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最悪の目覚め

室内を照らす明るい朝日


お気に入りのモスグリーンのカーテン越しに、スズメの声がする。


おそるおそる手を伸ばした先の目覚まし時計は、無情にも7時を指している。


もう起きなければいけない時間だ。


「……うそでしょ……」


全く眠れなかった。


自分の身体が思うように動かない。


痺れたように身体が動くことを拒否しているようだ。


「……うあああ~……」


無駄だとわかっていても枕に顔を押し付けて、はるか遠くに行ってしまったらしい眠気を探す。


階下から母が起きなさいって叫んでる。


ほんとにもうギリギリだ。


諦めて重い頭を振って起き上がった。




「おはよう、お母さん」

「はい、おはよう。なにその顔」

顔を見た母が思いっきり顔を顰めた。

「……ひどい?」

「ひどい。顔洗ってきなさい。少しはましになってきて」

言葉は厳しいけど、ひどく心配そうに洗面所に向かう私を見ている。

大丈夫だと軽く手を振って、洗面所に入れば、父がいた。

「おはよう、お父さん」

「ん。おはよう」

父は軽く眉をひそめたが特に何も言ってこなかった。

鏡に映った自分の顔は、寝不足で充血した目と、腫れた瞼。

プラス、寝起きのぼさぼさ髪。

一応女の子のつもりでしたが、これは…ひどい。

「ありゃー……」

冷水にして顔を洗うと、幾分さっぱりした。

「圭ちゃん、これ、目に当てなさい。学校には車で送って行ってあげるから」

母が洗面所に温かいタオルを持ってきた。

目に押し当てると、じんわりと温かさが伝わってきて、

「……今なら、寝れそう」

「なんだ、寝不足か?」

父の幾分ほっとしたような響きの声に苦笑する。

寝不足……確かに寝不足だ。だって、一睡もしていない。



母の車で学校に向かう。

学校に近づくほど、グレーのブレザー、青と黒のチェックのパンツかスカートの制服が増えてくる。

自然と重いため息がもれて、運転席の母が横目で私を見ているのが分かった。

行きたくないわけじゃない。

行けば友達もいるし、部活も楽しいし、いじめがあるわけじゃない。

ただ、昨日の寝不足の原因が学校にあるのだ。

はっきりとわかってる。








容姿端麗、頭脳明晰、ついでにバスケで全国大会に行っちゃうような運動神経。

幼なじみは完璧人間です。

時期生徒会長は彼だってもっぱらの噂です。

でも現生徒会長である私の兄はちょっと渋い顔してる。

あいつが入学するまでは俺が一番だったって言ってたのを聞いたことがあります。

私の兄も、すごくカッコイイ。これは認める。ついでに頭もいい。学年トップ。

そんで、私……平凡な一般市民です。

完璧な兄と幼馴染を持ったせいで、私は平凡なのに有名だ。いや、平凡なことが有名だ。

だから私は日々隠れるように、あんまり目立たないように生きてきた。

そんな私に突如課せられた昨日の試練。


なんで放課後まっすぐ帰らないで図書室なんかに行ってしまったのか。

今思えば突っ込みどころ満載の思考回路。

思い出すだけでためいきが出る。



母の車を降りて校門をくぐる。

昨日のことは私とあいつしか知らない出来事のはず。

あいつが言いまわっていなけれが噂になんてなりっこないのに、少し周りの目が気になる。

「圭、おはよう」

教室までもう少しというところで、よく知っていて、できればちょっと近づきたくなかった声がした。

職員室に日誌を取りに行っていたようで、黒い表紙の日誌をぶらぶらさせて近づいてくる。

心臓が破裂しそうに脈打って、息が詰まった。

いままで彼を見てこんなに苦しくなることはなかった。

「お、おはよう唯斗」

彼、唯斗の細い腕が、偶然とはいえ私を助けてくれて、一瞬だけど……抱きしめられた。

昨日の図書室で、足台から滑り落ちた私の下敷きにしてしまったのだ。

「おまえ、昨日怪我なかったか?」

「……大丈夫」

ああ、唯斗と話すのってどうやるんだっけ。

昨日いっぱい考えて、考えすぎてわかんなくなった。

ただただ、間近で見たまつ毛の長さとか、薄い唇とか。

思い出すのはそんなことばっかりで、気づけば朝だった。

今まで何にも感じなかったのに、意識すれば止まらない。

今朝、改めて気づいてしまった。



私は、唯斗が好きだ。



「ってか、おまえ重いな。少しは痩せれば?」



……前言撤回


女の敵め!!!





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