61:ロクでもないことの間違いだろ。
「待ってやっていたのだぞ、ディルムット」
「あ、兄上!? 帰られたのではないのですかっ」
「そうしようと思ったが、いいことを思いついてな」
ロクでもないことの間違いだろ。
「家族を大切にせぬ貴様が金を出さない代わりに、錬金しか能のない甥を連れて行こうと思ってな」
「ど、どういう意味ですか兄上!?」
「どうもこうもないわ! 鉱山が水没したのは、貴様らの悪知恵のせいだろう!」
お、正解。
「だから水を汲みだすために、こいつを連れて行って働かせるのだ!」
おいおい。未成年者を働かせるのか?
「文句があるのか!」
「ありますよっ。何故兄上のために、かわいい我が子を差し出さなければならないのです。そもそも、鉱山が水没したのは、兄上がディルムットの忠告を無視したからでしょう。自業自得です」
「それが兄に対して言う言葉か!」
「えぇ、言いますとも。これまで父上のお顔を立てて我慢してきましたが、もういい加減あなたを兄と思うのは止めにします。いったいいくら我が家から強奪すれば気が済むのです。万が一お金があったとしても、今後いっさいお譲りしませんから」
お、おおぉ! 父上殿が覚醒した!
いいぞもっと言ってやれ!
「き、貴様ぁ」
「わたしは既にシュパンベルク伯爵家とは独立した身。あなたを支援してやる義務もなければ、あなたは私から支援を受ける権利すらないのです。家門が違うのですから」
まさにその通りだ。だから祖父殿は父上殿を伯爵家から出し、男爵という爵位を国王陛下から与えてもらったのだから。
祖父殿の意図すら気づかず、好き勝手に金を無心し続けたことには祖父殿も父上殿も驚きものだっただろう。
顔を真っ赤にした伯父は、ひとりでブツブツ言っていたが、やがて俺の方へと走って来た。
いち早くロバート卿が動くが、それを手で制する。
父上殿が覚醒したのだ。俺もそろそろ一発食らわせてもいいだろう。
「兄上、何をする気です!」
「来い、ディルムット!」
俺の腕を掴もうとする伯父。
その手を俺は、パンッと叩き落とした。
「んなっ。何をするかクソガキめ!」
「それがあなたの本性なのですね。まったく、ロクでもない大人だ」
「なんだとっ。この、下手に出てやっていれば、図に乗りやがって」
「え……今までのあの態度が、下手、だったんですか? 嘘でしょ……。それとも言葉の意味を理解されていないんですか?」
下手に出るって、相手に対してへりくだった態度をとるって意味だろ?
へりくだるどころか、横暴な態度しかとってないんだが。
「え、あのおじさん、意味も分からず下手って言葉使ってたの?」
「信じられない。貴族なのだろう?」
「俺でも知ってる言葉だぞ」
ぷーくすくす。村の人にまでバカにされてやんの。
勉強をすればいいってわけじゃない。人間性も伴わなければ、学んだことは意味がないってことだな。
伯父、オズワルドの顔はますます赤くなる。
が、俺を連れていくというのは諦めていないようだ。
再び腕を伸ばしてくるので、今度は後ろに下がってしゃがんだ。
「そうだ。せっかくなのでお披露目しましょう。伯父上。僕がずっと錬金魔法だけを学んでいたと思いますか?」
そう言ってわざとらしく呪文っぽいものを唱えた。
「我、召喚す。そして我に敵意を向けるものに、鉄槌を下せ――出でよ、ゴーレム!」
指先から魔力を放出し、地面に魔法陣を描く。もちろん、錬金魔法の魔法陣だ。
だけどオズワルドはそんなこと理解できない。
土を錬成して作り上げたゴーレムは、高さ三メートルを超える立派なものになった。
あ、錬成するときにちょっと前世で見たロボットアニメを思い浮かべてしまったせいか、肩にキャノン砲乗せてらぁ。
どうせなら足じゃなく、クローラーにすればよかったかな。
「ゴゴ、ゴ、ゴーレム!? ディ、ディルムット。きさ、貴様、召喚魔法を!?」
「錬金と相性がよさそうだったので、ついでに学んだんですよ。伯父上、あなたのように僕や僕の家族、領民に仇名す者を懲らしめるためにね。ここは辺境のゼナスです。伯父上、その意味がわかりますか?」
ここでオズワルドを殺しても、俺が罪に問われることはまずない。
この場にいる全員で口裏を合わせるだけでいい。
幸い、ゼナスまでの道のりには〇〇賊と名の付く悪党がいろいろ出る。
オズワルドは賊に殺された――そう言って従者共々遺体を見せるだけでいいのだから。
――と内心で説明しながら、ニタリと笑う。
どうやら伝わったのか、オズワルドが短い悲鳴を上げた。そして従者も震え上がっている。
その時――俺の足元に浮かんだ影が動いた。
え……う、動いた?
振り返ると、俺が作ったゴーレムの右腕が……天に向かって拳を突き上げている!?
え、待って。
脅すために錬成したけど、動くはずないのに。
「ひっ。きょきょきょきょきょ、今日の、今日のところは勘弁してやる覚えてろよ!!!」
「あ、すぐ忘れますんで、もう二度とこないでくださいね。次来たら問答無用でぶん殴りますから」
努めて笑顔を浮かべ、オズワルド一行を見送る。
あれ? あの馬車、うちのじゃなかったっけ? なんであいつが乗って行くんだよ。
「ディ、ディルムット様っ。召喚魔法って、どないしたんですか!?」
「いや、実はこれ、ただの錬金魔法で作った土塊なのだけなんだけど……なんで動いたんだ?」
「ふっふっふ。ディルよ、よぉく見るがよい」
「リディアレーゼ? よく見るって……ん?」
動いたゴーレムの右腕。その上で何が動いていた。
え、これって……。
「コロコロ!?」
「ふっふ。その通りじゃ。コロコロは虫ではなく、モンスターと教えたであろう。こやつらは土を動かす能力を持っておる。まぁ動かせるといっても、自分の体の数倍程度までじゃがの」
だから右腕だけ動かしていたのか。よく見ると六匹のコロコロが腕の上にいた。
「偶然にも、コロコロが潜っておった土を、錬金したようじゃの」
「うわぁ。ごめんよ、驚かせて」
そう話すとコロコロたちは、まさにその名の通りコロコロ転がりながらゴーレムから降りてきた。
これはお礼に豪華な寝床を作ってやらなきゃな。
「ディルムット、お前には嫌な思いをさせてすまないと思っている」
「父上……いえ、今日は僕も少しだけスカっとしましたから。それに、ついに父上が伯父と決別してくれたわけですし」
俺にはそれが一番うれしかった。
これで父上殿の顔を立てる必要もなくなったからな。くくくく。




