努力
今回TUEEEEEE描写並びに、正体に関する文章を削っています。
ご了承ください。
「………どこもかしこも問題ばかりだ……。」
マウントブレス卿は頭を抱えつつ、ウェンの大地の地図を覗き見る。
「………卿、例のしるしをつけた方が……。」
「応接間に通せ。」
そう言ってマウントブレス卿はがたりと立ち上がると、応接間に向かう。
そこには一人の覆面を付けた男が座っていた。
「……例の仕事は終わった。」
「仕事が早くて助かる。」
その言葉に、マウントブレス卿は肩の荷が下りたかのようにため息をつきながら答える。
「まさか、貴様が我々に冒険者の真似事をさせるとはな。」
「今動かせる手駒の数が少なすぎてな。少なくとも十分な報酬は払っているはずだ。」
「ふん……貴様の事を少々調べさせてもらった。……貴様は何を考えている??」
「この世界の大地の安定さ。それはあの<大災害>以前も以降も変わらない。」
「では聞こう。ならばなぜ我々を生かしておいた?我々の存在がウェンの大地を脅かすものだとは思わなかったのか?」
「忍者……はるか東の大地、ヤマトから船でこのウェンにたどりつき、金次第でなんでも行う殺し屋集団……。」
「そうだ。貴様がウェンの大地の安定を望むなら何故このような殺し屋集団を残しておいた?」
「……所詮私は商人だ。商人には商人の動きしかできないのだよ。あの今も冒険者相手に銀行を営んでいる一族と同じようにね。」
そう言って、マウントブレス卿は出されていたお茶を飲む。何ら味のしない普通のお茶だ。
「………では聞こう。貴様は何故遠見の鏡のレシピが自分の居城にあるのを知らなかった?」
その言葉にアトム・マウントブレスの動きが一瞬止まる。
「あの時はいろいろ気が動転していてね。まさかおひざ元にレシピがあるとは知らなかったのだよ。」
「………他にも幾つかある。貴様は大災害の瞬間に何を感知したのだ?」
「それはどういう事かな?」
マウントブレス卿はやや落ち着いた声で返事を行う。
「明らかに大災害直後にお前は行動を開始してる。遠見の鏡のレシピを探し、アレクサンダー=アルバに遠見の鏡を大量に作らせ、会議場を作り上げ、それを我々忍者を使ってウェンの大地の各地に運ぶ………それをこの短期間でできたのは異常だ。」
「なるほど、私が大災害を使って膨大な利益を狙っていると、そう考えているわけか。」
「違う。それならば貴様は他の貴族共の首を掻っ切ってのっとっているはずだ。異種族に生まれ、パーティーにすら呼ばれない貴様には貴族共を救う理由など一切ないはずだ!!」
「理由? 私はただ世界を守りたいだけなのだよ。これは大災害前も大災害後も変わりのない事実だ。」
おかしな言葉だ。大災害前と後とで世界が激変している……そのように認識しているような言いようだ。
「それで、他に用事は?」
「……今回の件ではないがな。」
「ほう??」
「気を付けろ。幾つかの里は貴様を狙っている。ウェンの大地に平和が戻れば、自らの仕事がなくなると考えているらしいぞ。」
「……なるほど気を付けるとしよう。」
少し考えるような動作をして、マウントブレス卿はその忍者の問いに答えた。
その夜。マウントブレス卿の仕事に休みと言う言葉は無い。
軍略や決算、危険な冒険者の動きのまとめなどを一人でやっているからだ。
他の組織が何名かの補助要員を雇っているのに対して、マウントブレス卿はその仕事の大半を一人でやっているのだ。
「アトム様、少々よろしいでしょうか?」
執事の姿をした男がそう言って、マウントブレス卿の方へと歩いてくる。
「貴様は……誰だ??」
だが、マウントブレス卿はその執事の姿をした男に誰何の声をかける。
「……何をおっしゃいます!! 私はこの城の執事………。」
慌てながらマウントブレス卿に駆け寄る執事。
「では何故、刀を隠し持っている??」
その言葉を聞いた瞬間、執事の姿は別の物に変化し、一瞬で覆面姿の男になる。
「マウントブレス卿、お命頂戴ッ!!」
