傭兵達
この世界において傭兵と言う稼業は成り立たない。
なぜならば基本、大地人の兵士を遥かに上回る『冒険者』が存在し、戦っている以上基本傭兵の役割は無いに等しいのである。
が、幾つかの例外が存在する。
まずは、商人配下の傭兵。危険な旅のさなかにおいて荷物を守ったりするのがその役割だ。
次にNINJA(忍者)。ウェンとヤマトにのみ存在する彼らは、冒険者達の中堅レベルの敵としての役割を幾つかのクエストにおいて担っていた。
また狩人なども傭兵の一部と言えるだろう。
そんな大地人の戦力の中で、彼らの中で最も冒険者に恐れられ、忌み嫌われていた傭兵達がいた。
その名はエヴォリュート傭兵団。
シナリオ上では『冒険者から戦術を学ぶ傭兵団』と言う触れ込みだったのだが……色々とガチガチすぎた。
彼らのクエスト『傭兵団教育訓練』はレベルが30まで下げられた上に24対24のGVGを行うのだが……。
このクエストを作成したメインプログラマーが暴走。本気の学習システムとガチガチの戦術プログラム、そしてパーティーメンバーが戦いごとに変わっていくという狂気の沙汰に等しいクエストになったのだ。
基本傭兵側は特殊なアイテムを使わず、通常の武器とスキルだけで戦うのだが、それでもコンビネーションは一流。
攻略法は、追加効果を持つアイテムを手にして、回復薬を限界までもってようやく互角と言われていた。
5連勝すると傭兵団長から秘宝級アイテムを貰えるのだが、5連勝までが地獄だった。
気軽に受けられるクエストの為、逆にクエスト自体の難易度は最高級………ぶっちゃければ5連勝と言う縛りがなければ簡単なのだろうが、その縛りこそがこのクエストを最高レベルまで引き上げていた。
「……あのクエストは、本当に昔っから地獄だったぞ。」
「今のこっちの方が地獄だがなっ!!」
ウェンの大地に降りたった冒険者達だったが、それこそ商人達はこちらを見れば逃げ出し、村人達は罠を張って待ちかまえ………。
何故か馬車から飛び出したNINJAに襲われて戦闘中なのだから。
1人のNINJAが口から灼熱の炎を吐いた。
「あちちちちちっ!」
慌ててたかやは盾で防ぐのだが、熱せられた盾の熱さにたまらず離してしまう。
「愚かなッ!」
べつのNINJAが盾を離したたかやの胸に手刀を叩き込む。
「戦場において自らの命を守る盾を捨てる事は、命を捨てるも同然の事!」
それだけで、たかやのHPを大量に削る。
「ここは退却するぞ!」
その言葉と共に、一同は首にぶら下げている召還笛を吹き、それぞれ馬を呼び出し、慌ててNINJA達の魔の手から逃げていく。
「……ふっ、これで奴らも迂闊に商人の馬車を襲うなどしなくなるだろう。」
NINJAの1人がそう言って、高らかに笑った。
「さて、このことをマウントブレス卿に報告せねば。」
「………これ以上の探索は不可能と判断。帰還呪文で一旦アキバまで帰還します。」
全員がぐったりとした表情を浮かべるのを見て、リーダーが帰還を決める。
「了解です。」
その言葉に全員が肩を下す。ウェンの探索は無理だ。例えここに何があったとしても、こうなってしまった以上、大地人にすら襲われて旅を続けるのは不可能に等しいだろう。
「………アキバはまだましだったんだな。」
そう言ってぼそりと呟く。
「……俺達がもう一度この大地を踏みしめるまでにどれだけの人が死ぬのやら……。」
「……冒険者は死なない。決して死ぬことなくこの世界に生き続ける。」
そう言って、全員が帰還呪文を使おうとした。
「待てーそこの冒険者ども待ってくれええええ。」
1人の白衣の男が慌てて走ってきた。
「ふふん、何とか間に合ったわい。」
その言葉と共に一人の白衣をつけた男がやってくる。
「あんたは……アレクサンダー=アルバ!!」
たかやが驚愕の声で叫ぶ。
「おーおー。わしって有名人なのかの。」
「何をしにここに現れたんですか?」
「ちょっとした相談じゃよ、何せ今のウェンには話ができる冒険者がおらんからの~。」
そう言ってアルバはニヤリと笑う。
「なにせ、アトム・マウントブレス卿には感謝せにゃならんな。」
「アトム・マウントブレス卿??」
「何じゃ知らんのか?? ウェンで一番の商人貴族じゃよ。」
「「「………商人貴族??」」」
あまり聞きなれない言葉に、一同が首をかしげる。
「領地を持って、その領地からの税金を元にしているのが普通の貴族だけど、そうではなく物の売買で富を得ている貴族の事ですよね。」
たかやがフォローを入れる。
「まったくもってその通りじゃ。ま今回はわしの研究の出資者じゃからな。
それはともかうとして。今回色々と頼みたい事があるんじゃが……。」
「頼みたいこと?」
「そうじゃよ……なーに難しい話ではないわい。ミスリルを50キログラム、アダマンタイトを40キログラム、魔性木を100キログラムばっかし、研究に必要でな。それを売ってもらえんかのー。どうもこちらの冒険者で信頼できるものがおらんからなー。」
「無茶苦茶言うなッ!」
そのとんでもない要求にリーダーが突っ込みを入れる。
「俺達はここに探索にしか来ていない。物だって最低限の物しか持ってきていないし、ここから俺達の本拠地まで10000キロメートル以上は離れてるんだぞ!!」
「…………む……そりゃ困ったなぁ……。他にもいろいろと入用なんじゃが……困ったのう……。」
たかやとしてはこのマッドサイエンティストの事をよく知っている。
