66:お返事をください。
――とまぁ、毎日忙しく過ごしています。
そうだ。前回もらったお返事にあったもの。さっそく試してみました。
同封してあったレースを付けてみたのですが、どうでしょう?
家族はみんなかわいいと言ってくれるのですが、身内贔屓だと思うので、客観的な意見を聞かせていただきたいなと思って。
またぜひ、お返事をください。
ディルムット・シュパンベルク
「またぜひ、お返事をください……また、ぜひ……はぁ……」
私、メリンダは由緒ある公爵家に仕えるメイド、メリンダ。
月に二度、辺境領ゼナスから、エヴァンゼリンお嬢様宛に手紙が届くようになって数ヵ月。
今日はまた一段と、手紙を読むお嬢様の溜息が多い気がします。
「メリンダ!」
「は、はい、お嬢様」
「額縁を持ってきてちょうだい。これを飾るのっ」
え……手紙を額縁に入れて飾る?
お嬢様が嬉しそうに広げた手紙の最後には「またぜひ、お返事をください」と書いてある。
何通目かにして、初めて書かれた文章だ。
何度も繰り返し続く手紙のやり取りですが、直接返事を求められるのは、やっぱり嬉しいですよね。
でもお嬢様。額縁は止めましょう。
「そ、そうだわ。ディルムット様より贈られたものは何でしょう? 珍しく布で包まれておりますが」
「それはポーチよ。ほら、この前綺麗なレースのリボンを送ったでしょう? それを使ってくださったの」
なるほど。竹という木を使った、特産物がどうのと仰っていましたね。
布をほどいて中身を取り出すと、意外なほどかわいいポーチが出てきた。
「今回は素材に色もついていらっしゃいますね。華やかさが一気に増して、とてもかわいらしいです」
「ほんとだわぁ。ね、メリンダ。これならきっと、貴族の令嬢方にも人気が出るんじゃないかしら」
「そうですね。お兄様にお願いして、お知り合いの令嬢方に見ていただきましょう」
エヴァンゼリンお嬢様が直接、令嬢方にお勧めできればいいのだけれど。
お嬢様のことを何故か、陰で赤い悪魔だなんて呼ぶ令息令嬢方がいる。
いったい誰と勘違いなさっているのか。
うちのお嬢様は天使のようにお優しい方なのに!!!
「ど、どうしたの、メリンダ?」
「あ、なんでもないです。はい――あら? 贈り物、もう一つあるようですよ」
「あっ。その事も書かれていたわ。ランタンなんですって。メリンダ、光石をお願い」
「はい、お嬢様」
これがランタン?
緑色の筒に、たくさん穴が開いたものが……ランタン?
棚から明かり石を持ってきて、ランタンだという筒の中へと置いた。
石を叩けば、ぽぉっと光が灯る。
「お嬢様、これ……」
「へ、部屋が明るいと、よくわからないわね」
「そうですね。カーテン、閉めてきます。そうすれば見えやすいと思いますので」
「そうね! ありがとう、メリンダ」
お嬢様の笑顔のためなら、カーテンの一枚や二枚、百枚だって閉めますとも!
室内にある大きな二つの窓。そのカーテンを閉めると、さすがに部屋の中は薄ぐら……く……。
「わぁ……凄いわ。なんてステキなの」
「まぁ、本当に……なんて美しいのでしょう」
それはまるで、夜に浮かぶ、光の蝶。
筒に描かれた蝶が、光となって壁に浮かんでいた。
とても幻想的で、お嬢様でなくても見惚れてしまう美しい贈り物だった。
しかもこれ、明るすぎないのがまたいい。
明るすぎたら、この蝶が……あ!
「お嬢様、これは普通のランタンとしてではなく、別の使い方があると思うのです」
「別の? メリンダはどんな使い方ができると思うの?」
「はい。この筒を横に倒します。すると、蝶が天井に――あ、映りましたね」
「まぁ。とってもステキ」
でもこれが目的ではない。
横に倒したことで、明るさはさっきよりさらに薄くなった。
「お嬢様。この明るさでしたら、お休みになられるのではないですか?」
「え? 暗いからってこと?」
「はい! 普段はランタンの光を消して、蝋燭を点けてお休みになられるでしょう?」
「そうね。だって光石のランタンは明るすぎるんですもの」
だけど明かりなしでは、あまりにも暗くなりすぎて怖がってしまう。
それはエヴァンゼリンお嬢様だけではない。多くのお子様がそうであるし、私だって真っ暗なのは怖いもの。
でも、蝋燭の火は、何かあった時に火事の元になって危険。
お嬢様がお休みになられたころ、毎晩こっそり火を消すまでが私の仕事なの。
でもこの筒の明かりなら、そう気になるほどでもない。
中身は光石だから安全だもの、安心して使えるわ。
そうお伝えすると、お嬢様は改めて筒を手に取り、感嘆する声を上げられた。
「ディルムット様は、そのようなことまでお考えになってお作りになったのね。なんてお優しい方なのかしら」
「これもきっと売れますよ! えぇ、令嬢だけでなく、成人した貴族の方々にも受け入れられると思います!」
「えぇ、そうね! さっそくディルムット様にお返事をかかなきゃ」
「いえいえ、それはお待ちください。坊ちゃまにポーチのことをお話ししてからでも遅くはありませんし」
「そ、そうだったわね。じゃあ、お兄様にこれのお願いをしてこなきゃ」
エヴァンゼリンお嬢様が、ディルムット様から贈られたポーチを大事そうに抱えて部屋をお出になる。
私もその後に続いて、エヴァンゼリンお嬢様の兄君、エーリヒ様のお部屋へと向かった。
その道中、嬉しそうにポーチを見つめるお嬢様。
神様、どうか一日でも早くお嬢様のダイエットが成功し、ディルムット様と再会を果たせますように。




