シャンプーの香り
「……圭、この頃手紙を渡されたりしていないのか」
懐疑的な口ぶりで兄がつぶやいた。
「……ちゃんとお断りしてる」
ひいいっ
ムンクの叫びのような姿を黙殺して目の前のクッキーをつまんだ。
篠田君のお菓子はやっはり美味しい。
篠田君にもちゃんと言った。
「でも、まだ付き合ってないんでしょ?じゃあ問題ないね」
って。
キラキラしい笑顔は唯斗に拉致されて以来パワーアップしたような気がします。
吹っ切れたとかなんとか言ってた気がする。
後ろのほうで泣いてる気配がする。
お兄ちゃんは頼りにならないのか、お兄ちゃんより唯斗が良いのかとか……
ぶっちゃけ、唯斗が良いです。
お兄ちゃんも好きだけどね。
欲しいって思ってから、なんか図太くなった気がする。
唯斗と帰ったあの日からだいたい一か月。
目下、アピール中です。
……嘘、お話すらまともにできません。
ああああぁ、だって、取り巻きのお姉さんが怖いんだもん……
部屋のカーテンをそっと開ける。
手が届きそうな距離にある唯斗の部屋に、明かりがついてる。
千沙ちゃんとは反対側のお隣が唯斗の家。
ずーっと隣にいたのに、カーテンを開けて唯斗の部屋を見てるのって初めてかも。
そーっと窓を開けてみる。
頬杖ついて
「唯斗」
呼んでみる。
簡単に開くわけないってわかってるけど
聞こえてないのもわかってるけど
ちょっとでも話したかったな。
「ゆーいと」
ちょっとおっきい声にしてみる。
カーテンが揺れた。
少しあいたカーテンの隙間に唯斗の黒いつり気味の目が見えた。
すっごく呆れたような顔をされたって思ったら、あっちの窓が開いて唯斗が顔を出した。
まさかホントに出てくると思わなくて、口が開いてしまった。
「なんだ、どうかしたか?」
「あ、や、…この頃話してないなーって…思って」
だんだん語尾が小さくなっていく。
だって唯斗の顔が怖い。
「だからって夜中に……」
唯斗はなんだか困った顔してる。
迷惑か……
「ご、ごめんね」
「早く髪乾かして寝ろ。風邪ひくぞ」
ほら行けって、手を振られて、部屋に引っ込んだ。
「お、おやすみ」
「おう」
ゆっくりとカーテンを閉める。
なんだか怒らせてしまったような、心配かけてしまったような…
自己嫌悪でちょっとへこんだ。
唯斗の湯上り姿はすごくかっこよかったとだけインプットしました。