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今日は校庭集合との事だったので直接向かったのですが、登校してみてびっくりです。
校庭に大きな円とその中いっぱいに五芒星が描かれていました。その中央に神籬が鎮座しています。
これが昨日城山くんが言っていた儀式の用意なのでしょうか?
ぽかりと開けていた口を閉じて先生の話に耳をすまします。(お名前は知りませんが、確かうちの学校で唯一神様と契約している先生だったはずです。)
「いいか、分かっていると思うが、お前らの将来が決まる大切な儀式だ。ふざけたりするなよ。この後各担任の指示に従って今見えている陣の中にクラス毎に入ってくれ。
もし、神さんのお気に召す奴がいればそいつだけその神さんの所に引っ張られる。挨拶して質問に応えろ。それで認められたら契約完了だ。」
先生の簡単な説明に拍子抜けしてしまいました。
なるほど、要するにあの中に入ればいいんですね。もっと難しい事をするのかと思っていました。
「先生!どんな風に話せばいいんですか?」
大きな声に目を向けると愛川さんが必死に先生に詰め寄って聞いています。
あ、そうでした。気に入って頂けたらお話しないといけないんでしたね。やっぱり皆さん気になるようで愛川さんに加勢するように先生の周りに集まっています。
あれ、城山くん……珍しくお友達から離れて1人で考え事をされてますね。うーん、気にならないのかな?
「……あのなぁ、これに関しては正解なんてねぇよ。友達作りと一緒だ。感覚で合う合わないを判断するって訳なんだから敬語が好きな神さんも居れば堅苦しいのが苦手な方もいる。素のお前らを出せばいいんだ。気負わず頑張りな。」
呆れたように笑うと先生は1組の先生に進行を任せたようでした。
友達作りですか……これはやっぱり私には無理な様です。だって現状お友達なんて……いや、これ以上は止めておきましょう、涙が止まらなくなりますからね……
私達一年二組は順番を待ちつつ1組の儀式を見守ります。
年によっては1人も契約者が出ない学校もあるというお話なので目の前で契約の瞬間が見れたらすごく素敵ですね。
ぽわっと神籬から出た淡い黄色の光が、円の中に入った1組の皆さんを包むように円の中に留まっています。幻想的な光景に誰もが口を噤んで魅入っています。
もちろん私もその光景を目に焼き付けるように見つめていました。
黄色の光が真っ白に変わったと思うと、光が弾けてしまいました。
中にいる皆さんも、不思議そうに顔を見合わせています。一体どうしたんでしょう?
1組の担任の先生は残念そうな顔をして何かを話しています。
「1組は該当者なしかぁ……」
私のクラスの誰かが呟いたのが耳に入りました。なるほど、そういう事ですか。
さて、私達の番です。ドキドキしながら先生の指示に従い1組同様中に入ります。
線を踏み越えた途端、暖かいお湯に浸かった様なお母さんに抱きしめてもらった時のような、不思議と落ち着いた気持ちになりました。これは、一体なんでしょう?
周りを見渡しても特に表情が変わった方もいませんし、こんなものなのでしょうか……?
不思議な感覚に戸惑いながらも儀式が始まるのを待ちます。
「では、一年二組の神降ろしの儀を始める。」
先生の言葉をきっかけに先程と同じ様に光が立ち込めます。
やっぱり綺麗ですねぇ。淡い黄色だと思っていましたが内側から見ると随分濃い色ですね……ん、んん?何だか私の周りだけ段々と緑色になってきていませんか?!え、何事ですか?!
戸惑っているといきなり輝度が上がった様で、あまりの眩しさに目を閉じてしまいました。
ひんやりとした風が頬をなでるのを感じそっと目を開くとクラスメートの姿はなく青々とした木々に囲まれて一つの鳥居がそびえていました。
何だか見覚えのある景色に首をかしげます。
「え、と。ここは、一体……?」
『神さんのお気に召す奴が居たらそいつだけその神さんの所に引っ張られる』
先生の言葉を思い出して心臓が高鳴ります。
まさか、まさか。
ドキドキと早鐘を打つ胸を抑えながら鳥居をくぐると大きな切り株と立派な御神木がありました。
私の予想が当たっているのならば、呼んで下さった神様が、きっとここに。
「おせぇ」
頭上から落ち着いた耳障りのいい声が降ってきて慌てて見上げると御神木の枝に袴姿の黒髪の男性が座っているのが見えます。
その方は身軽に枝から飛び降り私の目の前に来るや、ぽんと私の頭に手を乗せました。
「あ、あの、」
「俺を待たせるなんて大物だな、お前」
にっと不敵に笑うお顔を見て、ついつい視線を下げてしまいました。
城山くんとはまた違ったタイプのイケメン様にどうしたらいいのか……
「お、おおおお待たせしてすみませんでした!あの、わ、私、杉守しゃなえと申します。お呼び頂き、あり、ありがとうございます!」
「ぶはっ!」
神様は私のたどたどしすぎる挨拶に噴き出すと、くつくつと喉を鳴らして笑い始めました。
いえ、私も名前すら噛んでしまって流石に酷すぎるとは思いましたが、そこまで笑わなくてもいいかと存じます!神様!
「悪ぃ、つい笑っちまった。俺はこの御神木の付喪神だ。名は樹ノ神。樹と呼んでくれればいい」
「は、はい」
猫のように綺麗なアーモンド型の目が満足げに弧を描いています。
見た目は同い年くらいに見えますが御神木の大きさを見る限り何千年と生きている力を持った神様なのでしょう。
ゴクリと生唾を飲み込み続くであろう言葉を待ちます。
先生の話ですとこの後質問タイムですよね、緊張します……
「さてと、挨拶も済んだことだし。早苗、腕出せ」
「……へ?」
「腕だ、腕。あ、利き腕な」
神様の言葉に拍子抜けしつつも素直に右腕を差し出しました。
神様は真剣な面持ちで手首に何かを結びつけています。何でしょう?お守りでしょうか?
じっと見ていると急に視界が歪み強い眠気が襲ってきました。え、今はちょっと寝てる場合じゃないんですけれど!いや、ほん……と、に……
「……よし。早苗、これが俺の依代だ。絶対無くすんじゃねぇぞ」
薄れていく視界の中で神様が何かを言っています。
えーと質問タイムは無いのでしょうか?あの、神様?もしもしー?