文学ノ破戒 ‐百回で百回の発見と一回の合点‐
いのちめばえのものがたり
あつきあかき岩漿のふきあがる山の裾野には、おおくの水がこんこんとわきいでながるる川がある。あなとうと、水のめぐみはよろずよをいつくしみたりうるおわせたり。空の雲までやすみなくうごきながるる、雲なれど、されど雲なり雨ふらし、たまうは雲の恵みなり。海のおおきなそのなかにいのちの鼓動がめばえたり。死しては死して、また死して。うまれいでたるいのちなり。
とうとうたらり。とうとうたらりら。とうたらり。とうとうとうとう。とうたらり。
くさのねの、人に踏まれて、なお死せず、いきるいのちのあるかぎり。
革命される文学
人は人を殺し生きてゆく。テヅカオサムシの描く世界のやうに。手は足のようになって、やがては紅く蒼く腐り逝く。耳の中には虫が棲み付いている。ヤツは適度に鼓膜を振動させながら世の中のオトを創りきかせる。建物を焼くと言うことと、潰すということ、壊すということと。人の限り明日は来ない。師の導きは明日を扉に近づけ拓かせ、魂の喜びは涙となってあふれ出した。くさなぐ剣は今や錆び、魂の鏡の割れたとき、この私の国はつぶれ焼かれる。
祀る神の首を切り、人の首を祭りする。夜な夜な黒き人影が伴わぬ実体を残しやってくる。まさに斑鳩の空は焼け、緑色の夜明けを迎える。いい人の心は肉を喰らい、人を生肉に喰らう。足の指は血を吐きながら地を這いずり、オコナイは今や山の神の胃の中にあった。紫色の水は流れる川の下にまでだくだくとして流れていった。赤き旗がたなびきひるがえり、行進曲は勇ましく響いた。
死んだのは誰だ。ここはどこだ。山の煙は白濁にけぶり、肌色の木々が葉を茂らせている。紅き動脈と蒼き静脈とを森の木々がもっている。海は黄金に輝き光る。
さらなる夜明けは夜更けとともに訪れる。君は僕で、僕は君なのか。人とはなんなのだ。やすらぎの里に狐と狸が舞をまい、謡曲は日々の生活のなかで人の発する声である。
小鼓はしきりに我らをその単調なリズムと強弱によって催眠へと誘い、大鼓は異常の意識を眠らせにかかる。そこにあの横笛は私の催眠を悉く妨げ、再び宵闇を彷徨わせるのだ。
ここに茶道奥千家に華道を習う一人の老翁あり。彼のいふに鋏にて指を切り、枝を切りて血を吹かすを楽しみとする。さてもさても、ただいま静御前のような女郎、晦日に月を出ださんと、固き四角き心を丸々と満たさんと欲す。
都都逸の、明日はわが身か、君が身か。
眼光鋭き鬼の赤い肌の異国の神この国より脱出した。報道によると青い顔の幽霊は恐れ恐れて足のはやい舟に乗ってここから上に上がったらしい。いかに、いかに、しばらく、しばらく。
死の影に涙有とはいにしえの倣いなり。今、その倣い極めて悪しき賤しき事とてもってのほかにあいなり候。
ムササビが洞窟から海へと飛んでいった。ヤモリとイモリは足を生やして手を食べながら楽しく囲碁をうっている。ここはお国を何百里、離れて近きわが心。人の心をいかでか知らん。ほんの気持ちも知ることはない。舞台に翁が立ちはだかったようだ。武蔵の薙刀は既に血にそまっているではないか。義経は殺されたのだ。先ずは座禅でも考えよう。炎はぎらぎらとしてこちらに近づき通り過ぎていった。
薬は薬。酒は薬。薬は酒ではないか。では薬局に酒が置かれているのも納得である。激しく打ち付ける鼓は今もなお心をまどわす。
北の空では唇を切り落とされた女たちが辛子を喰らい笑っている。
村では鬼の流出を食い止めようとみめうるわしき女どもを生贄に捧げて山に登った。鬼たちは女の生臭いのがいかにも血の匂いであったので山の守りを約束した。雷のような謡曲「疣猪」が若き男たちによって謡われている。まさに玉体は疣蛙の如き醜き姿となって国を治めた。寿ぐ光は緑色に輝いている。
鹿の頭は一列に祭壇に並べられた。全ての眼は生き生きとしている。
山の革命歌は今始まろうとしている。
港では、鬼たちの高砂が留まるところをしらない。なんとも赤き紅き海の色は美しい。
黒い狐は怪しき鉤を銜えている。白き狐は秘儀書を持って向かってきた。赤き鳥居の下には、百足たちが酒盛りをして胡の昔話に花を咲かせる。山はもみじが真っ蒼に色付き咲き乱れている。クジラは靴を脱いで足を畳んだ。鞄はどうなったのか。静御前は狐の鼓を打ち鳴らし、黒き狐が涙を流している。
釣りをしている一人の女、国へ帰らんと今船の上にて暮らしている。
ここは地主の家である。まさにその塀は崩れ落ちようとしている。鼠という赤き虫は家中を動き回って。屍骸をそのままに腐っていった。
石のやわらかさはまさに鋼鉄の如くふわふわとして綿菓子のように甘く白かった。光り輝く洞窟には、死んだ人間の石が詰まった袋が在った。
左様。とは何様なのかという哲学に一生を捧げ死んで逝った思想家某は嘗てあのようにいっていた。