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かくれんぼ  作者: 琢尚楓
2/7

第二話

篠崎千恵子

僕たちの小学生時代の恩師

教師生活35年、定年まであと少し

僕たちが最後の教え子だった。

一見穏やかに見えるが、怒るととても怖くて、また意外と涙もろい一面も持ち合わせていた。



ある日、僕とタツヤと仲の良かった男子たち数名と肝試しをすることになった。

そこは複雑に入り組んだ細い迷路のような路地を抜けた先にある小さな民家だった。

建物はボロボロ、窓のガラスは割れてツタが至る所に生えていた。

今は誰も住んでいないその家はかつて殺人事件があったと噂される建物だ。



僕たちは懐中電灯を持って集まった。

外はまだ明るかったが家の中の電気は付かないだろうと思ったからだ。

「みんな準備はいいか?」

リーダーのタツヤが確認する。

やろうと言い出したのはタツヤだ。

この民家の噂は学校では誰もが知ってるが、実際に中に入ったものは誰もいなった。

もちろん危険だし、バレたら酷く怒られる事は承知の上だ。

それでも好奇心と冒険心、そしてあの家に入ったというその勇気を皆に自慢したかったのだろう。




しかし、いざ噂の民家の前に立ってみるとその不気味さに足が震えた。

今にも崩れそうな程老朽化し、元々なのか後から補修したのか壁の所々はトタンを貼り合わせただけのものだった。

家の周囲は雑草が伸び放題

よく見たら屋根が少し右に傾いている

その傾きのせいか玄関の引き戸は僅かに開いているものの、そこからどんなに押したり蹴ったりしても全く動く様子はなかった。




「これじゃ玄関からは無理だね」

僕は少しホッとした。もしかしたらこのまま中に入らずに済むかもしれない。

正直言うと怖くなってきたのである

他のみんなもそう思っていたかもしれない。

だけどタツヤは

「ほかの入口を探そう」そう言って民家の周りを調べ始めた。

ほぼグルっと一周したところで建物の側面にトタンが剥がれかかった箇所を見つけた。

これを剥がせば中に入れるかもしれない

僕たちはなるべく音を出さないように気をつけながらトタンを剥がしていった。

何とか30cm位の隙間が出来た、ギリギリだが何とか通れないことはないだろう。

問題は、誰が先頭で入るかだ。




「俺が行く、後の順番はジャンケンでもして決めろよ」やはりタツヤだ。

タツヤを先頭に次々と民家の中へ入っいく

思った通り中は真っ暗で懐中電灯が役に立った。

そして入った途端温度の差に驚いた

外は蒸し暑いのに家の中はひんやりと肌寒いのだ。

そこは畳の間だった。

衣類が散乱し、子供の玩具のようなものも見える。

長年誰もこの部屋に入ってないのだろう、ホコリだらけでカビ臭かった。



隣の台所へ進んでみる

床板がギシギシ鳴ってその度に心臓が口から飛び出そうになる。

肌寒いはずなのに全身に嫌な汗をかいていた

緊張で喉はカラカラ、拳を握りすぎて爪が食い込んで痛かった。

テーブルの上や流し台には大量の食器が乱雑に積み上げられていた。

本当にここに人が住んでいたんだ。

当たり前のことだが、実際にその生活の痕跡を見てますます恐ろしさが募ってきた。



「も、もうだいたい見たしいいんじゃないかな・・・」

誰がが震える声でそう言った。

「まだ2階が残ってるだろ」タツヤの言葉に全員が固まった。

正直逃げ出したかったが、ここで逃げたら一生臆病者のレッテルを貼られてしまう。

結局タツヤの言葉に従うしかなかった。

タツヤは懐中電灯を片手に一歩ずつ階段に足をかける

ミシッという嫌な音が響きわたる。

途中で階段が崩れ落ちたりしないだろうか、そんな不安と得体の知れない何かに遭遇するんじゃないかという恐怖で全身が震えた。



全員が階段を上り終えると短い廊下があり、その先に部屋が2つあるようだった。

慎重に廊下を進み手前の部屋のドアをそっと開ける

子供部屋だろうか?机とタンスがあり、床には積み木や電車のオモチャが散乱している。



その時

ガタンッ!!