持っていた刀が煌めき、マウントブレス卿の体に突き刺さる……はずだった。
カンという軽い音を立てて刀が跳ね返される。
「えっ……あっ……。」
一撃必殺の技『アサシネイト』。ここまで近づき、必殺の一撃を食らわせる。それだけで商人なら一撃死するはずだ。
「無駄だ。私はそう簡単には倒せない。いや『倒されてはいけない』ようになっているのだ。」
感情をこめない声で、マウントブレス卿はその忍者を見つめる。
「しかし、今が『変装術』か。確か忍者レベル60の技だったはずだが……。」
「何故それを知っている??」
「知識としてあるだけだ。実際に見るのはこれが初めてだがね。」
『変装術』、本来は護衛役がターゲットの近くで行動しやすくする為の物だ。
彼は、その変装術で執事に化けてマウントブレス卿に近づき、一撃必殺の刃で殺せばいいと考えていた。
しかし、攻撃が通じなかった。避けられたのならまだわかる。それは偶然ならありうるかもしれない。
しかし、目の前の男は攻撃を跳ね返したのだ。いやこの男はそれ以上の力を持っている。
『変装術』はそれこそ職業や性別まで変化させる大地人の忍者の切り札だ。単純な方法では見分ける方法は全くといってない(何故か冒険者はこの技を使えない)。
今の今まで『変装術』を解除するまで、変装を見破れた冒険者は1人としていない(見破る方法は存在しないはずだ)。
唯一、冒険者をコピーする事が出来ない為、それだけが欠点と言える。
会話などを行えば、矛盾が生じる為、このような暗殺には本来不向きなものだ。しかし常に城の中で活動しているアトム・マウントブレスを殺すにはこれが一番だと判断した。
しかし、目の前の男は何事もないようにそれを見破ったのだ。
「我々の努力の結果を……。」
「努力か……<大災害>前の事を言っているのなら止めておいた方が良い。とても薄っぺらいものだ。」
「貴様っ!!」
男は懐から二つの巻物を取り出す。
「……なるほど、召還の巻物か……。それを使えば確かに自分のレベルまでのノーマルランクのモンスターを封じ込める事ができるのだったな。…まったくクエスト用とはいえ面倒なものだ。」
本来ならこいつを召還して殺すはずだった。二体のモンスターが俺の横に現れる。
アトムが意味不明な事を言っているが、気にせずに突撃させる。
アンデッド・ソルジャーとワイルドボアそれぞれがレベル50クラスのノーマルランクモンスターだ。
「やれっ!!」
その言葉と共に、二体がマウントブレス卿に襲い掛かかる。
「貴様をここで殺しておまえになり替わるッ! それで話はお終いだっ!!」
「では、今のうちに『変装術』で化けた方が良いのではないのかな?」
マウントブレス卿は少々焦ったかのように喋りながら、二体のモンスターの攻撃を避けていく。
「言われなくてもそうしてやるっ……。」
脳内のコマンドで『変装術』を選び……目の前の男に化けようとする。
(エラー。彼に変装する事は重大な規定違反です。)
脳内でそんな声が鳴り響いた。
「なっ、何だてめえはっ……一体何が起こっていやがるんだっ。」
『変装術』が使えない。それだけで男の焦りは頂点に達した。
「てめえは、まさか古来種………。」
圧倒的な能力を持つ、伝説の英雄。彼らならば自分達がコピーできるはずがない……と思う。
「……残念だが違う。君の知識では私の正体はわからないだろうがね。」
モンスター2体の攻撃を受けながらマウントブレス卿は答える。その体には一切のダメージが受けていない。
「では、貴様の正体は一体何だと言うのだ??」
「知りたいか?? 知って貴様が耐えられると言うのか??」
「ふざけるなッ。貴様の正体が何であれ、それの何が問題だと言うのだッ!」
「では、教えてあげよう……私の正体は………」
「嘘だッ……嘘だっ!!」
マウントブレス卿の言葉を聞いたその忍者は頭を抱えるかのように、叫び続けた。
「俺達の今までの努力はッ! 俺達の戦いはッ!
たったそれだけ……俺達はたったそれだけの存在なのかっ!!
