第二話 「名前」
【第二話・『名前』】
「殺してください!!」
「…え?」
俺の名前は三浦 歩。普通の中学一年生…だった男だ。
俺は車と衝突して死に、雲の上で創造神ベテルギウスと出会った。
想いを伝えているうちに、ベテルギウスが「お前を転生させる」とか言ってきて、異世界に転生させられた。…まあ、こんなところかな。
で…今この状況よ。
まじでどういうこと?いきなり飛び出してきて「殺してください」って…
「えっと…どうして殺してほしいんですか?」
「うぅ…いいから早く!殺して!」
少女は泣きながら頼んできた。
「え、でも…」
「早く!!」
「い、一回落ち着きましょう!どうして殺してほしいのか説明してください…!」
俺がそう言うと、少女は段々と落ち着きを取り戻してきた。
「はぁ…はぁ……あ、ありがとうございます…。」
「いやいや、こちらこそ落ち着きを取り戻してくれてありがとう。」
「それで、どうしてか説明してくれるかな?」
「はい。実は私、ピザンツ帝国の騎士団に追われていたんです。」
「ぴ、ピザンツ帝国…?」
あ、そうか。ここが異世界なことを忘れていた。どおりで聞いたことない国が出てきたわけだ。
「そうなんです。…あ、もしかして、ピザンツ帝国をご存じないですか?」
「う、うん。ごめんね。その、ピザンツ帝国?についても説明してもらえるかな。」
「は、はい。わかりました。説明しますね。」
「ピザンツ帝国は、この大陸で最も強大な軍事力を誇っている超大国です。帝国内には、帝国騎士団と呼ばれる軍隊が存在するのですが、今現在は、先週発足した反乱軍との戦闘により弱体化しています。」
「なるほど…なんとなく分かったよ。でも、どうして騎士団は君を狙っているの?」
「それなんですが…話すと長くなりますが、いいですか?」
少女の視線が下に降りる。
「全然いいよ。遠慮なく話してくれ。」
「ありがとうございます。」
「私は先月、ピザンツ帝国を観光していました。ベンチに座っている時に、騎士団の行進がメインストリートで行われているのを見たんです。私が近くに寄って見ていたら、突然子供が飛び出したんです。それで私は『危ない!』と言って一緒に飛び出してしまったんです。探して、ついに子供を見つけた時に、騎士団の一人が子供を蹴ったんです。それもわざとらしく。」
少女の声が段々と涙声になっていく。
「それはひどいな。」
ひどすぎる。間違えて蹴ったのなら百歩譲って許されるが、わざと蹴ったのならひどいな。
俺はこの話を聞いて、一つわかることがある。
蹴った奴は常識人ではない。
「私は怒って、『子供になんてことするんですか!』って叫んだんですよ。そしたら、騎士団長がこっちに来て、剣を抜き始めたんです。私は命の危険を感じて、すぐさま逃げました。逃げて逃げて…茂みに隠れたんです。そしたらあなたがいた。で、今に至るわけです。」
「なるほどな…。正義を貫いた結果、組織の怒りを買ったわけか…。」
「簡単に言うとそうですね。」
「でも…逃げてきてなんで殺してくださいなんて言うの?」
「そ、それは…」
「私、逃げてきたのは良かったんですけど、正直逃げ切れるとはとても思っていませんでした。最強と呼ばれる騎士団から逃げ切るなんて、とても不可能だからです。捕まれば、帝国内に連行され、処刑されてしまうんです。」
「ま、まじか…」
「しかも、ピザンツ帝国の処刑方法は、世界一残酷だと言われています。一週間かけて行い、苦しみもがき続けた結果、死に至るという…。」
「だから、あんな方法で死ぬんだったら、他の人に手早く殺してもらった方がずっとマシだと考えたんです。」
「…よく分かったよ。伝えてくれてありがとうね。」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとうございます!」
少女は嬉しそうに答えた。
「ところで…君の名前はなんというの?」
「カリナ。カリナ・ムイムです。カリナと呼んでください。」
「カリナか。いい名前だね。俺は三浦 歩。」
「み、みゅうら?」
「三浦だよ。」
「みゅーら…?」
「…み、三浦!」
「みゅら…!」
「だから、み・う・ら!」
「分かりました!あなたの名前はミュラさんと言うんですね!」
「ちがーう!!だから!み!う!ら!!」
「ミュラさん、これからよろしくお願いします!」
「はぁ…もういいや。」
ミュラか…。意外といいかもな。
よし、俺はこれから『ミュラ』と名乗る事にしよう!
