カードキング・山本太郎
テーブルに二人の男が向かい合っていた。二人を中心として、周囲にただならぬ緊張感が漂っている。
「今日でキングの称号は俺がいただくぜ」
片方の男が告げる。
キングと呼ばれた男は答えない。
と、二人の様子を見ていた小さな少年が解説を始める。
「凄腕のカードゲーマー、ジョー! ついにカードキング山本太郎との決戦が始まるでヤンスか」
太郎とジョー、二人のゲーマーは懐からデッキと呼ばれる、カードの束を取り出して机に置き、同時に宣言する。
「勝負!」
「勝負!」
「俺のターン、ドロー!」
カードキング山本太郎が、相手の機を制して素早く発言する。そして瞬きするほどのわずかな間に、山本太郎のデッキの束が、ごっそりと減っている。
「出た! 相手に発言の機会を与えずに先攻を取ってしまうスピード・ヴォイス!! さらに、デッキからカードを引く行為を極限まで早めることにより、相手に何枚引いたか分からなくさせるキング・ドローの合わせ技!!」
「待ちな、手札のカードの枚数を常に分かるように持ちながらプレイしてくれねえか」
ジョーが喋る。その姿に動揺した様子はみじんも見受けられない。
「これは、相手の一挙手一投足も見逃さないことからついたあだ名が <いかさま殺しのジョー> と呼ばれるだけの事はあるでヤンス! キングはこの相手に勝てるでヤンスか……」
「ターンエンドだ」
太郎が苦い顔をしながらつぶやく。それを受けてジョーがデッキからカードを1枚引く。
「こいつは良いカードを引いたぜ。俺は魔法カード <ドラゴンの宅配便> をプレイする!!」
どこからともなく玄関のチャイムの音が鳴り響き、机の上に段ボール箱の立体映像が出現する。
「あれは、手札にあるドラゴンのカードを一度に2枚まで出すことができるカード! 一気に勝負を決めにきたでヤンス!!」
「そして、俺が手札から出すのは <ゴールデン・ドラゴン> と <シルバー・ドラゴン> だ!!」
ダンボール箱の中から、金の竜と銀の竜が姿を現す。
「攻撃力3000の金の竜と、攻撃力2800の銀の竜!! キングのデッキにはあれを倒せるカードはあるでヤンスか!!」
「ゴールデン・ドラゴン? ちょっとカードを見せてみろ」
カードキング山本太郎が、ジョーに話しかける。カードを渡すジョー。
「攻撃力3000か、ゴミだな」
おもむろにカードを破り始めるキング。金の竜の立体映像が消えていく。
「決まった!! あれはキングの38ある必殺技の一つ、ハンド・デストロイヤー! 相手のカードを物理的に破いてしまう技で、どんな相手でも一撃必殺でヤンス!!」
「貴様! 何をする!!」
おもわずジョーが立ち上がる。だが、キングは不適な笑みを崩さない。
「知らなかったのか? キングとのゲームは、何でもありの文字通り命を賭けたアルティメット・デュエルである事を」
太郎のセリフを聞いたジョーは、何かを考え込んだ後、笑い始める。
「面白い、それでこそキングだ。倒しがいがあるってもんだ!」
「さあ、もう一枚のカードも貸してみろ」
キングが、<シルバー・ドラゴン> のカードに手を伸ばす。
「おっと、焦るなよ。見たければ貸してやるぜ」
ジョーがカードを手に取った後、キングに向けて投げつける。
放たれたカードは、キングの持っていた手札にぶつかり、それらを全て両断した。
「あれはシューティング・スライサー! 自らのカードを武器とし、相手の手札を物理的に破壊する幻の技。まさか、使える奴がいたでヤンスか……」
「どうやら、俺と戦う資格はありそうだな」
きらり、キングの目が光る。
その後の展開は、まさにお互いの全存在をかけた決闘とよぶにふさわしいものになった。
キングが高速のドローにより、相手のデッキを全て奪い取ってしまうと、ジョーも対抗して相手のデッキが置いてある部分のテーブルの板を切り取り、テーブルの下から奪い取る事に成功。
ジョーがシューティング・スライサーを乱れ打つと、キングもキング・スターで対抗。一進一退の攻防が続いた。
「どうやら、最後に残ったカードはこの1枚だけのようだな」
ジョーの場に出ているのは、耳がでっかくなってしまった <シンジ・マジシャン> というカードだけだった。
「攻撃力1だが、貴様のカードはもはや何もない。貴様のライフが0になれば、俺がキングだ!」
ジョーが叫ぶ。キングは表情を変えない。
「俺を2000回攻撃すればな。ちゃんと全部宣言しろよ」
「キングのレクイエムにはふさわしいな。 <シンジ・マジシャン> でアタック! <シンジ・マジシャン> でアタック! <シンジ・マジシャン> でアタック! …………」
キングへのレクイエムが延々と続く中、キングがぼそりとつぶやく。
「なあ、このゲームの勝者は誰だと思う?」
「いまさら何を、このジョー様なのは間違いないだろう」
「だが、俺たちはあまりにも多くの物を失ったと思わないか?」
「今頃になって何を。アルティメット・デュエルを仕掛けてきたのは貴様だろう」
「俺たちの相棒ともいえる、カードを失ってまで得た勝利に何の価値があるのだろう。お互いに敗者になったんじゃないか?」
「確かに貴様は全てを失った。だが、俺はまだ1枚残している。勝者は俺だ!!」
「何か、一つ勘違いをしていないか? 散っていったカード達をよーく見てみろ」
ジョーが落ちているキングのカードを拾って眺めてみる。
「これは……、まさかカラーコピー!!」
「初めからカードを失っていたのは、お前だけだったのさ、ジョー」
「カードキング山本太郎の、大逆転勝利でヤンスー!!」
こうして決闘は終わった。主に一人の男に深い傷跡を残しながら、それでもカードキング山本太郎の戦いは続く。この世にカードがある限り。
了