答えろッ! アトム・マウントブレスッ!!」
「……正確にはそうだったと言うべきだろうがな。私が言ったことは私が知っている限り事実だ。暗殺者『フリップ』」
「嘘だっ……貴様は出鱈目を言っているだけだっ!!」
「この言葉が嘘だったとして君が何故嘆く必要がある? 強者としてこの世界に生まれた君を?」
「違うッ、それが事実なら悲しむべきところだッ! それはつまり、あいつら冒険者と同じ……。」
「残念だが、冒険者はレベル4から少しずつ成長し続けている。最初から強者として生まれたわけではない。」
名前を言い当てられ、さらなる言葉を聞いてその忍者は絶望の笑みを浮かべる。
「納得がいかないのなら、私の正体について、思い当たる事があれば言ってみると良い。貴様が納得のいく答えを得られるとは限らないがな。」
「ああっ、考えてやるっ……貴様はっ……貴様の正体は………化け物だっ!!」
「化け物以上の力を持っていることは認めよう。しかし、私はこの世界を守るために生まれてきたのだ。
例え、私の力が<大災害>前の2割程度だとしてもな。」
力を持っている事への陶酔でも、力を失った事に対する恐怖でもなく。まるでそれが当然かのように冷静に話し続ける。
「貴様は、<大災害>の時に大幅に弱体化したとでもいうのかッ!」
「ああ、本来なら君と出会うはずもない、出会わなくても問題は無いはずなのだが、出会えるようになってしまったのは仕方がない。」
それなりの腕前を持つ忍者を前に、圧倒的余裕を見せながら説明を行う、アトム・マウントブレス。
「あっあっあっ………わかっていることがあるッ。貴様はッ俺の敵だっ!!」
そう言ってその忍者はアトム・マウントブレスに襲い掛かった。
「愚かな……私の正体を知って、なおも戦うと言うのか? 私の死はウェンの大地の壊滅を意味するのかもしれないのだぞ。」
「当たり前だッ、そんな馬鹿な存在がいるはずがないッ! それを貴様を倒して証明してくれるッ!」
その言葉と共にマウントブレス卿は懐から二つのスクロールを取り出した。
「何故、只の商人貴族がそのアイテムを持っているッ!!」
取り出された召還の巻物を見て忍者はに叫ぶ。奴の正体が『そう』であるのなら持っていてもいや、今この場で作り出したとしてもおかしくない。
「護衛用だ。流石に生身で戦うのは不慣れなのでな……。」
スクロールから魔獣が飛び出し、忍者に襲い掛かる。忍者に冷静さはなかった。
「アトム様ッ。何の騒ぎでございましょう!!」
そう言って、もう一度執事が入ってくる。本物だと確認した後、アトムは執事に声をかける。
「……曲者だ。もう私が殺したがな。」
「それはそれは………。」
「ここの警備も増やすべきだな。今回は……被害が無かったようだが、次はそうもいかん。」
「申し訳ございません。私どもがしっかりせねばなりませぬのに……。」
「構わんさ。今回の件は忍者どもを侮った私にも責任があるからな。」
アトムはそう言って、頭を抱えた。
今の今まで無かったとはいえ、対処していなかったのは問題だった。
「かしこまりました、ターミナル傭兵団から信頼できるものを雇いましょう。」
「頼む、そうしてくれ。」
「しかし……。」
私の存在が、彼らの今までの『努力』の全てを否定する……。それは紛れもない事実だ。
「皮肉なものだな。コマンド一つでできる事を努力と言う事も、私の存在も。」
少々感傷的に言いながらアトム・マウントブレスは嘆き気味にそう言った。
そして数週間後、バルバロスに再び妖精の輪を通じてアキバの冒険者達がやってきたのだった。
今度は、交易所を作る為の資材と工具を持ってきたのだったがそこで問題が起きたのだ。
「だから、お前達に家を作るのは無理だ!!」
「ええとだな、大災害以降色々とできることがあってだな……。」
「今の今まで作れなかった物が急に作れてたまるものか!!」
冒険者と大地人が何やらいろいろともめているらしい。
「……なあリーダー。ここは大地人のやり方を見せてもらおうじゃないか。
ていうか、俺がどうやって大地人が家を作るのかを知りたい。」
口論しているリーダーをしり目に、メンバーの1人がそう言って、落ち着かせる。
「……だけどな……。」
「俺も大地人に作ってもらった方が良いと思う。」
その言葉にアドバイザーとして再び一緒についてきたたかやが声をかける。
「俺も、大地人がどれぐらい物を作れるのか知っておきたい。」
「……わかった。俺も大人げなかった。じゃあ資材はこれだけ用意してきたが……足りるか?」
「ああ、これぐらいの資材の量だったら2階建ての建物が立つな。俺のスキルだとそれが限度だ。」
そう言って、目の前の男が資材を冒険者の代表から受け取る。
「建てるのに3日ほどかかる。それまで待ってくれ。」
「「「「3日???」」」」
交易所は今すぐいるものではない。だが3日は早すぎるのではないだろうか?