「名字はなんというんですか?」
「名字?」
…あ、そういうことか。日本では『名字・名前』が普通だけど、ここは異世界だ。『名前・名字』なのかもしれないな。
俺はさっきカリナに名字を教えちゃったからな。カリナは『ミュラ』が名前だと思っているのだろう。
「えっとね…歩だよ。」
「あ…ゆむ?」
「そう!あゆむ!」
「いや違うか…あ!アイムですね!」
「へ?」
「あなたの名前は『ミュラ・アイム』と言うんですね!」
「だからちがーう!!!」
しかし、ミュラ・アイムか…。
なんかしっくりくるな。
「と、とりあえず、これからどうする?」
「そうですね…、この近くにエレンという自由都市があるので、そこに行ってみましょうか。」
「そうだね。自由都市なら帝国の支配も及んでいないだろうし。」
エレンか。なんか聞いたことあるような…あんまり深堀りしない方がいいな…。
俺とカリナは、自由都市エレンに向けて歩き出した。
しばらくたち、あたりはもう夕方になっている。
まだ街の影すら見えていない。
「カリナ、あとどんくらいで着く?」
「えっと、あと八百マインですね。」
「ま、まいん?」
この世界における長さの単位じゃ。
うおっ!?び、びっくりした〜…。ベテルギウスさんか。
てか脳内に直接話しかけてないですか?
そうじゃ。流石に私が下界に降りたらまずいからな。
なんでですか?
なんでって、お前そんなこともわからぬのか。私が降りたら、草木や建造物はへし折れ、巨大なクレーターができてしまうからな。
へ、へぇー…。
俺はとにかく、ベテルギウスがとんでもなく強い存在だということを改めて痛感した。
それで、マインってなんですか?
お前がいた地球で言うと、一キロで約十六マインじゃ。
てことは…?
あと約五十キロじゃな。
……は?え?五十キロ?いやいやいや長すぎだろ!どんだけ歩けばいいんだよ全く…。
「ミュラさん?ずっと考え込んでどうしたんですか?」
「あ、ああ!な、なんでもないよ!た、ただ、八百マインが長いな〜って思ってただけ!」
「そ、そうですよね…。すいません。」
「いやいや!全然いいんだよ!」
「そ、それじゃあ、今日の移動は一旦ここまでにしようか。」
「そうですね。近くに宿は…ないな。今日は野宿をするしかないですね。」
「の、野宿!?」
「はい。野宿です。」
野宿か…。俺野宿したことないんだよな…。
「ちなみにカリナは野宿とかしたことあるの?」
「もっちろん!」
お、頼りになるな。
「ないですよ!」
へ?
嘘だろぉぉぉ!?じゃあなんでもちろんとか言うんだよ!
…まあしょうがない。勘でやるしかないな。
こうして俺とカリナは、全て『勘』で料理をやってみた。
結果、なんか紫色をしているスープが出来上がった。
これでも頑張ったんだよ?
「おぉ、めっちゃまずそう。」
「そういう事言わない方がいいと思いますよ…。」
「カリナ先食べていいよ。」
「いやいや、ミュラさんが先に食べてください。」
「いーや、ここはやっぱりファーストレディでしょ?」
「あー!ファーストレディ使うのずるいですよ!」
「ずるくないもーん!」
「いーやずるいです!」
お前は異世界に行っても幼稚だな。
うぇ!?あ、なんだまたベテルギウスさんか。びっくりした〜。
のんきな事を言うな。ここはお前が先に食べろ。
え!?やですよ!
先に食べてくれたらつよーいスキルをあげようかなって思ってたんだけどな〜。
え、まじで?
「カリナ、ここは俺が先に食べるよ。」
「え、どうしたんですか急に。ま、まあ、お願いします。」
俺はスープをスプーンですくい、口元に近づけた。
見た目は最悪。
めちゃくちゃ変な匂いがする。
「よ、よし…いくぞ…。」
これもスキル獲得のためだ…。
「頑張ってください!」
ゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る口に入れた。
口に入った瞬間、とてつもない苦みと臭みが俺の口を襲った。
まじで口の中が地獄みたいになっている。
遠回しに言っているが、要するにまずいという意味だ。
「ま…ま…まじぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「うおっ!?ちょっとミュラさん!?大丈夫ですか!?」
「まずいまずいまずいぃぃぃぃぃ!!」
「そんなにまずかったですか!?」
「どうやったらこんなの作れるんだぁぁぁ!!」
「ふ、普通に作っただけなんですけど…。」
「いいから、水!水をくれぇ!!」
「は、はい!」
カリナから水をもらうと、俺はすごい勢いで飲み始めた。
「ぷはっ!い、生き返る…。」
「だ、大丈夫ですか…?」
「大丈夫なわけないだろ…。で、でも!これでスキル獲得だ!」
「スキルですか?」
あ、そうだった。俺とベテルギウスは俺の脳内で喋ってたからカリナは知らないんだ。
「あ、ああ、えっと…つけばいいな〜なんて…」
「つくわけないじゃないですか〜!」
「ま、まあな。流石にな…。」
ベテルギウスさん!本当にくれるんですよね!?
安心せい、頑張ったご褒美だ。ちゃんとやる。
ありがとうございます…!
ところで、何ていうスキルなんですか?
