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かくれんぼ  作者: 琢尚楓
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第三話

「この中に罪を犯した奴がいるって一体どんな罪だよ。みんなただの大学生だろ?

殺されなきゃならない程の恨みを買ってる奴がこの中にいるっていうのか?」

顔を真っ赤にしたタツヤが立ち上がってそう叫ぶ。


「そう言う事よね、犯人はその誰かを恨んでる。

そしてその誰かはこの四人の中にいる。

もしかしてあなたじゃないの?タツヤ

私が知っているだけでもあなたのやってきた悪事は相当な人間の恨みを買っているはずよ」


「ユキエ!それを言うならお前だってそうだろうが!

お前がやってる事は犯罪だぞ!」




なんだ?どういう事だ?

二人は今日久しぶりに会ったんじゃないのか?

メグミも驚いた表情をしている。



「ん?ああ、俺とユキエは少し前に会ってたんだよ」









────── タツヤの告白 ──────



俺はこれまで女には苦労したことがない。

向こうからいくらでも言い寄ってくるからだ。

靴箱に手紙が入ってたり、メールでコクられるなんてのはしょっちゅうだ。

バレンタインデーには数え切れないほどのチョコをもらったし、卒業ともなればボタンの奪い合いがおきるくらいだった。

中学の頃はいちいち真面目に対応していたが、高校に入ってからはそれも面倒になった。

気に入った子とは何人とでも付き合った。

来るものは拒まず、去るものは追わず、常に4、5人と同時に付き合う事になんの違和感も感じなくなっていた。


女なんて皆同じだ。最初は決まってこう言うんだ。

大勢の中の一人でいい、側にいられたらそれだけでいいの

そんな風に言ってたのがいつの間にか彼女面して独占したがる。

今どこにいるの?誰と一緒なの?私のこと好き?愛してる?タツヤじゃなきゃダメなの、タツヤがいないと生きていけないの。

面倒臭いったらありゃしない、そうなったらもうおしまいだ。適当な 理由をでっち上げてサヨナラする。

今まで何度こんな事を繰り返して来ただろう。



大学生になった俺はやりたい事も見つからずに毎日フラフラしていた。

周りの奴らがサークル活動やコンパに精を出しているのを見ても何も感じない。

いつの間にかパチンコや雀荘に通ってギャンブルで1日の大半を過ごすようになっていた。

しかし、最近は負けが込んでいる。軍資金がなければ勝負することもできない。とはいってもその為にちまちまバイトなどする気も起きず、手っ取り早く金を儲ける手段はないか、毎日その事ばかり考えていた。

ブラブラと歩道を歩いているとき目の前に電話ボックスがあった。

そこには大量のピンクチラシが貼られている。それを見て俺は閃いた!

これだ!これなら簡単に大金を儲けられる!

俺は直ぐに携帯のアドレス帳を開いた。




長瀬敦美

俺の数ある遊び相手の中でも容姿もそこそこ

ノリがよくてしかも金が好き。ブランド品を買う金が欲しくて援助交際にも手を出してるって噂だ。

俺は直ぐに敦美を呼び出して計画を聞かせると思った通り食いついてきた。

準備ができたら連絡する、そう言って俺は敦美と別れた。これから忙しくなる、まずはいろいろと用意をしなければ。






数日後、俺は繁華街の地下にある噴水広場に敦美と二人で立っていた。

待ち合わせの時間はもうすぐだ。

40代位のサラリーマン風のメガネをかけた男が近づいてくる、客だ。

俺は客と簡単な挨拶をしてその場で金を受け取った。

客は敦美を見て気に入ったのか既に鼻の下を伸ばしている。あとは敦美次第、俺は二人を見送った。

数時間後、敦美から電話がかかってきた。

「どうだった?」

「すごいよ、うまくいったよ!カラオケ行ってちょっと触らせただけで全部で2万も儲かったよ!」

「凄いじゃないか!どうだいこっちの方が儲かりそうだろ?」

「うん、こっちの方が全然いいよ!」

俺は興奮していた、計画が上手くいったのだ。

あとは集客と女の子の確保、それからシステムをマニュアル化して・・・やる事は山のようにあった。全てはこれからだ。




最初はピンクチラシをコピーして、タイトルと謳い文句、連絡先だけを変更したものを大量に作って1枚ずつ電柱やボックスに貼っていった。

しかし規模が大きくなるにつれ、それでは追いつかなくなり、パソコンに詳しい奴の力を借りてホームページを立ち上げた。

【デート倶楽部Angels】10代から20代前半のかわいいエンジェル達と気軽にデートを楽しみませんか?

