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 転がり込むように支部へ飛び込むと緊張の糸が切れたのか全身の力が抜けてしまいました。

 倒れ込む私を依り代から出て来た神様が支えてくださいます。



「杉守さん?!」



「どうした?!」



 額から血を流し、がひゅーがひゅーと荒い呼吸を繰り返す私に、支部に居た城山くんと藤堂さんが駆け寄ってきます。



「……物ノ怪だ」



「っ!」



 説明する所か呼吸もままならない私に代わり神様が苦々しく応えています。



「まさか……現場はどこだ!?」



「俺が説明する……ヘタレ、早苗を頼む」



「は、はい……!」



 神様は力の抜けている私を城山くんに預け、藤堂さんと地図の貼られている奥の壁の方へ行ってしまいました。



「出血が酷い……すぐに手当しないと。胡蝶、救急箱取ってきてくれ」



「わかった。とりあえず手拭い濡らしてきたから拭いてやりな」



 優しい手付きで私を壁にもたれさせると胡蝶さんに指示を出します。

 ぼんやりと霞む視界に真剣な表情の2人が見えて申し訳ないです……



「杉守さん、とりあえず血を拭くね。痛かったら教えて」



「……は、い」



 声を出すと血の味が広がって気持ちが悪いです。

 こんなに全力で走ったのはいつ以来でしょう?それだけ必死だったんですね。

 あの物ノ怪の淀んだ目、今思い出しても震えが止まりません。

 生きて、戻れたんだ……良かった……



「謙太」



 戻ってきた胡蝶さんは手に持っていた物を城山くんに渡すと、ボサボサになった私の三つ編みを解き始めました。



「髪は女の命だからねェ……早苗、よく戻って来たね。見たトコ拝受もできたようだし良くやったよォ」



 ニッと笑みを浮かべる胡蝶さんにぎこちなく笑い返します。

 城山くんが器用に包帯を巻き終えた頃には呼吸も落ち着き頭もスッキリしていたので神様の元へ移動しました。



「なるほど、3丁目か。行くぞ小鞠!」



「はーい!」



 丁度話し終わったのか藤堂さん達が飛び出していきます。

 逃げ戻った事に罪悪感が募ります。

 力が足りずすみません……ご武運を。




「早苗……」



 隣へ行くと神様はくしゃりと顔を歪めて私を抱き寄せました。

 一瞬見えた泣き出しそうな顔に、私まで心臓の辺りがきゅっと締め付けられます。



「え、と……神様……?」



「……悪ぃ……ちょっと、このまま……」



 生きてて良かった……。

 この距離で無かったら確実に聞こえ無かっただろう声量で呟かれた言葉に驚きます。

 こんなに弱った神様は初めてです。




「早苗、悪かった……拝受が上手くできなかったのは俺のせいだ……」



「え、いや……」



「拝受したら俺は依り代に戻って神気を供給し続けなきゃならねぇ。

 その間、お前1人に戦わせる覚悟ができてなかったんだ……護るだ何だ言っておいて、俺の力だけじゃ物ノ怪は倒せないんだ。情ねぇよな……」



 振り絞るように言葉を吐き出すと神様は私を抱きしめる力を緩め離してくれました。



「……神様、私だって覚悟ができてなかったんです。両親からおじさんの話を聞かされて、理解したつもりでいたのに、命をかけるって事の本当の重みが分かってなかったんです。

 今日、実際に命の危機に直面して気が付きました。

 私に足りなかったのは命を賭ける、その上で生き残る覚悟です。


 だから、私を護る事にそんなに気負わないで下さい。頼りないかも知れませんが、神様ばかりに背負わせたくない、一緒に戦いたいんです」



「……だってさ。言う程女は弱くないのよォ?シャキッとしなよ、樹」



 視線を落とし俯く神様の手を握ると胡蝶さんがカラカラと笑います。



「……そうだな」



 顔を上げた神様はやっぱり辛そうな顔をしています。ああ、やっぱり神様は優しいですね。

 


「ねえ杉守さん、物ノ怪ってどんなヤツだったの?」



「そう、ですね……パッと見は何も映していない暗い目を持った四足歩行の人間でしょうか…………こんな事言うと怒られるかも知れませんが、先程出会った物ノ怪の正体は人形ではないかと思うんです」



「人形?」



「はい、見た目もそうですが、独特の異音。昔仕舞いっぱなしにしていた人形の関節を動かした時のものに似ていたんです」



 城山くんの問いかけに先程まで対峙していた物ノ怪を思い出します。



『…………ナンデ』



 あの言葉は何だったのでしょう?

 最後にこちらを見つめていた悲しげな視線の意味は?

 物ノ怪については未だ解明されていませんが、事件を起こす理由がある様に思えてなりません。

 それに、もしも正体が人形に宿ったモノだとしたら、



「人形って……それじゃあまるで」



「アタシら付喪神みたいだねェ」



 城山くん達の言葉に頷きます。



「そう、なんですよね……」



 あの無機質な淀んだ目を見た後だと信じられませんが、もしそうだとしたら成り立ちとしては神様達と同じです。



「実際の所はわかんねーが、早苗の見立てはあながち間違っちゃないと思うぜ」



 神様も神妙な面持ちで肯定してくれました。

 私達人間は、一体何と戦っているのでしょうか?

 実体のない焦燥感がチリチリと胸を焼いているようです。







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