その9
気温に対して暑過ぎる格好で、ロジーナは廊下を歩いていく。
「イルさんの部屋は・・・二号室・・・だっけ?」
一号室二号室は、彼女の部屋のある四号室があるのとは違う方向にあった。
蒼春院の建物自体は大きく、他の四院の魔道士の宿泊施設も兼ね備えているため、彼女達の部屋のある二階には当然四つ以上の部屋がある。けれども蒼藍の部屋と言うのは、中央の階段を挟んで左右で二人ずつの部屋になるよう振り分けられていた。意図は解らないが、まあ何らかの意味はあるのだろう。
少し汗をかきながら、イルの部屋の前についた。
「もぉー・・・何でこんな格好しなきゃいけないのよぅ」
文句を言いながら扉を開ける。と、ぶわっと冷たい空気が彼女に襲いかかってきた。汗をかいていたせいもあり、一気に体が冷える。
「さぁむっ!!!!」
ロジーナは堪らず身を縮ませた。借りたコートのジッパーを一番上まで閉め、その上から持っていたマフラーを巻いた。長かったために少しまくっていた袖も下ろして、手をその中に引っ込める。
どうやら部屋の造りはシュールの部屋と同じようで、入ってすぐは廊下が伸びていた。それなのに、扉付近にいるロジーナの呼気が白く視認できる。
「ここの人たち可笑し過ぎるわよぅ・・・!」
ビルは一目で解る変人だが、残りの二人もやっぱりかなりの変わり者だ。
「うう・・・アンディさんのところもこうなのかなぁ・・・」
今まで見た限り、アンディは女言葉を使うということ以外特に変な部分は見当たらない。もし他の人達もそうであるならば、出来ればそっちの方が良かったとロジーナは本気で思った。
とはいえ、ここから先は彼女の知らない話だが、新人の蒼藍は少なくとも一年は蒼春院にいなければならないことになっている。これは上からの指示であり、蒼藍間でどうにかできるものではなかった。そのため今ロジーナがもし白秋院在籍蒼藍になりたいと院長に申し出て許可が下りたとしても、最高機関である黄央院からの許可がないため、移動することはできないのだ。
閑話休題。廊下の突き当たりを曲がると、その先には・・・
「室内なのに・・・なんで雪積もってるの・・・?」
室内が一面の銀世界だった。屋根があるので、雪が入るわけがない。つまり、彼の魔法で降らせたのだろう。あの仕事の後に更に魔法を使うなんて・・・と、彼女は感心する。潜在的に魔力の高い有翼人種にとっては朝飯前なのかもしれないが。