍛えねぇと全然使いモンにならないと思うぜ?……明日からビシバシ鍛えるから弱音吐くなよ」
「はい!」
おじさんの激励を受けて嬉しさで胸がむずむずします。神様の厳しい言葉さえもなんだか嬉しくて。
私、なれたんです。
どうして選んで貰えたのか分かりませんが、夢に見ることさえ引け目を感じていた神付きになれたんです。
今更ながら実感が湧いてきて思わず頬が緩んでしまいます。
家に帰ったら1番にお父さんとお母さんに報告しましょう。きっと一緒喜んでくれますよね!
焼き鳥を頂いて歩きながら神様にお金や売買の簡単な説明をすると、感心したように頷いてくれました。
「なるほどなー、欲しいものがあったら早苗に頼めばいいと」
「は、はい……いつもお金がある訳では無いので買える範囲で、ですが……」
「分かった分かった。それにしても人の子の考える事はおもしれぇなー」
「そう、でしょうか?」
「ああ、彼処に留まっていたら知りえないことだらけだ」
そう言って笑う神様の顔は何故か少しだけ曇って見えました。
神様にも何か事情があるのでしょう。深く突っ込んではいけないと首を振り歩みを早めます。
家に着くとドタバタ音を立ててお母さんが出迎えてくれました。
珍しいですね、いつもこの時間はまだ仕事中のはずですが。
「早苗!!」
「なんだぁ?」
「あ、お母さん。ただいまかえ、」
マイペースなお母さんには珍しく、必死な表情で抱き締められてしまいました。
「お、お母さん……?」
「学校から連絡があったの……。貴女が神付きになったって」
顔を埋めてしまっているので表情は見えませんが、声の震えでなんとなくわかってしまいました。
……お母さん、どうして泣いているんですか?
「そ……そうなんですよ。私、神様に選んでもらえたんです。しかもこの地区の担当になるんですよ!お母さんがピンチの時は絶対に助けますからね」
わざと明るい声を出して見ても更に抱き締める力が強くなって苦しいくらいです。
「母さん。早苗が苦しがってるよ、離してあげなさい」
どうしたらいいのか分からず神様と目を合わせていると、お父さんが玄関に出てきてお母さんを私から離してくれました。
お父さんまでいるなんて、一体どうしたというんですか……
「母さんはとりあえず顔を洗っておいで。早苗は、父さんと少し話そうか。」
「は、はい」
眉を下げて困った様に笑うお父さんに何も言えなくて手首のガラス玉を触りながらリビングに入ります。
喜んで貰えると思ったのに……何がいけないのでしょうか。