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 乱れる呼吸を整えつつ教室のドアに手をかけます。

 昨日に引き続き、今朝もランニングがてら走って登校してみました。相変わらずのバテ具合ですがこういうのは積み重ねですもんね。


 ちなみに神様は朝が苦手だそうで依り代でお休み中です。




 戸を開くと、城山くんの席が人垣で見えなくなっていました。

 相変わらずの人気者ですね。

 苦笑しながら席に座ると城山くんの席を取り囲んでいた内の何人かがこちらにやってきました。



「おはよう!杉守さん!」



「はよーっす!」



「え、あ、おはよう、ございます」



 あ、挨拶してもらえた……!

 お友達のいない私にとってはそれだけで一大事でジーンと感動してしまいました。

 それにしても何でしょう、私今日誕生日でしたっけ?



「あのさ、昨日どうだった?謙太何も教えてくんないんだもん」



「どんな神様と契約したんだよ?」



 どうやら皆さん、話を聞きたいみたいですね。ぬか喜びでしたか……


 わくわくと前のめりで質問してくる勢いに困って城山くんを見ると、人の隙間から私と同じような顔でこちらを見ていて頼れない事を悟りました。

 どうしたらいいんでしょうか……?



 時計を見るともう先生がいらっしゃる時間です。あと少し耐えれば……


 当たり障りのない様に笑ってやり過ごしていると愛川さんの後ろ姿が目に留まりました。

 席に座って机に突っ伏しています。


 彼女にとってこの騒ぎは苦痛で仕方がないでしょう。なんだか申し訳なくて、気分が沈みます。



「お前ら階段まで話し声が聞こえてたぞ!城山も杉守も大変なんだから騒ぐんじゃない!」



 鶴の一声。

 まさにそんな感じでした。

 先生の怒声に蜘蛛の子を散らす様に皆さん席に戻って下さいました。



 1限目は数学です。

 家での勉強に時間が割けなくなったんですから、せめて授業は真剣に受けましょう。

 完全に文系の私はどうにも数学が理解出来なくて……補習に出る時間もありませんし赤点だけは何としても回避しないと。


 ガリガリとノートをとっているとチャイムが鳴る直前に胡蝶さんが私の席まで来て耳打ちして行きました。



「謙太からの伝言よォ、昼休みになったらみんなを撒いて現文の準備室に。」


 ウインクを残して城山くんの方に戻る胡蝶さんにジェスチャーで感謝を伝えます。

 それにしても準備室って……確か散らかっていて誰も使っていないって噂だったような?

 まあ、行けばわかりますよね、きっと。



 クラスメート達もどんなに聞いても答えない私達に痺れを切らしたのか、ケチだなんだと言いながらも少しずつ普段の様子に戻っていきました。

 途中で目が覚めた神様は凄くイライラしていて抑えるのが大変でしたが……




「ここか?」



「はい、鍵掛かってないですね……」



 そしてお昼休み。

 神様と一緒にお弁当を持って現代文の科目準備室へと乗り込みます。



「あのう、杉守ですが……」



「ヘタレー来てやったぞー」



 薄暗い部屋に声をかけつつ入ると急に電気がつきました。見ると城山くんがつけたようで手を振っています。

 というか神様、ヘタレってもしかしなくても城山くんの事ですか?

 やめて上げてくださいよ、泣いちゃいますよ?

 部屋を見渡すと、噂とは違い綺麗に整頓されている様子です。



「城山くん、この部屋使って大丈夫なんですか?」



「大丈夫だよ。真田先生に許可もらったから」



「真田先生……?」



 聞きなれない名前に首を傾げると笑われてしまいました。



「ははっ!まぁ知らないよな、影薄いもん。ほら保健室に迎えに来てくれた先生だよ。神付きの」



「ああ、あの先生ですか!影が薄いだなんて、そんな事は……」



「俺らと関わりないもんねー」



 慌てて取り繕っても信じてもらえません。

 真田先生すみません、もう覚えたましたので!






「そんな事より杉守さん、拝受してもらえた?」



 城山くんは笑いがおさまると真剣な表情でこちらに向き直りました。

 うっ、痛いところをついてきますね。



「い、いえ。何度か試したんですけど、……」

 


「そっか……実はさ、」



「私達デキちゃったのよねェ」



「はあ?!」



「ちょっと胡蝶!その言い方ヤメロ!」




 神様は胡蝶さんに詰め寄ってどうやったのか、何でお前らにできんのに俺達ができないんだと声を荒らげています。

 ずっと苛立ってましたもんね。


 その声もどこか遠くで聞こえるようです。


 大丈夫。

 城山くんと私の能力の差は初めから分かっていたじゃないですか。焦ることなんてないですよ。


 じわりと湧き出る嫌な気持ちを誤魔化す様に自分に言い聞かせます。

 笑顔で、言わないと



「そう、なんですね。流石です。おめでとうございます」



「……ありがと。あのね、杉守さん。俺さ、こんなだから1人で調査に参加するの凄く不安なんだ。だから、頑張って」



「……アンタ本当に情けないねェ」



「当たり前だろ!お前の為じゃねーけどな!な、早苗!」



 城山くんのフォローに、自分があまりに小さい存在に見えて拳を握り込んでいると、神様に力強く呼ばれハッとなりました。



「早苗!聞いてんのか?」



「は、はい……?」



「はい?じゃねぇだろ。俺らもすぐに拝受クリアして追い抜こうぜって言ってんの」



 にい、と歯を見せ自信満々で笑う神様につられて笑みがこぼれました。



「もちろんです!」



 そうですよね。

 現状で劣っていても、追い抜いてしまえばいいんです。

 1人では難しくても今は神様が居てくれるんですから







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