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蠢くもの

「……やっぱここのメシも段ボールなのか。」

もさもさとしたものを食べながら、たかや達はやや嘆き気味に喋る。

「監視役がいるのはわかるが、どうせ秘密にしなきゃいけない事は一切ないが……。普通の飯が食えないのはイライラするな。」

彼らは短期の調査で終わらせるつもりであった為、24名いて<料理人>がいないというとんでもない事態になったのだ。

「………こんど、料理のできる<召喚獣>探さないと駄目かなぁ。」

「そんな不純な……。」

制作スキルを持つ召喚獣はそこそこ存在する。ゲーム時代ではおまけ要素的な扱いだった(そうでないと召還術師があまりにも有利になりすぎる為)。のだが自分の手で作るのならそのフレーバーですら重要な要素になる。

「………やっぱりどこに行っても同じ味ってのはつまらないよな。」

「いつまでここにいなきゃならんのかなぁ………。」

現状、帰還呪文を使えば一発で帰る事はできるが、相手との心情とかを考えればそれはとても難しい話になるだろうと思われる。

「しかし、サーバ移動したっていうのに、動きにズレが全くないな。」

「肉体と魂同士が融合してるつうのか、<エルダー・テイル>の肉体に向こうの精神が入ってるっていうか難しい状況だよな。俺虫歯あったのになくなってるし。」

「そりゃよかったな虫歯とかなくなって。」

「……それも自分の生活のせいだったんだよな。」


その会話の様子を注意深く聞きながら大地人達はその言葉を慎重に刻み続ける。

「……これが普通の食事のはずなんだが……。それとも、冒険者の言う『真実の食糧』という奴なのか?」

「虫歯ってのは何なんだ……。」

まあ聞いていたとしてもそう簡単にわかるものではないが。


そして夕方。

「王様がお前達と話し合いがしたいと言う事だ。」

ようやく、数名だけでバルバロスの王と話し合いができるようになったのだった。


そして話し合いの終わった深夜。

「……まさか廃人クラスの冒険者までもが暴れまわっているなんてな。」

「幻想級アイテム持ちが只の大地人を襲ったりしてるらしいぞ。」

それはあまり考えたくない事だった。それはつまり最高レベルの装備をした最高レベルの冒険者が大地人を襲っていると言う事だ。

彼らに対抗できる人間は円卓会議ギルドの中でも上級幹部が全力を尽くして半々だと言う事だ。


幻想級アイテムは1拡張パックあたり1サーバ約500個。

これが13サーバにある為、1拡張パックあたり約4,500個渡されることになる。

幻想級と言う概念が誕生したのが6個めの拡張パックとして、6回分の拡張パック分が存在する。

つまり現在世界にある幻想級アイテムは約27,000個存在するのである。

ここでは『卒業』してしまったPCの分のアイテムを省くとしてきりよく20,000個としよう。


レイドギルドが100存在するとして、幻想級アイテムは1ギルドあたり200個。

もしそれを96名のギルドで分け合えば、手に入るのは1人、2個か良くて3個程度になるだろう。


人数の多いギルドならもっと深刻な問題だ。

アキバで最も多い戦闘系ギルドの<D.D.D>の人数は2,500人。

1つも手に入れられない参加メンバーが出てくるという問題が出てくるのだ。

『レイド参加者優先。協力者であってもレイドに参加していればアイテムは手に入る。』

これが基本的なルールだ。

ギルドによって細かなルールは違うがレイド参加者が幻想級アイテムを持つことはほぼ当然と言えるだろう。


ゆえに幻想級アイテムの習得争いは苛烈を極める。

人や資源を集める難しさや、分け前の問題などなど………。

それらを乗り越えて手に入れた武器の価値は計り知れないものがある。

それらを使って暴れられたらそれこそ止められるのは衛兵か、古来種ぐらいだろう。


「まあ、これからどうするかだが………。」

一通り話した後、これから先の会議に移る。

「………まずは海を渡って本土の様子を少し見てみようと思う。」

「調査優先ですか。」

「そうだ。戦闘を避けながら、周りの様子などを確認する。」

「……ええ、相手はおそらく廃人級が数ギルド分。まともに戦って勝てる相手ではありませんからね。」

数でも装備でも勝てないなら、まず戦わないのが普通だろう。

彼らはそう結論づけて、行動に移すことにした。


さてマウントブレス卿の居城……彼は商人でありながら、貴族の地位を持ち、交易で稼いだお金で城などを維持していると言われていた。

「………手作業がこれほどつらい物とは思わなかったな。」

様々に送られてきた資料を手にしながらマウントブレス卿は1人で膨大な資料を読んでいた。

「………アトム様。ご連絡がございました。」

鏡を持った執事服の男がやってきてマウントブレス卿に声をかける。

「……つないでくれ。」

「かしこまりました。」

『マウントブレス卿、バルバロスの話は聞きましたか?』

鏡の中からの声にマウントブレス卿は平然と答える。

「ええ、聞きました。妖精の輪を通じて異国の冒険者がやってきたという話ですか?」

『さすがは卿、耳が早い。今の所問題は起きていませんが、この状況で流石に信頼せよというのは問題でしょう。』

「確かに。今までの冒険者は仮面をつけていただけなのかもしれません。」

『面白い事言いますな。ひょっとして卿は冒険者と出会ったことが?』

「いえ、一度もありません。私は……いえ我々の一族は『この居城より出られない』と言う呪いがかけられているのです。」

『それは初耳ですな……依頼などはどうしてるのですか?』

「幸いこの呪いがかけられているのは一族の長のみ。依頼を出すときは別の者を使えばよかったので特に問題は起こりませんでした。」

その言葉を聞いてからまた言葉を紡ぐ。

『………また貴族連合の中に死者が出ました。今度はアンデッドの群れに殺されたそうです。』

「それは………。」

『………今回マウントブレス卿に幾つかのお願いがあるのです。』

「それは?」

『あまりにもひどすぎる<冒険者のプレイヤータウン>への経済的制裁……参加していただけますか?』

「……やや酷い話になりますが、儲けを一切得られないのならば、その都市への商品の運搬をやめるべきだと、思っております。」

やや驚愕の表情を浮かべたが、あっさりとその言葉に対して了承の言葉をするマウントブレス卿。

『………なるほど、あくまで一商人としての判断ですか』

「はい。私は貴族であるよりも先に商人なのです。ですが利益の出ないものに投資をする商人はいません。」

『ふむ……それでは。』

「……制裁とは言いませんが、あまりにも治安が悪い場所に商売に行かせる事は止めようと思います。」

『いやはや、それを聞いて安心しました。卿が参加していただけねば、いきなりつまずく所であった。』

そう言って鏡越しに2人は話し合う。

『実はここだけの話、我々はこのウェンの大地に法を取り戻すための計画を幾つか進めているのだ。』

「ほう? それは一体??」

『………まだ、細かな点は決まっておりません。ですが、我々の間でそのような意見が出てることを覚えておいていただきたい。』

「わかりました。それではこちらの方でも案を考えておきます。すべてはこの世界の平穏の為に。」

『この世界の平穏の為に。』

その言葉と共に執事は鏡を後ろの方へと運んでいく。

「計画か……私の知らない事態が進むとは思わなかったな。」

アトム=マウントブレスはそう言って複雑な表情を浮かべた。

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