60:タケ、タケノコ!
コロコロの巣を作ってやるためには、まず……トイレの大規模リフォームが必要だ!
今現在、ゼナスの村ではうちの邸宅以外、各家にトイレは――ない。村に二つ、共同トイレがあるだけだ。
キャロやリディアレーゼに聞くと、それぞれの里では各家にトイレがあるという。
コロコロはトイレに住み着く。飼育しているのではなく、勝手に住み着くのだ。
「コロコロにとって良い環境であれば、すぐにでも子供を増やしてくれるぞえ。いっそこの村でも、一軒ごとにトイレを作ればよいのじゃ」
「各家にトイレかぁ」
そうなると、増築するか室内にトイレを置く場所を作るか……。
「いっそ新しい家を建てるかなぁ」
「トイレを作る話から、何故新しく家を建てる話になるのじゃ」
「トイレだけ作ればいいんにゃ」
「いえ、どうせならと思いまして。それに他にも理由があるんです」
村の中に水を引き入れるつもりだ。といっても用水路のような小さなものだけど。
今は村の中に井戸が一つあるだけで、朝なんかは行列ができている。用水路を一本通すだけで、この行列は解消されるはずだ。
でもそうなると、区画整備をする必要が出てくる。
今は結構適当に家が並んでいるだけだから、用水路を通すとなると村の隅に作るしかない。できれば村のど真ん中に通したいんだよね。
それに。
盗賊の隠れ家で坂道錬成だの岩牢だのいろいろやってたら、錬金魔法のレベルも爆上がり。
ついには魔法陣のサイズが最大で八メートルまで大きくなった。
まだ家は無理だけど、部屋は錬金できるサイズだ。部屋同士を合体させる要領なら、家を建てられると思う。
そう二人に話すと、何故かドン引きされた。
「あ、新しい家!?」
「つい先日、修繕していただいたばかりですのに」
「やったぁー! 新しいおうち、新しいおうち!」
「建てていただけるのは有難いのですが、さすがに大変じゃありませんか坊ちゃん?」
「俺らにできることがあれば、なんでもおっしゃってください」
父上殿には既に了承を得ている。あとは村の人がどうかだ。
すぐに村の人に家のことを話してみると、驚かれはしたけど全員が賛成してくれた。
できることならいくらでもある。
素材集めだ。
まぁ集めるといっても、すぐそばには岩山があるんだ。ドワーフ族が住居を掘っている最中でもあるし、岩ならいくらでもある。その岩を村の方に運んでもらう仕事がいくらでもあった。
「砂漠の民のための住居も必要ですよね」
「うむ。しかし当面の間は、各々でテントを持ってくるであろうから、後回しでよいぞ」
「うんうん。村の人のお家を先に立ててあげるにゃ」
「ありがとうございます。なるべく早く村の人の家を完成させるので」
岩を村の方へ運び入れるのに、少しでも楽ができるようなものも錬金しよう。
竹を使ったローラーコンベアなら、簡単に錬成できるだろう。
そのためにまずは竹林へと向かった。
「なるべく似たような太さの竹をお願いします」
村の人にお願いして、竹を切ってもらう。さらにそれを、魔法陣に入るサイズに切ってもらって――。
「うわっ」
「ディ、ディルムット様!? どど、どうなさいましたかっ」
「す、すみません。何かに躓いて……あっ」
なんと、地面からほんの少しニョッキしたタケノコに躓いたのだ!
タケ、タケノコ!
「な、なんでしょう、これは?」
「タケノコですよ! 竹の新芽ですっ」
「え、これが?」
まぁ見た目は全くの別物だし、信じられないのもわかる。一ヵ月もすれば、竹っぽくなるんじゃないかな?
だが、放置するのはもったいない!
「あの、これも掘りましょうっ。地面の下に埋まってますから、周りの土を掘って根本から取ってください」
「え、掘るんですか?」
「はい! 食べるんですよ、タケノコを」
そう言うと、村の人は顔を見合わせてから「「ええぇぇ!?」」っと叫んだ。
美味しいんだって、タケノコは!
とは思ったものの、美味しいというのは前世での話で、今世のタケノコが美味しい保証はどこにもなかった。
迂闊だった。タケノコを見つけて浮かれていたんだ。
でも、味がわからないなら食べてみればいい!
生憎、俺は料理なんてほとんどしたことがない。
煮つけみたいなのが美味しいんだが、作り方を知らない。
ここはシンプルに、焼きタケノコでいってみよう。
皮のまま焼く。
それにしても、大きい。タケノコって大きく育ちすぎると硬いんだっけ?
でもこの世界の竹はデカい。だったらタケノコも大きくて当然かも。そう考えれば、このタケノコの大きさは育ちすぎには見えないんだよな。
火の魔法が込められた魔石でじっくり焼くこと数分。
皮が黒く焦げ、ほんのりと香ばしいニオイが漂ってきた。そのニオイにつられてか、村の人たちも集まってくる。
タケノコ、三本掘って来たけど足りるかな?
やがて騎士たちや父上殿たちもやってきて、盛大なタケノコパーティーが始まる。
村の女性陣が丁寧に皮をむき、一センチ幅で切り分けてくれた。
それをみんなに配って――なんとか足りた。まぁひとり一切れしか食べれないけど。
「おぉ、ディル殿、これはなんでしょう?」
「アスデローペ卿。これはタケノコです。向こうに生えている、まっすぐ伸びた木の新芽みたいなものですよ」
「え、あの木の芽? た、食べられるのですか?」
正直、まだわからない。いい香りではあるけどね。
「はい。もちろんです!」
と、適当なことをいっておこう。
味付けは例の岩塩だ。ほんの少し振って――あむっ。
「んっ。はふっ、はふっ……ふわぁぁ、ほくほくだぁ。それに、思ったよりも甘い。苦みがないんだな」
驚いた。日本で食べるタケノコより、めちゃくちゃ美味いぞ。
タケノコ独特の苦みもなく、これなら子供でも食べやすい。
俺が食べたのを見て、アスデローペ卿も焼きタケノコを口に入れた。
「あっつ。はふはふ。ほぉー、ほぉー……んっ。これは美味い! 素朴な味だが、この塩がまた……ん? 塩?」
気づいたようだ。
「こ、これはまさか……まさか岩塩!?」
「はい。あの山で見つかったのは、その岩塩です。フィッチャー」
「はいはい。まったく、急に話を振るんですから。えぇー、ここから先は自分がお話――」
その時、奥の方で大きな声が聞こえた。罵声が聞こえる。
この声は……。
「ようやく帰ってきたようだな、愚弟の息子め!」
な、なんでクソ伯父がここにいるんだ!?