と言う音が隣の部屋から聞こえてきた!

心臓が止まりそうだった。

ヒイッと小さく悲鳴を上げるものもいた。

僕たち以外誰もいないはずなのに、何故隣の部屋から音がするのか!?

タツヤは隣の部屋へ向かおうとしていた。

僕はタツヤの袖を引っ張ってブンブンと首を横に振った!

絶対にヤバイ、今すぐ外に出た方がいい、そう目で訴えたがタツヤは僕を振り払って廊下へ出た。

奥の部屋のドアを恐る恐る開ける

寝室か?

ベッドがあり、その上で大きな何かが・・・

動いてる!?



それはむくっと起き上がり

恐ろしい声で吠えた!!


そこからはもうパニックだった。

ギャアアアア!!

逃げろおお!!

階段を飛ぶように降りて何度もコケて柱に頭をぶつけて、最後は這いつくばって命からがら恐怖の民家から逃げ出した。

外に出ると辺りは夕暮れで空が真っ赤に染まっていた。

「お前たちこんな所で何をやっている!」

ヘトヘトになって倒れ込んだ僕たちの前におまわりさんが立っていた。




僕たちは交番にいた。

おまわりさんから何をしていたのか

何を見たのか、家は学校は、先生の名前は

矢継ぎ早に出される質問に僕たちは正直に答えた。

もう嘘をつく気力も残ってなかったのだ。

ひと通り質問が終わったところで、千恵子先生が飛んできた。

僕たちの顔を確認すると、いきなりその大きな手で平手打ちをしてきた。

全員にそれも全力で!パシーンパシーンと言う音が響く

そして次の瞬間大粒の涙を流して僕たちを抱きしめた

「あなたたち一体何をやってるの!どれだけ心配させたと思ってるの!あなたたちに何かあったら先生はどうしたらいいのよ!」

ケガはないか、どこをぶつけた、怖い目にあったね、そう言って一人ひとり無事を確かめたと思ったら、今度はまた怒鳴って怒り出した。

何度もそれを繰り返すので、おまわりさんも呆れた様子だった。

「先生ごめんなさい、本当にごめんなさい」

僕たちは泣いて先生に謝った、何度も何度も。


その後それぞれの親が迎えに来て、先生は親とおまわりさんに一緒に謝ってくれた。

結局あの部屋で見た大きな影は、空家に勝手に住み着いた浮浪者だった。

いつからかあそこを自分の寝床としていたらしく、突然侵入してきた僕たちを大声で追い払ったのだ。

そんな事があったからか、しばらくするとあの民家は取り壊されて空き地となっていた。




今思えばいつも千恵子先生にこうやって心配と迷惑ばかりかけていた気がする。

そしてその心配事にはほとんど僕とタツヤが関わっていただろう。

だから余計に先生は会いたかったのかもしれない

やんちゃな子程かわいいっていうのかな

僕とタツヤがちゃんとした大人になっているのかきっと今でも心配だったのだろう。







しかし・・・

集まった山荘に先生の姿はなく

全員に一通のメールが送られてきた。









title:愚かで罪深い生徒たちへ


今日は私のために集まってくれてありがとう

とても嬉しいです。

残念ながらその場にはいませんが、あなたたちの事はちゃんと見ているから心配しないで下さい

各部屋の天井にカメラが設置してあります。それ以外にもいろんな物がこの山荘には仕掛けてあるのよ


あなた達にはこれから授業を受けてもらいます

出来の悪かったあなた達への補習授業です

私の作った特製カレー美味しそうに食べてくれたわね、何が入ってるのかも知らずに・・・


この山荘から勝手に出ることは許しません

授業が終わるまで全員ここにいてもらいます

もしここから出ようとしたり、授業態度の悪かった生徒には恐ろしい罰が下されます

あなた達の命をもって罰を受けてもらいます


午後3時になったら授業を開始します、それまでは自由時間です



