プロローグ
今回より、毎週火曜更新にさせていただきます
ビーズ状のカーテンの間を燦々と差してくる朝日で、ロジーナは目を覚ました。
上体を起こして、グッと大きく伸びをする。蒼春院で初めて迎えた朝として、最高の朝だ。寝巻からワンピースに着替えて、室内を歩きまわるためのサンダルを履く。もう一度伸びをしてから、姿見の前に立った。髪の毛のところどころがうねっていて、それを櫛と手で整えていく。彼女の腰まで届く長い髪は、それだけで時間がかかる。
(そういえば、今は何時かしら・・・)
そう思って、部屋に備え付けてあった柱時計に目を向ける。時刻は五時半。いつも彼女が起きる時間に比べて一時間以上早い。
だからといってもう二度寝をする感じではなく、部屋でも特にすることは無かった。ベッドに再び腰を掛けたロジーナだが、すぐに立ち上がり迷惑にならないような声で宣言する。
「よし、朝ご飯作ろう!」
彼女はカバンの中からエプロンを取り出すと、静かに、しかし勢いよく部屋を飛び出していった。
エプロンを付けながら、ロジーナは早足でキッチンを目指す。場所が解らないため、ついでに少し院内を冒険するつもりでいた。シンメトリーに出来ているのは外観と二階だけで、一階は造りしか左右対称ではないそうだ。お風呂の場所は昨日聞けたが、研修時代の資料を見たところだと、まだ資料倉庫だのラウンジだの色々あるという。風呂の先にも娯楽空間があったり、またその先にも色々あったので、まだまだ見たいところもたくさんあるのだ。
廊下を抜けたところで、一度足を止めた。話し声がする。何と言っているのかはまだ解らない距離だが、一人は彼女の上司、ビルセンドの声のようだった。ビルセンドはかなり変わった男だが、ロジーナのことをよく気遣ってくれる良い人でもある。
階段を降り切ったロジーナは声が聞こえてくる、階段上からは死角になる応接コーナーに振り返りざまに挨拶した。
「おはようございますっ!」
「ああ、おはようございます」
「朝からエプロン姿?」
応接スペースにいたもう一人が、爽やかな笑顔で彼女に話しかけてきた。
ビルの前に座っている人物は容姿端麗という言葉だけで表現することができる。もっと具体的にと言うならば、薄茶色の髪やアメジストのような瞳、色白の肌なんかも、すべて少女漫画から飛び出して来たような美丈夫だ。身長はすらりと高く、体格も細みだがやせ型ではない理想的なフォルムだ。それでいて中身に気さくさと爽やかさを兼ね備えているのだから、異性はおろか、同性にも嫌われにくいタイプだろうと思われた。
話しかけられたところで彼女は思い出す。そうだ。そう言えばこの人が居たんだった。