キャッチフレーズはこんな感じだ。

デートにかかる費用は1時間5000円、これが俺の取り分だ。俺はホームページに申し込んで来た客と女の子をマッチングし引き合わせるだけ、いわば紹介料と言うわけだ。

そこから先は全てオプション料金、これが女の子の取り分となる。

例えば手をつなぐ、腕を組む、プリクラを取る、カラオケに行く、膝枕、マッサージ、耳掃除など

それぞれに個別の料金が設定してあり、客の要望に応じてそれらサービスを施すのである。

もちろんそれ以上の過激なサービスは一応禁止している。健全なデートをするというのが名目だから。

しかし、客と女の子が意気投合してホテルに行くような関係になったとしても、それは俺には関係のないことだ。



女の子達には紹介システムというものを利用してもらって、一人紹介する毎に一万円の紹介料を出す事にした。そうする事で登録者数はジワジワと増え、利用者もどんどん拡大していった。

毎日数万から十数万の金が俺の所に入ってきた。

こんなに簡単に稼げるなら真面目に働くなんて馬鹿らしい。

デート倶楽部のマネジメントが忙しくなった俺はほとんど大学にも行かなくなっていった。



しかし、いつまでも上り調子というわけにもいかなかった。規模が大きくなるにつれ、様々な問題が生じてきた。

好みのタイプじゃない、気持ち悪がられた、態度が悪い、勝手に途中で帰った等の客からのクレーム

逆に女の子達からはキスを強要された、ホテルに無理やり連れ込まれた、料金を払わずに逃げた等の客とのトラブル報告に悩まされた。

そしてさらにまずいことが起きた。

ホテルに入った女の子が客がシャワーを浴びてる隙に財布を奪って逃げたのである。

当然その客は怒り狂って俺に連絡してきた。

ホテルへ行くようなサービスは行っておりませんと説明したが、客が言うには内緒の特別サービスがあると言って誘ってきたのはそっちの方だというのだ。

警察に行って被害届を出すというので、俺は慌てて被害額の弁償、迷惑をかけたお詫びとして十分な額の示談金を用意すると言った。

もちろん、そんな物を払うつもりなど無い。

足がつかないように後始末をするまでの時間稼ぎだ。

元々ずっと続けるつもりなど無い、適当に稼いだら見切りをつけて辞めるつもりだったのだ。

デート倶楽部はほんの足ががりだ、今回で得た資金やノウハウを元に新たなビジネスを展開しようと考えていた。頭の中にその構想は出来ている。

ここの後始末をしてしばらくはほとぼりを冷ますとしよう。




そうそうユキエの事を話さないとな。

敦美にユキエを紹介されたのは、丁度デート倶楽部が軌道に乗り初めた頃だった。

紹介された時は驚いたよ、最初はあのユキエだとは分からなかった。まさか敦美とユキエが同じ大学に通ってたとはね。しかもとびきりの美人になって。

ユキエのような質のいい女が登録してくれるのは願ってもないことだった。俺は二つ返事でユキエを迎え入れた。何でも金に困っていて纏まった額をなるべく短期間で稼ぎたいという事だった。

