その10
が、肝心のベッドが見つからない。雪に完全に埋まってしまっているようで、タンスやらの背の高い家具のみが顔を出している。
「イルさーん!どこですかー?」
名前を呼びながら進んでいく。けれども全く返信がない。もはやこの寒さの中で凍死したのではないかと不安に駆られたが、さすがにそこまで馬鹿ではないだろう。雪に思い切り脚を取られた。そのまま前に倒れこむ。
「きゃっ」
「ぐえっ」
どうやらもともとベッドは使わない主義のようだ。床に寝転がっていたイルの上にダイブしてしまった。彼女の頭が勢いよくイルの肺の上にぶつかったため、彼はゲホゲホと咳こんだ。最悪の目覚めだ。
「しゅ、しゅいまひぇんっ」
雪に突っ込んだため、顔が冷えて呂律がうまく回らない。目も大して開かないので、シパシパと開閉したが、視力は回復しなかった。
イルは起きるのは遅いが、寝起きは良いらしい。上体を起こすと、ロジーナが転んだ時に被った雪をパンパンと払い落してくれた。自分の髪についた雪もぱさぱさと落とす。
「あー・・・びっくりした!どうしたんだよ新人?」
「あの、あしゃごはん・・・」
「は?朝ご飯?」
ぽかんとした顔をされた。またシュールのように拒絶されてはいけないと思い、慌ててアンディの名前を出す。
「アンディしゃ・・・アンディさんが、作ってくれているので」
するとイルの顔がすぐ嬉しそうな顔になった。やっと視力があったと思ったところで、ロジーナは思わず何とも言えない声を上げた。
「~~~~~~~~~ッ!!」
その大きな声に、イルはたまらず耳をふさぐ。
「なんだよどうしたんだよ!」
「服!!服着て下さい!!」
この雪の中、イルはまさかの裸だった。流石に下は履いているのだろうが、雪で見えない限り、なかなか恐ろしいところがある。背中を向けたロジーナに、イルは不思議そうな様子で返した。
「別にいいじゃねぇか」
「良くないですよ!」
ロジーナが必死に訴えるも全く気にも留めず、大欠伸付きで頭をぼりぼりと掻いた。
「んじゃ消すか」
「へ?」
すると、一瞬にして周りに広がっていた雪が消えた。消えたからと言って寒さは無くならなければ、現れた床も白の塩化ビニル製でありあまり変わった印象は無い。ただ、ロジーナが余計後ろを向くのが怖くなっただけである。
ともかくもうこれ以上いる必要はない。そのため、彼女はサッと立ち上がると彼の方を見ずに「と、とにかく伝えたんで!」と言って慌てて部屋を後にした。