手作業で加工して、組み立てて……とやっていけば1週間はゆうにかかるだろう。
それをこの男は3日でやると言ったのだ。
「すまんな。どうも船を作るのに大工が必要で、手が空いてるのが俺だけだったんだ。」
「………突っ込まんぞ。俺は絶対つっこまんぞ。」
あまりにも早すぎる作業速度なのだが、遅いと判断したのか、言い訳をする目の前の大工。リーダーは何も言わずに黙り込んでいた。
「それではお願いします。」
その大地人が指を急速に動かすと、すさまじい勢いで動き出し木々が組み上げられ、壁などが作られていく。明らかに普通の人間でできる速度ではない。
「すげえ……。」
「それじゃあ、ここはお願いします。」
そう言ってたかや達は向こうの要望と代金などの取り決めを行っていった。
そして、次の日。
「完成したぞ。」
その言葉と共に、立派な2階建ての交易所を見せる大工。
「まさか、完成に3日かかるってMPの問題だったなんて……。」
途中で休んだので何事かと思ったら、なんとMPが切れてスキルが使えなくなっただけだったと言う事で、一緒についてきた付与術師がMPを無理やり渡して完成させたのだった。
冒険者全員分のMPをつぎ込んだのでそれこそとんでもない速度で家が完成したのであった。
「………出鱈目が過ぎるだろうこの世界……。」
「物を作るのに、手ではなくスキルが必要な世界。俺達はそう言う世界に生きているって事だな。」
冒険者達はややため息をつきながら、その作られた家を覗き見た。
「……カウンターや部屋まできちんとできている……。」
「んなあほな……。」
あまりと言えばあまりな出来事にメンバー達は驚愕する。1日でこれだけの物ができる事に驚愕する。
「ベッドなんかは……持ち込みだな。」
「ま、雨露をしのげる拠点だけで十分だがな。」
「そういえば、変な事を言っていたな。手で作るとかなんとか……。」
先ほどの言葉を不審に思ってその大工は声をかけてくる。
その言葉に一同が顔を見合わせる。ついうっかり言ってしまったが、その事を大地人に教えてしまっていいのだろうかと言う問題点だ。
「生産スキルを持った人間が、コマンドではなく自らの手で作る事で、レシピが無くても物を作れるって事なんだが……。」
「レシピ無しで物が作れるだと!!」
「驚くのはそっちかよ!!」
「いや、すまんすまん。流石に家を作る時は設計図をコマンドで書いて作っているのだがな……。」
「設計図?自分で書けるのか?」
たかやは、少々疑問に思いつつその言葉を投げかける。
「どうした? たかや?」
(いや、そう言ったものは確かF.O.Eが作っていたはずだから、まさか大地人達が自分で設計図をかけるなんて思っていもいなかったんだ。)
小声で返事をしながらたかやはやや驚愕の表情を浮かべていた。
「物を作るのにレシピは絶対に必要なものだと思っていたからな……まさかそんな方法があるなんて………。」
「いや、物を作るのに生産スキルが必要な方には突っ込まないのかなーって思ったのですが……。」
「???何を言っている。物を作るのに生産スキルは必要だろう?」
大工が何を当たり前のことのような感じでたかや達の疑問に答える。
「…………そうか。こっちの世界だとそうなんだ。」
物を作るのにはスキルが必要。それはこの世界では当然の事だ。それらの事を一切忘れてこの世界では物は作れないと判断してしまったのは自分達だったのだ。
「だが、レシピに無い物を作れるとして、それ以外のメリットは何なんだ? もし、それが事実だとして、レシピに無い物を作って何の意味があるんだ??」
「何の意味がだと……」
1人の男がやや怒り気味に答える。
「俺達があの大災害から2ヶ月間、ふやけた段ボールで我慢してきたのは何でだと思うんだっ!」
「まあまあ、落ち着けって……すみません。どうもこの件に関しては色々とあるんです…。」
「段ボールって何なんだ??」
気にせず大工は声をかけてくる。確かにこちらの世界に段ボールは存在しない。
「まあまあ、そうだ。こっちにも料理スキルを持った人間は結構いますよね。」
「ああ、それがどうした?」
「少々、面白い物を見せてあげましょう。」
そう言って1人の男がメガネをかけていないのにメガネを上げるしぐさをした。
その驚愕の料理の味を知って、バルバロスのメンバー達が驚愕を行う。
「自らの手で料理を作る事でここまで変わるとは……。」
「……ま、色々と問題があるんだけどな。」
「……他の生産スキルでもできる事はできるんだが、この調子じゃ物づくりに時間がかかりすぎるだろうな。」
手をボロボロにした料理人達を見ながら冒険者が呟く。
だがそのボロボロになった手は確かな『努力』の結果であった。
変装術についての言い訳。
冒険者には見分ける事が出来なかったと書いてありますが、これは大地人視点です。冒険者視点の場合、ストーリーの様子とかで『あっ、このメイドさんは忍者だな。』とすぐにばれていました。
冒険者には使えないと設定していますが、これはPK時に悪用されることを恐れてです。