しかし、ユキエが在籍したのはたった1週間だけの事だった。もっと効率のいい稼ぎ方を見つけたというのだ。

俺はどんなビジネスなのか気になってユキエに尋ねた。

いい話だったら自分が出資して共同経営ってのも悪くないかもしれない、そう思ったからだ。

だが、ユキエのそれはとてもビジネスとは呼べそうもない計画だった。あまりに危険でリスクが高い。

だからユキエを引き止める事はしなかった。

去るものは追わず、それが俺の昔からの流儀なのだ。












──────  ユキエの告白  ──────





私はとても不幸だ。

私だけじゃない、私の家族全員がまるで呪われているかのように次々と不幸が舞い込んでくる。

小さな工場を経営する父と事務仕事でそれを支える母、そして私。

3人で裕福ではないものの仲むつまじく幸せに暮らしていた。

しかし、バブルの崩壊後父の工場は経営状態が悪化して資金繰りが苦しくなった。

部品の注文が減り、得意先が倒産し、数少ない取引先からは無茶な単価での仕事を要求された。

人件費を減らすため、やむなく長年共に働いてくれた職人に依願退職を求める。

職人が減った分残業が増え、朝から深夜まで長時間労働を余儀なくされた。

それでも銀行は資金を貸し渋り、腕のいい職人は長時間労働で体を壊し、工場の経営は立ち行かなくなった。





父はある日、車に乗って一人で出掛け、そのまま帰ってこなかった。

次の日、警察から連絡があった。身元不明の遺体が海中から発見され、父かどうか確認してくれというのだ。

母と私は警察署に向かった。遺体安置所にいたのは変わり果てた父だった。波止場から車ごと海中に転落したらしい。

遺書はなかった。だが父はおそらく自殺したのだろう。

僅かだが父には生命保険がかけられていた。

父はそれを工場の借金返済や私と母の生活の為に少しでも残そうと考えたに違いない。

しかし、ブレーキ痕が無かった事から事故ではなく自殺だと断定された。保険金は僅かなお見舞金しか貰えなかった。



母はパートをいくつも掛け持ちして、何とか私を育ててくれた。四畳半の狭いアパート。風呂もなく、薄い壁からは隣の飲んだくれ親父の怒鳴り声が毎日響いてきた。

それでも私はまだ幸せだった。優しい母と2人で細々と生きていけるだけで。



だが、その幸せもすぐに壊れることになる。

母が急に倒れたのだ。突然ろれつが回らなくなり、そのまま意識を失った、脳梗塞だった。

なんとか一命は取り留めたが、言語障害と四肢に麻痺が残った。

生活保護と奨学金でなんとか高校に通いながら生活することはできたが、母の介護をしながら勉強とアルバイトをするのは並大抵の苦労ではなかった。

それでも私には夢があった。大学で物理を学んでいつかは研究者になりたい。その思いで必死に頑張った。

しかし、時給800円のレジ打ちのバイトではいくら頑張っても稼げる額はしれていた。

もっと短時間でたくさん稼がなければ、母の面倒を見ながら自分の夢を叶えることができない。

私は年齢を偽り、夜の店で働くようになった。

スナック、ガールズバー、キャバクラ、色んな店を点々としながら。

時には客とホテルに行くこともあった。

好きでもない男に体を許すのはとても辛かった。

それでも金を稼ぐため、自分の夢のために出来ることは何でもやった。



そんな時、同じ大学に通う長瀬敦美から割のいいバイトがあるんだけど一緒にやらないかと誘われた。

ユキエだったら簡単に稼げるよと言われて連れて行かれたのがタツヤのデート倶楽部だった。

小学校の同級生とこんな形で再会するとは思ってもみなかったが、割のいい稼ぎ口を紹介してもらえるなら相手は誰でもよかった。

すっかり汚れてしまった私に今更羞恥心など残ってはいないのだ。

タツヤの元でしばらくデート嬢を勤めた。確かに短時間で簡単にお金が入ってきた。

それにしても男というのはつくづく馬鹿な生き物だ。ちょっと甘えた声を出して上目遣いになっただけで、すぐにヤれると勘違いする。

私は水商売で培った経験を生かして上手に男たちから金を引き出していった。

だけど、この商売でも一日に稼げる金額はせいぜい1万から多くても3万程度。時間給に換算したらキャバクラと大差は無かった。

私には時間が必要なのだ、母の介護と勉強に費やす時間が。だからもっともっと効率の良い稼ぎを見付けなければ・・・





そんなある日、いつものように電車で通学している時

満員電車は通勤途中のサラリーマンや学生で溢れかえっていた。

私は出入口近くの手摺に掴まって立っていた。

駅に停車する度に新たな乗客が詰め込まれて、車内はギュウギュウ詰めもいいところだった。

そんな時ふとお尻に違和感が・・・

誰かに触られている?最初は気のせいかと思った。

しかし、手の甲ですりすりしていたのが、いつの間にか

手のひらでモミモミしだしたのだ。

痴漢か、すぐ後ろにいるサラリーマンだろう。

朝っぱらから見知らぬ女子大生に欲情して、恥ずかしくないのだろうか?

