64:ぜひ、使ってみてください。
「坊ちゃん、水が……村の中に水が来ました!」
帰り道も川幅の調整をしながら、三日かけての帰宅。
村に入るとすぐ、住民らが駆けつけ水が水がと大騒ぎになった。
それだけここの人たちにとって、水は貴重で奇跡の光景だったのだろう。
村を流れる水路の大元には水門も設置してある。それを調整して、村の方へ流れてくる水の量を調整しているのだけど――。
「そうですね。このぐらいの水量がいいでしょう。これ以上増えるときは、水門をもう少し閉めるようにしないとですね」
「あぁー、なんでだよぉ。お水いっぱいあった方がいいじゃん」
「チク。水路の高さより水が増えてしまうと、どうなると思います?」
集まった子供たちの中で、代表だと言わんばかりにチクが声をあげた。そのチクに問題を出す。
彼は首をかしげて、さぁっと。
そこで足元に小さな溝を掘って、水路に見立てる。
本物の水路から水を汲んできて、ざばぁっと注いでいく。
「たくさんの水が流れてくると、こうやって水路から水が溢れてしまします」
「う、うん」
「この石がチクの家です。はい、水没しました」
「ダメじゃん!」
まぁ実際は水没するなんてことはまずない。でも床上浸水は余裕だろう。なんせこの世界の一般的な家って、地面と同じ高さにあるんだ。
あと畑も水浸しになって、せっかく植えた種も流されてしまうことになる。
そう話すとチクは、もう一度「ダメじゃん!」と声を上げた。
それを聞いて笑う大人もいれば、なるほどと納得する大人もいる。
水は、あればいいってわけじゃない。必要以上の水は災害につながるからね。
「なかなかわかりやすい説明ですなぁ。まさにお隣のリーガル領では、こないな状態で領主様も領民みなさんも、困っとったんですよ」
「フッチャーさん、そうなのか? じゃあ、家が水浸しの人もいたんだね」
「水浸しならまだええ方やで。地域によっては家が流されて、亡くなる人もおってんから」
だからこそ、リーガル領へ流れる水の一部を、こちらに引き込んだのだとフィッチャーは説明する。
うまく調整できれば、リーガルと辺境の両方にとっていい土地になる――と。
「いいことづくめじゃん!」
「そうやで。ただ――水がきただけじゃゼナスは豊かにならん! しっかり田畑を耕して、土をようせんな! 遊んどってもアカンのやで、チク坊」
「ぐっ……フィ、フィッチャーさん。オ、オレ、ちょっと用事が」
「チク坊。畑の仕事がまだですよねぇー」
「ひいいぃぃぃっ」
なるほど。仕事をサボっていたのか。
残念だが、ここでは七歳以上の子は畑を手伝わなくてはいけない。人手が足りないからね。
でも――。
「キャロ様ー」
「リディアレーゼ様」
「あ、うちんとこの連中が到着してるにゃ~」
「エルフもじゃな。それに……」
南門の方からやってきたのは、キャット・ルー族と砂漠エルフ、それに人間族?
「ディルムット様。自分は砂漠の民キンバルのペロージェと申します。キャット・ルーの族長から話を聞き、ぜひとも恩返しをしたく、仲間十人を連れ開拓の手伝いをしに参上しました」
「オレはバトラス族、オッゼ。同じく、里を代表してゼナスの開拓を手伝いにきた。力仕事は任せてくれ」
「フォックス・リー、セトンだ。受けた恩は倍にして返す。それがフォックス・リーの信条だ」
まさか他の部族からも労働力の提供を受けられるとは、思ってもみなかった。
くくく。砂漠の盗賊退治に同行して、借りを作った甲斐があったってもんだ。
――という内容の手紙を書いて。
もちろん、俺の腹黒本音は隠しておく。
「フィッチャー。さすがにこの竹カゴは、フェアリー・ワイバーンに持たせられないよね?」
せっかく竹があるのだから、竹細工をゼナスの特産品にしたいと思うのは普通だろう。
まぁ竹細工の存在をしっている、前世日本人な俺だからそこ考えるのだろうけど。
ただ、竹細工の詳しい作り方はわからない。
だかたなんとなく格子状だよなってことで錬金し、手先の器用なドワーフたちに見せた。彼らなら、どうやればどんな形になるのか理解しそうだったし。
その読みは当たって、ドワーフの女性たちが格子編みを見せたその日のうちにカゴを作ってくれた。
「さすがに大きいですねぇ。せめてそれの四分の一ぐらいやないと」
エヴァンゼリン嬢に竹カゴを見てもらい、都会の人の意見を聞きたかったんだけど。
洗濯籠サイズは、さすがに持ち運べないか。
だったら――。
カゴの作りはもう見てある。このカゴを分解し、再構築した小さいサイズのものを錬金する。
「これぐらいは?」
「それぐらいならええですよ。むしろこれなら、手紙を入れるのにもよさそうですね」
「なるほど。じゃあ風で蓋が開かないようにしておこう」
ちょっと手を加えて完成。
カゴは貴族の意見よりも、できれば使用人の意見が聞きたい。というのも、庶民向けに売り出したいからだ。
そのことも手紙に添え、フェアリー・ワイバーンに手紙と一緒にハルテリウス公爵家へ届けてもらう。
手紙の最後に――、
竹カゴはお返しいただかなくて大丈夫です。
何か使い道があるようでしたら、ぜひ、使ってみてください。
改良点などあれば、お聞かせいただけると幸いです。
ディルムット・シュパンベルクより。
こう添えた。
はは。貴族のご令嬢が竹カゴかぁ~。
ないな。うん、ないない。




