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お昼食べた後

作者: 竹仲法順

     *

 この季節、お昼に栄養補給すると、眠くなる。と言うよりも、まあ、昼食後はいつも眠気が差すのだ。慣れていた。オフィスに戻ってきてから、フロア隅にあるコーヒーメーカーで濃い目のコーヒーを一杯淹れて飲む。コーヒーは欠かせない飲み物なのである。あたしにとって。

伊井(いい)さん、この書類、パソコンに打ち込んで」

「はい、分かりました」

 上司の黒部(くろべ)がそう言って仕事を任せる。思っていた。この人も変わらないわねと。確か同じ二〇〇一年入社だから、十三年前にこの社で一緒に仕事を始めたことになる。あっちは幹部で、こっちは平だから、全然待遇が違うのだけれど……。

 最近の二十代の子たちには付いていけない。三十代も半ばを過ぎると、一気にオバサンになってくる。別にそれはそれで一向に構わないのだ。同期の女性社員はほとんど辞めていったのだし、残っているのはあたしと彩有里(さゆり)ぐらいか?

 デスクでコーヒーを飲み終え、課長席の方を窺っていると、彩有里が黒部と話をしていた。思う。何話してるんだろうと。すぐに彩有里が来て、隣のデスクに座った。

「彩有里、何話してたの?」

「うん。ちょっと仕事のことでね」

 この女は何かを隠すのが得意なのだ。そういったことは知っていた。だけど、別に詮索しても意味がない。そう思い、パソコンに黒部から頼まれた書類のデータを打ち込み始めた。淡々とキーを叩いていく。近視矯正用のメガネを掛けたまま。

     *

 その日も単調だった。確かにそうだろう。別に女性社員など、そう変化がある仕事じゃない。単に社指定の制服を着て、パソコンに向かうか、電話応対や書類の整理などをするのが業務だ。変わりはないのである。一応大卒で入社していたのだけれど、仕事自体、高卒でも十分やれた。

 思う。午後三時前後に交代で休憩を取るのだけれど、彩有里が話しかけてきたら、何話そうかと。真新しい話題ってそうない。単にテレビを付けている時見た芸能情報とか、最近読んだ本・雑誌の話ぐらいだろう。彩有里も同じ年代で若手と話すのは苦手らしい。別に流行遅れもそう気にしてなかった。

 確か、彩有里は以前から認知症気味だった父親をつい最近、街郊外の老健施設に入所させたとか言っていた。姉妹で協議したらしい。彼女は母親が早くに亡くなっていて、妹が一人いるのだ。

 一口に妹と言っても三十代に入っていて、今年結婚の予定があるらしい。だから、彩有里も姉としてこれから家を守る義務があり、それを事前から画策していたようだ。幸い、施設に空きがあり、彼女も心を鬼にして、父親を家から追い出す格好で面倒なことを片付けたらしい。

     *

 二時間ほどが経過し、午後三時になった。いったん作業する手を止め、データに上書き保存を掛けてから、彩有里の方を向くと、彼女が、

留理(るり)、ちょっとブレイクしようよ」

 と言って席を立ち、休憩室へと歩き出す。「ええ」と言って頷き、後から付いていった。彩有里は結構強い香水を振っている。思った。彼女も身だしなみには気を遣ってるんだなと。

 休憩室に入り、彩有里が持っていたスマホを取り出す。そして画面にタッチし、ネットに繋いでサイトを見ながら、話しかけてきた。最近、あたしの方もガラケーからスマホに乗り換えたのである。使う機能はネットとメール、それにカメラぐらいで、ガラケーでも十分だったのだけれど……。

 それから揃ってコーヒーを飲みながら、置いてあったお菓子を摘まむ。思っていた。ずっと仕事をしていて疲れると。だけど、彩有里とはずっと一緒だ。話し相手としては適切なのである。だから、あえて彼女との話に時間を割く。ほんのブレイク程度であったにしても、だ。

 そして休憩時間が終わると、またフロアに戻り、パソコンに向かう。キーを叩きながら、思っていた。今日も残業があり、また遅くなると。でも、残業代が付くからいいのだった。気にしても仕方ないことは頭の隅に追いやり、また仕事し始めた。もちろん、時間は待ってくれないのだし、残り時間でこなす仕事量は幾分多いのだけれど……。

                              (了)                      


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