『狸の琴と速記』
掲載日:2026/07/02
昔、ある村の裏山に、狸が住んでいて、よく人を化かしていました。この村の庄屋様には年ごろの娘がいて、毎日琴の練習をして、大層じょうずに奏でるのでした。
その日も、庄屋様の娘は、琴を奏でていましたが、庄屋様に呼ばれて、座敷のほうに行ってしまいました。残された琴、見ている狸。
そんなこんなで、狸は、庄屋様の娘に化けて、琴を奏でました。優雅に、そして情熱的に。一曲奏で終わりますと、背後から、拍手が聞こえました。万雷の拍手です。庄屋様も庄屋様の娘も下女も下男も、全員が立ち上がって拍手しています。
狸は、驚いて、逃げようとしましたが、どうも敵意がないようなので、振り返っておじぎをすると、拍手が手拍子に変わり、どうやら、もう一曲奏でることを期待しているようなので、琴の前に座り直すと、全員静かになりました。合計で七曲奏でたところで、もうこれ以上は、と辞退し、狸は山に帰っていきました。
別の日、庄屋様の娘が速記の練習をしていると、また狸があらわれて、自分で持ってきたプレスマンで、庄屋様の娘に勝るとも劣らない速記の実力を発揮したのでした。
教訓:狸は、化ける力を持っているというが、それは、まねる力でもある。




