7:わかるかボケ。
「え? 水が出たんですか?」
八歳を迎えたある日。この頃になると鉱山のことはほとんど俺が任されるようになっていた。
もちろん、お金云々には一切触れていない。やっているのは作業管理に限ったこと。
「あぁ。たぶん地下水脈のが近いんだろうぜ。とりあえず第十二坑道の作業は止めてある」
「そうですか。地下水脈かぁ……今度調査してみて、壁を補強して掘り進められるかどうか見てみましょう。ダメだったら封鎖するしかありませんが」
「だな。下手すりゃ、壁がもろくなって崩落の恐れもあるしよ」
作業員の命には代えられない。無理してその坑道を掘り進める必要はないのだから。
それに、この三年間で金銀の採掘量は爆上がりしている。
掘削ドリルの錬金だけでなく、トロッコを坑道内に走らせたことで運搬作業がアップ。
更に扇風機も錬金した。
これは坑道内に空気を流し込むためのものだ。
その扇風機は、前世の知識とこの世界の知識を合わせて錬金したもの。
父上殿が魔石に光魔法を付与していたいたのと同じ原理で、魔石に風魔法を付与している。
魔石を叩けば風が発生するが、それを軽い木材で錬金した扇風機に取り付ければ、羽根を回し、その風が前方に吹く仕組みだ。
こんな単純なものだけど、親方は「すげぇ魔道具だ」と言った。
魔道具、良い響きだ。
「た、大変だ坊ちゃんっ」
「あぁ? どうしたんだボヤーズ」
血相を変えてやって来たのは、親方のお弟子さんのドワーフだ。
「坊ちゃん、すぐに屋敷へ戻った方がいい。あのクソ伯爵が来たってんだ」
「え、伯父上が? またお金の催促か……」
鉱山での利益が増えていることは知られていないハズ。なんせあの男、帳簿の付け方すら知らないというのだから驚きだ。
元々父上殿は伯爵家の次男で、爵位を継承せず、代わりに祖父から男爵の爵位とこの地を与えられている。鉱山が見つかったのは父上殿がこの地に領主として着任してからだ。
伯爵家を継いだ伯父上殿は、祖父が行っていた事業も引き継ぎ、そして見事にその全てを赤字に転換。
いやぁ、どうやったら黒字経営を全部赤字に出来るんだってね。
それだけ、経営者としての才能がない。
おかげで男爵家が潤っていることにも気づけていないのだが……まさかついに気づいたのか!?
急いで身綺麗にし、屋敷へと戻る。
そこには無駄に豪華な馬車が三台停まっていて、伯父上だけでなく、伯母上と従弟のランドファスも来ていることがわかった。
はぁ……面倒だな。ランドファスはすぐ弟のジークを虐める、ロクでもない悪ガキだ。ロバート卿が気づいてジークを乗馬にでも連れ出してくれているといいんだけど。
「ただいま戻りました。伯父上、伯母上、ご挨拶が遅れてしまい申し訳――「まったくだ! 客が来たというのに出迎えもしないとは、躾がなっておらん!」申し訳ありません」
呼んでもないのにやって来たのはどこのどいつだよ、まったく。
後ろでニヤニヤしているランドファスも憎たらしい。
辺りを見渡すと、弟ジークの姿は見えない。妹のティファニーもだ。あとロバート卿も。
よし、上手く連れ出してくれたようだな。
「ふんっ。ディルムット。お前は今度、侯爵家で開かれるお茶会に招待されているそうだな」
「え? あ、はい。ホーヘンベルク侯爵家で開かれ――「貴様が招待されているのに、伯爵家の嫡男であるランドが招待されておらぬとはおかしいと思わぬか?」」
知らんがな。どうせ侯爵家にお前んところの息子の悪行が、知れ渡っているからだろう。
金銀の取引で男爵家へやってくる商人からも、ランドの噂を耳にすることがある。
やれどこぞの令息を殴っただの、どこぞの令嬢の髪を引っ張っただの。相手は必ず、伯爵位より下の爵位ばかり。立場的に逆らえない家門ばかりを相手に、いびり倒しているんだ。
しかもそのお茶会、幼い令息令嬢ばかりが集まるのだ。まともな家門なら、いじめっ子とわかっている奴を招くはずがない。
「あ、あの、兄上……。何をおっしゃりたいのでしょうか?」
「何、だと? わからないのか我が弟よ」
わかるかボケ。
「我が伯爵家とお前の男爵家は、同じシュパンベルクの名だ。つまり、うちとお前のところで、宛名を書き間違えたに決まっている」
「え……あ、宛名を……」
いやいや、間違えるわけないだろう。ディルムット男爵家令息へって書かれていたんだぞ。俺宛なんだよ。
ちなみに弟ジークと妹ティファニーにも届いていて、こちらもちゃんとジーク男爵家令息、ティファニー男爵家令嬢と個別に招待状を頂いている。
「故に、ランドも行かせる」
「「え?」」
俺と父上殿が同時に反応する。
「サウル。お前のところの息子と娘はランドの同行者として連れて行ってやろう」
「お情けで連れて行ってやるんだぞっ。わかったかバカディル」
おいおい。大人たちの前で従兄に向かってバカとはなんだバカとは。躾の悪さを全方位にアピールしているだけだぞ。
だがここで叱りもしないのがクソな伯父上殿とその奥方らしいといえばらしい。
言いたいことだけ言うと、三人は踵を返して出ていった。
今日はそのことを言いに来ただけなのかと安心していたら、ランドファスの野郎が玄関に置いてあった銀の燭台を取っていきやがった!
「あいつ、またっ」
「はぁ……なんて手癖の悪い子なんだ……。これで何個目だろうね、家の物を盗んだのは」
「旦那様。先ほどの燭台で五十二個目でございます」
数えてたの、執事長? さすがというか、なんというか……。
「一応、帳簿につけておいてくれ」
「かしこまりました」
「さて、どうしたものかな……。ランドファスが茶会に参加するとなれば、必ずどこかの家門に迷惑をかけてしまうだろうし」
「困りましたわね、あなた……」
まったくだ。でもこのまま黙っているわけにもいかない。
「父上。侯爵家に知らせておきましょう。あの口ぶりだと伯父上は、もう茶会の日程もご存じでしょうし、今更止めたって強引にやって来るに決まっていますから」
「それならいっそ、事前に知らせておくべきだということか」
「はい。他の家門の令息令嬢も、いないと思って安心するより、いるとわかったうえで覚悟を決めていただく方がいいでしょうし。そのうえで」
そのうえで、ランドファスが迷惑をかけたのならこちらでフォローできる体制を立てておく。
今はそれしかない。




