もう帰らなきゃ
珍しく帰りが一緒になった。
私の部活も、唯斗の部活も生徒会もなくて、同時に席を立って目があった。
「さっきはありがとね」
「おう」
会話が続かない。
こんなにも近くにいるのに、遠く感じた。
諦めたほうが得策で、望みなんてないってわかってても、優しくされれば嬉しくなって、夢を見そうになる。
私なんかより唯斗にふさわしい人がきっといるはず。
幼馴染の目から見ても、カッコイイし、優しいし。
だから唯斗はモテる。
若干口が悪いとこあるけど!
「告白なんてされたの初めてだった。……なんか、申し訳ない気持ち。私なんかを好きって言ってくれたのに」
隣を見上げると唯斗が困ったように笑ってた。
「そりゃ、初めてだろ。光哉兄と俺が今まで叩き潰してきたんだから」
「え」
た、叩き潰して?!
ちょっと待ってください。
もしかして私ってちょっとはモテるんですか。
叩き潰したってどういうことですか。
色々言いたいことが頭の中にぐるぐる回って、でも口が回らない。
「まず、お前のモテ期は小学校高学年から始まった」
はぁ……
「お前、小学校の時、いじめられただろ」
そう、いつも唯斗が助けてくれた。
よく泣かされました。
あの毛虫攻撃はいまだにトラウマ。
「中学校の時は一時期ファンクラブができてた」
「ええ!?」
そんなの知りません。
「ほら、なんか登下校時に一列に並んで待ってた軍団があっただろ」
あ、あれは千沙ちゃん待ちだと思ってました。
「まぁ、それを壊滅させたのも俺と光哉兄なんだけど」
か、壊滅?
そういえばいやにぼろぼろになった人たちに泣かれながら見送られたことがあったな……
「そんで今は、お前が一人になるのをまって、色々渡されるだろう」
……手紙やお菓子のこと……か?
「ち、千沙ちゃんあてのはよくもらうけど」
唯斗に大きなため息をつかれ、大きな手で頭をぐしゃぐしゃにされた。
「……あれは明らかにお前にだろ。第一千沙姉には光哉兄がいる。よほどの命知らずしか関わらねえよ」
悪代官の兄の顔がよぎる。
でも千沙ちゃんも兄も何も教えてくれなかった。
「ど、どうしよう」
どんな顔して明日から学校に行けというの。
注目されないようにひたすら地味に暮らしてきたはずなのに……
「普通にしてろ。ただ、お前は知っておいたほうが良いと思ったんだ。俺が一緒にいてやれる時間も少ないし、少しは危機感を持て。知らない人について行くな。知らない人に物を貰うな。それでも、一人で対処できないって時は俺に言ってからにして」
じゃないと心臓が持たねえよ。
小さくつぶやかれた言葉に目を見張る。
心配してくれるのは、幼馴染だから?
聞きたい
怖い
でも夕焼けに染まった唯斗の顔が、それ以上に赤いように見えて
心配してくれたことが嬉しくて
熱くなる頬に両手を押し付けた
諦めようって思ってたのに
頼っていいとか、言われたら
ひどく安心する背中に気づいちゃったら
この優しい人が……欲しく…なりました