<マッドサイエンティスト>はNPC専門職業で、幾つかの生産職の複合職となっている。もしPCがなれるのならそれこそこぞってこの職業を取るだろう。
最もマッドサイエンティストの特徴はそれだけではない。幾つかのランダムイベントが発生しやすくなっているのだ。
ちょっと危険なアイテムを作ってしまう。研究途中でラボが爆発し、ラボの修理のための材料を要求してくる(報酬あり)。ラボの周辺に謎の装置を作ってしまうなど様々だ。
有用なアイテムを格安で作ってくれたりもするので、たかやは彼にそれほど悪い印象は持っていない。
しかし、しかしである。彼のスポンサーと言うマウントブレス家は何十回もウェンの大地で冒険したことのあるたかやですら聞いたことのない組織である。
「………他にも色々と素材が必要なのじゃがのう……。」
そう言ってやや困った顔をするアルバ。
「ま、わしとしてもすぐにアイテムが欲しいわけじゃないからのう……。」
そう言ってすぐに明るい顔になって笑うアルバ。
「素材ひとつ持ってくるにしてもここからアキバまで10000キロ以上離れてるし、妖精の輪から持ってくるにしてもバルバロスに繋がっているルートしか見つかってねえし……。」
「なんじゃい?バルバロスにはつながってるのか。ならそこで荷物の受け渡しを……。」
「つながるのは1月に1時間。それから本土まで運ぶのは一苦労だぞ。」
「……む。」
その言葉にアルバの言葉が詰まる。
「…そっから海上輸送になるからかなり面倒な事になるな。」
手間賃など考えたくもない。
「もちろん、バルバロスはプレイヤータウンじゃないですから銀行使用も不可能ですし。」
「それでも、他の場所に送られるて、他の冒険者に奪われる可能性を考えれば、海で運んだ方が楽じゃわい。」
アルバが断定するように言う。
「……妖精の輪は不安定ですから、ずっとつながり続けるわけではないんですけどね。」
「ま、そのあたりの事は後で考えればええわい。それよりもお前さんマウントブレス家を知らんといったな。
マウントブレス家はこのウェンでは最大規模の商人ネットワークじゃわい。鍛冶屋や薬剤師などといった軍用消耗品をあつかっとって、おそらく冒険者の中にもあいつらの薬を使った奴はおったんじゃないのかのう。」
「最大規模だって!!!」
そんな組織が今の今までたかやの耳に入っていなかったのは偶然なのか、それともそれ以上の意図があったのかわからない。
「……しかし、あの<大災害>以降商品は盗まれるわ、隊商は襲われるわで大損続き! NINJAやエヴォリュート傭兵団を雇っていろいろやっとるようじゃが、すぐに復活して冒険者の町から出てくる冒険者相手には押されてるのが実情じゃな。」
「………エヴォリュート傭兵団まで繰り出して何にもできないのかよ……。」
「いやエヴォリュート傭兵団はレベル30。通常のアイテムしか使わないんだったら、レベル90の冒険者相手じゃ群れても勝てる道理なんてないさ。」
「あーそれなんじゃがのー。特殊なアイテムを使ってレベル30にしとるだけで、本来はもっと上じゃぞい。まあ、それでも勝てんからのー。」
その言葉にさらに陰鬱になるメンバー達。
「なーに、わしが発明した……。」
「アルバ様っ。その事はまだ秘密のはずです。」
後ろにいた男がアルバの喋ろうとした事を止める。
「むーーーーー。」
その言葉にふてくされるアルバ。
「……つまり、大地人側にも何らかの反撃の手段が用意されている。そう言う事ですね。」
「……ノーコメントでお願いします。」
「それと、交易の件については、やはりそれなりに準備や手続きと言うものがあると思います。」
「なあーに。最悪物々交換でも構わんわい。」
その言葉にアルバは大きく笑った。
フレデリックはゼイルナと共にウェンの大地を歩いていた。
「ふれでりっく、キミガキョウリョクシテクレテホントウニタスカッタ。」
「俺だって助かったさ。何せ1人でこの世界を破滅させるには、色々と迂遠すぎるからな。」
そう言って、フレデリックは手にしたトマトをぱくりと食べる。
大地人の村から奪い取ったものだ。
「俺はこの世界を一かけらほども愛情を抱いていない。」
そう言ってフレデリックはニヤリと笑う。
「………??」
「俺にとってこの世界は破滅させるべき対象で、守ろうなんて一切考えちゃいない。」
「オモシロイコトヲウナ。」
「今の今までマナーの悪いプレイヤーを量産させ、プレイヤー間の対立を煽り続け来たんだ。このチャンスを逃せるかよ。
今の今までアタルヴァ社がきちんと管理していた世界を完膚なきまでに破壊できるんだからな。」
そう、廃人となったのはこの世界を破滅させる為。初心者の流入をなくし、アタルヴァ社を経済的に追い詰める為。
「……これが最後のチャンスなんだ。この世界を破壊できるよぉ……。」
プレイヤー1人でできる事など限られている。プレイヤーはダンジョンを破壊できない。
流石に大地人の城に襲い掛かったとしても、一人では押しつぶされるのが落ちだ。
「流石に貴族の城に一人で突進するのは無謀だ……だがお前の能力なら城を1人で壊滅に追い込める。」
「アア、ワタシノチカラヲツカエバシロヒトツミナゴロシニスルコトガデキル。」
ゼイルナはそう言ってフレデリックの言葉を肯定する。
「ダガソノカワリセイゲンガキビシイ。キサマノマモリガヒツヨウダ。」
「ああ、わかっているさ。」
その言葉にフレデリックはにやりと笑うと、目の前に見えてきた村の方へと走って行った。
今回、ストーリーラインの見直しにより一部を改訂しました。




