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「ん、んん……」



 目を開けて最初に目に入ったのはぼやけた白い天井でした。

 えっと、私何してたんでしたっけ?

 確か儀式に参加して、それから……御神木の……!


 ガバっと起き上がって当たりを見渡すと、どうやら保健室のベッドに寝かされていた様です。

 慌てて右手首を見ると綺麗な深緑の組紐に括られた透明な硝子玉がありました。

 よく見ると中に緑色の葉っぱの模様が入っています。



「夢じゃ……ない……?」



 驚きと喜びとそれから不安が、胸の中でぐるぐる混ざってギュッと右手を抱きしめます。

 しばらくそうしているとだいぶ頭が冷えてきたのでベッドから降ります。えと、私は教室に戻って良いのでしょうか?


 何故か置いてあった上履きをはいて仕切りのカーテンをめくると、先生の椅子に城山くんが座り込んでいました。

 指を組んで深刻そうな面持ちの彼は、足音に反応したのかゆっくりとこちらに視線を向けます。



「杉守さん……」



 いつもの朗らかな笑顔はどこに行ったのか、青ざめてうっすら涙まで浮かべている様子です。



「え、と。城山くん……?どうしたんです……か」



 慌てて近づこうとしましたが彼の後ろの人影に気がついて思わず後ずさってしまいました。


 艶やかな黒髪を結い上げた花魁風の女性はからかうように城山くんの頬を撫でています。

 切れ長な赤い目と視線が合うと同性ながらドキリとしてしまいました。


 どうしてすぐに気が付かなかったかと思う程に存在感のある姿に言葉を失っていると、風鈴のように綺麗な声で話しかけられました。




「あら、貴女もアタシが見えるのね。どんな奴と契約したのかしらァ?」




 契約、という事はこの方が城山くんと契約した神様なのでしょうか。

 ……城山くんの表情は依然晴れませんが。

 とにかく彼の事は置いておいて、質問に応えなくては!

 契約……したんですよね、私?




「わ、私、杉守早苗と申します。契約は……樹ノ神様とした筈、です……恐らく……」



「恐らくじゃねぇよ」



 不安になってガラス玉に触れると儀式の時に集まってきた物と同じ緑の光が溢れ、先程会っていた樹ノ神様が現れました。


 えっ?これどういう仕組みなんですか?!

 驚いてガラス玉を覗いても先程と同じ模様しかありません。

 神様だからですね、もう考えるのは止めましょう……



「お前、相変わらずやる事が遅ぇな。呼び出されねぇのかと思ったっつの」



「えぇぇ?!す、すみません!」



 あれ?勢いで謝りましたが呼び出し方なんて聞いてませんよ、神様。

 不服そうな顔をしたのがバレたのか神様のご尊顔に青筋が!ごごごめんなさい!!



「あらやだ、この娘そんなに素質があるの?私が見たトコそうでもないようだけど」



「あ?」



「だって、アンタみたいな神気の神に気に入られるなんてよっぽどよォ?」



 ペコペコと神様に頭を下げていると城山くんの神様がこちらに近付いてきました。

 お2人で何かお話しされている今の内に!



「城山くん……!大丈夫ですか?」



 そろそろと城山くんに近づいて話しかけると、彼はゆっくりと口を開いて震える声で話し始めました。



「杉守さんも、契約したんだね……お、俺、実は…………」


「オバケの類が大の苦手なのよねェ?」



 語尾にハートがつきそうな程楽しげな声が城山の言葉をかき消してしまいました。



 えーと、オバケ?




「や、止めろ胡蝶!こっちに来るな!!」



「やーよォ、謙太の反応が楽しいから契約したのよォ?アタシを満足さ・せ・て?」



「やめろよぉ!」


 胡蝶さん?が、また楽しげに城山くんに触れようとしますが俊敏な動きでそれを避けています。

 二人の追いかけっこはしばらく続きましたが、結局城山くんが捕まってしまい、がっちりと抱き締められています。



 大丈夫でしょうか、城山くん。

 完全に目からハイライトが失われてしまっています……おいたわしや……




「……おれ、姉ちゃんが3人いるんだ。小さい時からすげえ玩具にされててさ。小学生の時も肝試しに連れてかれてそのまま置き去りに……」



「わ、わぁ……」



「今思うと物ノ怪の仕業だと思うんだけど、歩いても歩いても出口にたどり着かなくて泣きながら1晩中歩いた事があってさ、だからそういうのは、付喪神だろうが物ノ怪だろうがまとめて大っ嫌いなんだ。

 絶対に神付きになんてならないって思ってたのに……!」




 キッと胡蝶さんを睨みつけるものの目尻に光る涙のせいで全く迫力がありません。

 胡蝶さんが鼻で笑うと手で顔を覆ってその場に座り込みシクシクと泣き出してしまいました。


 お、女の子座りとは、女子力高めですね……




「うう……もう嫌だ、神様助けて……」



「あらァ、神様ならここに2人もいるじゃない」



「ちっちがう!!!」



 コントの様な2人のやり取りに目が点になっていると樹ノ神様が後ろからのしかかって来ました。




「わ、とと……神様?」



「なぁ、そんなヘタレほっとこうぜ。俺、腹減ったんだけど」




 つまらなそうに口を尖らせる神様に失礼ながらもついつい頬が緩みます。

 城山くんと胡蝶さんの騒ぐ声も気になりますが、とりあえず神様にお食事を!


 慌てて扉を開けようと手をかけると動かす前に勝手に扉が開きました。

 え、神様の力ですか!?自動ドアにするなんてすごく地味な力の使い方!


 驚いて目をぱちくりしていると儀式の時の先生が呆れた顔をしていました。

 


「お前ら何やってんだ?」



 その声に、室内がシン、と静まりました。

 先生は座り込む城山くんを見て首を傾げながらも真面目なトーンで話し始めます。



「なんなんだ?……まあ、いいか。今年この学校から出た神付きはお前ら2人だ。よくやったな。

でだ、早速で悪いんだが、お前ら2人共この辺りの地区を担当している第9支部に所属してもらう事になった。詳しくはそこのリーダーが説明してくれるだろう。明日は公欠扱いにするから行ってこい。制服で良いそうだ。場所はこの紙に書いてある」



 一息に言い切ると、プリントを私の手に押し付けて複雑そうに笑いました。

 


「……毎度の事だが、お前らみたいな子供に戦わせちまうのは偲びねぇな」



「……先生?」




 ポツリと呟くと先生はこちらに背を向けて出ていってしまいました。

 



「明日は昼の10時集合だそうだ。遅れんなよ」




 残された私は先生の言葉を反芻しながらプリントを握り締めることしかできませんでした。

 分かっていた事ですが、神付きになるという事は戦いに参加するって事なんですよね。


 ちらりと見上げた神様は無表情で更に不安が掻き立てられました。

 神様の、いえ、皆さんの足を引っ張らないように頑張りましょう。








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