願いの図書館
『よくたどり着いたね。ここに人が来るのは数百年ぶりかな』
『さぁ、一つだけ願いを叶えてあげよう。君は何を望んでここまで来たのかな?』
『その前に、ひとつ聞かせてくれ』
『構わないよ。何かな?』
『なんで、ここにたどり着いた人の願いを叶える、なんてことしてるんだ』
『それはもちろん、面白いからだよ。数多の困難を乗り越えてここまで来る人間が、どんな願いを持っているのか、とても興味があってね。それに、実際に願いが叶ったと言いふらしてもらえれば、さらに人がやってくるだろう?報酬もないのに、頑張る理由なんてないからね』
『…そうか』
『うん。じゃあ、君の願いを聞こうか』
『…殺してくれ』
『……ほう』
『君の願いは、それでいいかい?』
『ああ』
『君はそのためにここまで来たんだね。いいよ、叶えてあげよう』
『…感謝する』
『一応、聞くね。これが私の目的でもあるからさ。どうして、その願いを選んだのかな』
『…俺は疲れたんだ。さっさと死にたかった。だけど、そんな勇気、俺にはなかった。だから、誰かに殺してもらおうと考えたんだ』
『なるほどね。でもさ、何でも叶うんだよ?わざわざ、今死んじゃう理由はあるのかな?』
『……』
『例えばそうだな。悪感情を消す、とか願えば、君のその願いも消えて、これからも楽しく過ごせると思わないかい?』
『…これからの俺は、これからの俺だ。今の俺は、今の俺だ』
『なるほど』
『…もういいか?早くしてくれ』
『まぁまぁ、そんなに焦るなよ。ちゃんと殺してあげるから。ほら、ここ座って』
『…早くしろ』
『もー。言うこと聞かないとお願い聞いてあげないよ?』
『…わかった』
『さて、君のことを教えてもらおう』
『……』
『ちなみにね。今までたどり着いた人の願いはその本に載っているよ。見てごらん』
『時を戻す、記憶を持ったまま生まれ変わる、一生困らない財産、大切な人を蘇らせる』
『まだまだあるよ。被った願いもいくつかあったね』
『…そうか。一つ質問なんだが、一生の世界平和とここに書いてある』
『うん』
『…本当に叶えてやったのか?』
『もちろん叶えてあげたよ。でも、この世界とはまた場所だからね。君のスケールで測れることじゃないのかもだね』
『…そうか』
『さて。私と手を合わせて』
『……なるほど、こんな人生を送ってきたんだね』
『…見たのか』
『うん。君のことも記録しなきゃだから。…これは、辛いね』
『……』
『おいで』
『……』
『そんな顔するなよ。もうすぐ願いが叶うんだぜ?』
『…そうだな、好きにしてくれ』
『何してもいい?』
『…あぁ』
『じゃ、願い変えるね』
『は?』
『いってらっしゃ~い』
『……は?』
気がつくと、俺は地面に転がっていた。
冷たい石の感触。
背中に硬い衝撃。
肺の奥から、空気が無理やり吐き出される。
『がっ……』
目を開ける。
見慣れない空。
灰色の雲。
そして遠くに見える、崩れかけた塔。
『……ここ、どこだ』
さっきまで、あの場所にいたはずだ。
あの、ふざけた存在の前に。
『……』
手を見る。
震えている。
でも、生きている。
鼓動がある。
息もできる。
『……殺してくれるんじゃなかったのかよ』
その瞬間。
カサッ。
横で音がした。
見ると、一冊の本が落ちていた。
あの本だ。
願いが書かれていた、本。
『……なんでこれが』
表紙を開く。
ページが、勝手にめくれる。
ぱら
ぱら
ぱら
そして、止まった。
そこには新しい文字があった。
黒いインクで、まだ乾いていない文字。
「疲れたから死にたい」
その下に、小さく書き足されている。
「却下」
『……は?』
さらに、その下。
新しい行。
「代わりの願い」
俺は、嫌な予感を感じながら続きを読んだ。
「本当の願いを見つけたら、またおいで」
『………』
しばらく、言葉が出なかった。
風が吹く。
『ざっけんなよ』
自分でも聞こえないくらいの小さな声だった。
『…帰るか』
…どこに?
そのときまた、本のページがめくられた。
「見守ってるよ。もう大丈夫」
『…何が大丈夫なんだよ』
俺は。
まだ、生きなきゃいけないらしい。
どこかもわからない場所で。
『理不尽に愛してくれる人を、見つけられるといいね』
息抜き~。
今さ、いつもより長めの小説書いてるんだけどさ。
難しすぎてやばば。