『辰星爆殺』じゃ。
おぉ…なんかすごそうですね。
内容は?
それは…使ってみればわかるぞ。
?まあいいや。
「と、とりあえず飲み終わったし、今日はもう寝よう。」
「そうですね。明日もまた移動しなきゃいけませんしね。」
「うん。それじゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
そうして俺達は眠りについた。
ちなみにしばらく全然眠れなかった。
次の日。
「ミュラさーん!起きてくださいよー!」
「…ん?ああ、ごめんごめん。寝すぎたよ。」
「まあまだ朝の十時ですし、大丈夫でしょう。」
「じゃあ、準備整えて出発しようか。」
「はーい!」
そんな会話をしながら、カリナは準備を着々と進めた。
「ところでさ、エレンってどういうところなの?」
「エレンは平和の聖地と言われていて、この世界で最も安全な都市なんですよ。市民幸福度も世界一と言われています。」
「へー、とにかく安全ってことか。」
「簡単に言えばそうですね。」
「…そろそろ準備できた?」
「でっきました!もう行けますよ!」
「おーけー。そんじゃ出発しますか。」
数時間後__
もう時刻はお昼を迎えていた。
「か、カリナ…そろそろ着くんじゃないか…?」
「もうすぐだと思うんですけど………あ!見えてきましたよ!」
「え、まじで!?」
カリナが指を指した方向を見てみると、そこには赤いレンガの建物が密集した場所があった。
どうやらここが、自由都市エレンのようだ。
「ここが、エレン…。」
「早速検問所に行きましょう!」
「お、おう。」
なんかあそこの検問所、揉めてないか…?
いかつい見た目をしている男と…ヒョロヒョロしてる細い男がなんか言い合ってるぞ…?
「ここは自由都市エレンだ!お前のような犯罪者が入れるような場所ではない!」
「だから!僕はなんにもやってませんって!」
…介入したほうがいいのかな?
「なあカリナ、あそこなんか揉めてないか?」
「あ、確かに…なんか言い合ってますね。」
「ど、どうする?」
「これは…介入する他ありませんね。」
「嘘でしょ!?割り込んじゃうの!?」
「だって、揉め事をそのままなんかにしたくないじゃないですか。」
「ま、まあそうだけどさ……。」
「じゃあ、さっさと解決させちゃおう。」
そう言うと、俺とカリナは検問所に割り込むことにした。
「あ、あの…少し落ち着きましょうよ…!」
俺が小さい声で言う。
「あ!?なんだてめぇ!」
いかつい男が叫ぶ。
「ひっ!」
俺はビビって後ずさってしまう。
「ちょっと、少し言葉遣いが荒いですよ!」
「か、カリナ!?」
「大体、なんでこんな揉めてるんですか?」
「そ、それは…。」
ヒョロ男が独り言のように言う。
「おっほん!ここは俺が話そう。」
お、いかつい男から説明してくれるのか。
「まず、俺は検問所の門番をしていたんだ。そしたら、このヒョロヒョロ男が来たんだ。俺はすぐに分かったぞ。こいつが、大陸で指名手配されている『グウス』だって事にな!しかも、こいつは門に入ろうとしてきたんだ。俺がとっ捕まえたら、文句を言ってきやがった。それで揉めたってわけだ。」
「違います!だから僕はグウスなんかじゃないですよ!ただの冒険者です!」
「うーん...そのグウスってやつは、どんな顔してるんだ?写真とかあったら、見せてくれ。」
「これが指名手配写真だ。」
いかつい男はそういうと、指名手配犯が写っている写真を見せてくれた。
そこに写っていたのは、痩せ気味の頬に、黄色いモヒカンの髪型をし、出っ歯になっている顔が写っていた。
この顔…確かにヒョロ男と似ていなくもないが、絶対違うと思う。
第一、髪型が違うだろ。
「おっさん、確かに顔は微妙に似てるけど、髪型が全く違うぞ。」
「え?……あ、た、確かに…。」
こいつもしかして髪型見てなかったのか?
それは流石にヤバいだろ!
「す、すいませんでしたぁぁ!!!」
いかつい男は、ヒョロ男に土下座をしだした。
「全然…髪型を間違える事なんてよくありますから…!」
髪型を見てなかったいかつい男もおかしいけど、これを許せるヒョロ男も結構おかしいと思うんだよなぁ〜…。まあ、解決したんならいっか。
「これで解決だな。カリナ。」
「そうですね。良かったです!」
カリナは微笑んだ。
「そんじゃ、おっさん。俺達を通してくれるかな?」
「は、はいぃ!」
いかつい男はそういうと、門を開いてくれた。
門の先には、人々で賑わっている商店街が見えていた。
「おぉ…、すげぇ賑わいぶりだな。」
「早速入りましょう!」
異世界に転生した俺。
新たな名を名乗った今、第二の人生が始まる!
【第二話・完】




