薄暗い路地裏を少女が息を切らせ走っていた。
よく見ると何かに追われている様で、時折背後に目をやっている。
「はぁ……はぁ……な、なんでアイツがいるのよ!…………あぁっ……!」
再び後ろに視線をやると、足がもつれ派手に転倒してしまう。転んだ拍子に、うさぎのストラップを付けた携帯電話がポケットから滑り落ちた。
慌てて立ち上がろうとするが、恐怖で膝が震えてうまくいかない。
「……い、嫌だ……あ、あ、アイツが、アイツが来ちゃう……」
うわ言の様に呟きながら、何とか立ち上がろうともがく少女の耳に、嫌な音が響く。
――ギ、ギギギ
それは、長い間使われていなかった物を無理やり動かしたような、そんな歪な音だった。
少女は声にならない叫びを上げて躍起になって逃げようとするが、どうしても足に力が入らない。
背後から聞こえる気味の悪い音が少しずつ、そして確実に近づいてきている。
―-逃げられない。
嫌な予感が頭を過ぎり、ギュッと目をつぶると涙が溢れた。
遂に真後ろまで来た音に、少女は意を決して振り返る。
恐る恐る目を開くと、ただの人気の無い路地が続いているだけだった。
はぁはぁと少女の荒い呼吸が辺りに響く。いつの間にか少女を追いかけていた嫌な音も消えてしまったようだ。
「は、はは……いない……そうよ、アイツがいるわけない。」
――だって、
息を整え、そばに落ちている携帯電話を拾おうとする少女に何かの影が落ちる。
急に暗くなった視界に何事かと顔を上げた少女が見たものは――
人気のなくなった路地裏にポツンと取り残された携帯電話がチカチカと着信を告げながら取り残されていた。