篠崎千恵子

---------------------------------------------------------







「なんだこれ、どういうことだよ!おいリョウコなにがどうなってるんだよ!」

「何であたしに聞くのよ、分かるわけないでしょ!」

「何で先生がこんな事・・・」

「先生がこんな事するわけないわ、きっと誰か他の生徒のいたずらよ!」

「リョウコ、先生の携帯かけてみろよ」

タツヤに言われてリョウコが携帯を操作する。

「ダメ、電源が入ってない」

「これ本当に先生のアドレスなんだよな?」

「そうよ、何度もやりとりしてるもん。みんなだってこのアドレスからメールもらったでしょ?」

確かにこのアドレスだ、名前も登録してある。

「これが先生の書いたものじゃないとしたら、一体誰なの?先生はどうなったの?」メグミは今にも泣きだしそうだ。



「みんな落ち着いて、これが冗談かいたずらだったらそれでもいいわ笑って許してあげる

でも、もし冗談じゃなかったとしたら。千恵子先生は絶対にこんな事するわけない、それはみんなも同じ意見でしょ?ということは誰かが先生の携帯を盗んだか、あるいは先生を身動きの取れない状態にして勝手に携帯を使っている人物がいるということよ」

みんなの視線がユキエに集まる。

「最初にこの山荘に来たのはタツヤよね?私とユキエは2人で一緒に来たし

タツヤはいつここに着いたの?」



「お、俺が着いたのはお前たちの来る30分くらい前だよ!

チャイムを押しても呼びかけても誰も出てこなかったし、ドアノブを回してみたら開くしよ

外でぼーっと待ってても仕方ないから入ったんだよ。

それに最初から中には誰もいなかったし、一服してたらすぐにお前達がやってきたんだろ?」

タツヤが慌てた様子で説明する、自分に疑いの目を向けるのは勘弁してくれと言いたげだった。



「そう、まあいいわ。とりあえずカメラが本当に存在するのか調べてみましょ」

リビング、キッチン、廊下、階段、トイレや洗面所にいたるまで、確かにカメラらしきドーム型の物体が天井に埋め込まれている。

それが本当にカメラでちゃんと作動して誰かが監視しているのかは分からないが・・・

そして階段を上がった2階の部屋の入り口だけはカギかかっていて中に入ることは出来なかった。

リビングに戻ってきた時、みんな暗く沈んで疲れ切った表情をしていた。

本当なら今頃先生やみんなと楽しくパーティをしていたはずなのに、いったい何故こんな事になってしまったのか。




「ったくふざけやがって、誰がこんな事してるんだよ!」

苛立ったタツヤがロッキングチェアーを蹴り飛ばした!

「やめなよタツヤ君、そういう事をすると・・・」

メグミはそれ以上言葉を続けるのをためらった。


「態度が悪いと罰があるんだっけ?」

リョウコが立ち上がって天井のカメラに向かって怒り始めた。

「もううんざりだわ、いい加減にしなさいよ!

あんたは誰なの?何のためにこんな事をするの?

先生をどこにやったのよ!出てきて答えなさい!この卑怯者!!」


そうだ、リョウコは人一倍正義感が強いんだった。

そして誰よりも先生を尊敬し、ずっと連絡を取り続けていたんだ。

だからこうやって怒るのも無理はない。




その時

壁に掛けてある時計の針が3時を指し示し、ボーンボーンと音が鳴り響いた。

と、同時に全員の携帯が一斉に鳴る!

メールの着信音だ!!








title:一時間目の授業を開始します


さあ、これから楽しい補習授業が始まるわよ

でもその前に、私の言う事を聞かない悪い生徒がいるみたいね

さっき先生が何て言ったかちゃんと覚えてる?

