その11
一度部屋に戻って元の恰好に直したロジーナは、シュールのコートを持って食堂に向かう。と、階段を降りたところで、応接間に目がいった。そこには大皿に綺麗にサンドウィッチが並べられており、ぱっと見ただけで五~六種類はある。どれも彩り豊かで、カフェテリアで販売できそうなほどおいしそうだった。
「うわぁ・・・!!」
感動したロジーナは、思わず立ち止まって声を漏らす。ここまで手の込んだサンドウィッチを食べたことは無く、一番近くで見たものでもショーウィンドウ越しだった。
目をキラキラと輝かせて、涎を垂らす勢いできらびやかな朝食を見つめていると、後ろから笑い声が聞こえてきた。
「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったわ」
「これっ!アンディさんが全部作ったんですか?あの時間で?」
「あり合わせの物を挟んだだけよ。ここ全然食材ないんだもの」
アンディがじろっと、彼の後ろにいるビルを見た。睨まれたビルは、流石にハハハ・・・と笑いながら頬を掻く。
「なんだ、そこで食うのか」
声がして三人が振り返ると、シュールが階段を下りてきた。クールな物言いだが、青色の半纏を着こんでいるところがおかしい。ここまで似合わないやつも珍しいと、ビルとアンディは噴きだすのを全力で我慢していた。ロジーナは半纏自体知らないので、変わった服を着ているなと思う程度で済んだが。
遅れてイルが階段の上から姿を現した。身を乗り出して、応接スペースを覗き込む。
「やった!アンディのサンドウィッチじゃん!」
「朝からうるさいぞ、黙れ」
「んだとこの・・・って、またその格好かよ、クッソ似合わねぇ・・・!!」
げらげらと笑いだしたイルを睨みつけると、シュールはその場で脚を止めた。
「遅く起きてきたわりにずいぶんと偉そうだな」
ロジーナの起こす順番が影響しただけなので、完全に五十歩百歩である。けれどもイルはそれを知らないので、自分だけが起こされたと思ったようだ。解りやすく苛立った顔をすると、階段の手すりに乗っかり、そこから飛び降りた。降りた先は丁度応接スペースであり、時間の短縮は確かにできる。
イルはそこから階段にいるシュールを指差して、フンとドヤ顔で嗤った。
「ハッ!早く着いた方が勝ちなんだよっ!」
「・・・・・・」
シュールの顔に、「馬鹿の相手はしてられない」と思いっきり書かれていた。そのままゆっくりと階段を下りてきて、イルの相手もせずに着席する。そのまま彼がサンドウィッチを食べ始めたので、イルがまた噛みつこうと大きく口を開けたと同時に、アンディがイルの頭を思い切り殴った。
「いぃッッッッてぇ!!!」
「階段使えって昔っから言ってるでしょ!忘れたとは言わせないわよ!」
「ご、ごめんごめんごめんなさいって!」
アンディは相当怖いのだろう。イルは真っ青になって、近くにいたロジーナの後ろに隠れた。しかし、イルの方が図体がでかいので、全く隠れきれていない。何故かアンディに睨まれる形になってしまったロジーナも、その威圧感に負けて泣きそうになる。
「ほら、ともかく食事にしましょう。早くしないと、アンディの気が変わってしまいますよ」
「そうよ。こんな可愛い女の子がいるなら、一緒に遊びに行きたいもの」
「うぇッ?!ま・・・、すぐ食うから!」
イルは近くの席にどかっと座ると、サンドウィッチを頬張りだす。
鋭い視線から逃れられて一息ついていたロジーナだったが、サンドウィッチが次々と無くなっていくのに気付き、慌てて席に着いて食事を始めた。