これだから男というのは、どうしようもなく馬鹿で愚かでキモくて吐き気がする!

私の容姿が男の欲望を掻き立てることはよく分かっている。だけどそんなの私が望んだ事じゃない。

街を歩けばナンパされるし、電車に乗ればこうやって痴漢に会う、もううんざりだ!

私は男の手を掴んで高々と上に掲げてこう言ってやった。この人痴漢です!



車内は騒然となった。痴漢男は私じゃない人違いだと必死に叫んだが、車内の全員の視線が男の手に集中する。次の駅に着いた時、周りにいた数名の乗客が痴漢男をホームへ引きずり下ろした。

駅員さんが駆け付け、私も事情を聞かれる事になった。痴漢男は自分はやってないと言い逃れようとしたが、警察官が到着すると途端に大人しくなった。

警察官は粘着テープのようなものを男の両手にくっ付け始めた。指紋を採取してるのかと思ったがそうではないようだ。

男の手に付着した繊維を採取して、そこにわたしの衣服の繊維が含まれていればそれが動かぬ証拠となるらしい。結局男は警察署に連行され取り調べを受けることになった。



私も何度か警察署に呼ばれ事情を聞かれた。

目撃者が多数いた事、男は以前にも逮捕歴があったことなどから逮捕、拘留されているらしい。

その後男の弁護士から連絡があり示談交渉をしたいと言ってきた。

深く反省し謝罪文を用意している、起訴という事になれば実刑は免れず社会的に復帰する事も困難、示談金30万を用意したのでどうか示談に応じて欲しいということだった。



私は示談金を吊り上げるために一芝居打つことにした。

事件の事がショックで精神疾患を患い現在通院中である

恐ろしくて電車に乗ることもできず、大学は現在休学中

対人恐怖症になったため家計を支えていたアルバイトも出来ない

病気の母を診ることも出来ず、このままでは親子で首をくくるしかない

とてもそのような額の示談金では応じられないと相手の弁護士に告げた。

交渉の末、最終的に示談金は50万で決着することになった。



痴漢の示談金にも相場というものがあるようで、20万から50万の間で決まる事が多いそうだ。

ちなみに示談に応じなかった場合は裁判所に起訴され法廷で裁かれることになる。

迷惑防止条例違反、あるいは強制わいせつ罪となり、罰金または懲役刑が科せられるのだ。

執行猶予が付いたとしても前科が付くことに変わりなくそれに伴う社会的な制裁は免れないであろう。

家族が離散したり、仕事を失うかもしれない。

だがそれも仕方ない。欲望を丸出しにして犯罪行為に手を出したのだから自業自得なのだ。




それにしても

こんなにも簡単に50万もの大金を手に入れる事が出来るなんて、私のこれまでの苦労は一体何だったのか。

私の中に醜くどす黒い塊が沸き上がってくるのを感じた。

もう自分の大切なものを奪われるのはうんざりだ、これからは奪う側に回ってやる。

馬鹿で愚かでどうしようもない男どもから全てを奪い尽くしてやる!



そして私は今日も電車に乗る。

胸元の空いた服で

パンツが見えそうな程裾の短いスカートで

男たちの舐め回すような視線を痛いほどに感じる。

ほら、また獲物がやって来た

これが罠だとも気付かずに

甘い匂いにつられて哀れな虫がまた一匹

さあ、今の内に思う存分楽しみなさい

一度クモの巣に捉えられた哀れな虫は

どんなに足掻いても逃げられない

糸で身動きを封じられ

生きたまま全てを貪り喰われるのだ!










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