死をもって罰を受けてもらうって言ったわよね

先生は嘘をつかないからね

悪い生徒にはお仕置きです


残りの生徒のみんなはこの問題を解くのよ

制限時間は1時間だからね



問題:この中に罪を犯した悪い生徒がいます。見つけなさい。


---------------------------------------------------------










二通目のメールが届いてしまった。

もういたずらでは済まされない緊迫した空気が室内を支配している。

罰を受けるのは誰だ?

タツヤとリョウコに視線が集まる


「なによ?あたし達のどっちかが死ぬってこと?

そんなことあるはず無いでしょ!バカバカしい

だいたいどうやって殺すっていうのよ、出来るもんならやってご覧なさいよ!」






その時

ボンッと何かが弾けるような音がした。


リョウコの

腹から

血が吹き出す!


ゲフッ ガハッ

口からも大量の吐血!


そしてそのままうつ伏せに崩れるように倒れて

動かなくなった・・・




いやあぁぁぁっ!!

リョウコーーー!!


みんなリョウコの周りに駆け寄るが、リョウコの体を中心に血の池がどんどん広がっていった。

もうどうしようない事は誰の目にも明らかだった・・・



「うそだろ・・・リョウコ・・・」

タツヤは震える手でリョウコに触れようとしたが、血の池に阻まれそれ以上近づく事が出来なかった。

「リョウコちゃんが、リョウコちゃんがぁ・・・」

メグミは目の前で起きた事が信じられずただ泣き叫ぶだけだった。

「そんな・・・」

そうつぶやくユキエの顔は真っ青で、その場に座り込んでしまった。



リョウコの体はピクリとも動かない。

一体何が起きたのか?

少し前まで誰かのタチの悪いいたずらだと思っていた。

もしかしたら先生も一緒になって僕たちを騙そうとしているのかとも思った。

だが、今目の前で起きた目を覆いたくなるような惨劇に誰もが言葉を失っていた。



重苦しい空気が室内に流れる。

みんな放心状態で、目の前で起きた出来事を受け止めきれないのだ。

今僕たちに分かる事は、何者かにカメラで監視されていて

全員の命が危険にさらされている。

ここから逃げ出すことも、助けを呼ぶことも出来ない。

この悪夢のような授業を受けなければならないのだ。

僕はロッキングチェアーの上に置いてあった毛布をリョウコにかけてやった。そのまま放置するにはあまりに忍びなく、かと言ってどこかへ動かしていいものかも分からなかったからだ。






ユキエが携帯電話を厳しい表情で見つめている。

「制限時間は1時間だったわね」

えっ?

「さっきのメール。

1時間以内に罪を犯した者を見つけなさいって」


「なんだよそれ、そんな物の為にリョウコは殺されたっていうのか?そもそも犯人はどうやってリョウコを殺したんだよ!」タツヤが混乱するのも無理はない。

今この状況で冷静に振る舞えるものなどいるはずがない。


「最初のメールの内容を思い出してみて。

カレーの事を書いてあったわよね。何が入ってるかも知らずにって・・・」


「じゃあカレーに毒物が入ってたっていうのか?

だとしてもどうしてリョウコだけがああなるんだよ?

俺たち全員たべたじゃないか!」


「そうね、そこが分からないわ。

カレーに何かが仕込まれていたとして、任意にターゲットを選んで自由に破裂させる事が出来るなんて・・・

あるいはあのセリフ自体がフェイクで、全く別の仕掛けがあるのかもしれない。

どちらにしても、私たちの命は今犯人に握られているということよ。」




やるしかないのか?

このふざけた補習授業とやらを

やらなければ、全員殺されるのか?

犯人の目的は?

なぜターゲットが僕たちなのか?

先生はどうなってしまったのか?

全てが謎のまま悪夢の授業は開始された。







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