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第5話 距離
真美は計画を進めていきます。
一番効く言葉を知っているから。
真美は急がなかった。
焦ると男は逃げる。
それを知っていた。
美容師という仕事は、人を見る仕事だ。
髪を触れば分かる。
声を聞けば分かる。
その人が今、何を考えているか。
太郎は真面目な男だ。
だから――
いきなり誘惑すると警戒する。
まずは。
安心できる先輩になる。
「支店長って大変でしょ」
「まあまあですね」
「責任あるもんね」
「慣れないです」
真美は笑う。
「キャプテンだったのに?」
太郎は少し照れた。
「それとは違いますよ」
こうして。
少しずつ距離を縮めていく。
カットの時間。
シャンプーの時間。
ドライヤーの時間。
そのすべてが会話の時間になる。
やがて。
太郎は自然に話すようになった。
「最近忙しくて」
「彼女と会えてないんですよ」
真美は心の中で笑った。
(きた)
でも顔には出さない。
「葬儀社だもんね」
「人が亡くなるのって急だし」
「そうなんです」
太郎はため息をつく。
真美は優しく言った。
「大変だね」
その一言が。
男には効く。




