6:父上、お願いがあるんです
「父上、お願いがあるんです」
「ん? ディルムットがお願い?」
五歳になって俺は、あることを試したくて父上殿にお願いをした。
毎日続けてきた錬金魔法で、確実に魔力を増やすことに成功。
縦横高さ三十センチの木材の錬金なら、連続で三十回やっても眩暈を起こすことはない。
三つ年下の弟と妹にオモチャを作ってやるのも慣れたもんだ。妹のティファニーには「かわいくないっ」ってダメ出しされるけど……。
ま、まぁ、センスの良し悪しには関係しないことを、これから試そうと思っている。
父上殿にお願いして連れてきてもらったのは、領内の鉱山で採掘した鉱石の選別場。
鉱山で採掘した鉱石は細かく粉砕して、金や銀が含まれている部分だけ選別。それを溶けた鉛と混ぜ合わせ、高温で熱すると――まぁいろいろやって金が取れるって仕組みだ。
かなり面倒な作業だし、注意をしなければ大事故にもなる。なんせうん百度の高温で熱するからな。
あと粉塵なんかも出るから、まぁ体にも悪いよな。
が、それを錬金魔法でワンクリック錬成出来たらどうなるか。
そもそも錬金術とは、金ではないものを金に変える術だ。まぁ空想上の話だけどな。
この世界じゃ薬草からポーションを作ることだったり、まさに鉱石から金を抽出したりする作業を錬金術と呼んでいる。
同じ錬金がつくんだ。魔法でだって出来るだろう。
「じゃあ、始めます」
「始めるって、いったい息子に何をやらせる気なんでぇ、旦那ぁ」
選別場にいるのはドワーフ族の人たちだ。
ドワーフ。大地の妖精族。ずんぐりとした体格に似合わず、手先が器用で職人気質な彼らは、鉱山で働く人も少なくはない。ただし気難しい性格でもあるので、人間に雇われるのを嫌う人がほとんどだ。
男爵家の鉱山で働くドワーフは、みんな父上殿の人柄を気に入ってここで働いてくれている。
失敗のことも考え、選別前の小さな鉱石を用意してもらった。
指先に魔力を流し、鉱石に触れる。
最初の頃は宙に浮いていた魔法陣も、今では最初から地面に展開出来るようになっていた。
中心位置もピッタリ。
頭の中に浮かぶのは【粉砕】【特定鉱石の抽出】【研磨】【カット】。
抽出! たぶんこれだっ。
特定鉱石の抽出――と念じると、今度は【金】【銀】【石英】と出た。
石英ってなんだっけ? と思いながら、とりあえず全部選ぶ。
魔法陣と鉱石が光りだす。光は一瞬で消え、中央には金色の不細工な粒と、同じく不細工な銀色の鉱石、それから水晶っぽいものとその他ただの岩っぽいものが置かれていた。
「で、出来たけど……僕の想像とは少し違うな」
インゴットのような形に仕上がると思ったのに。うん、これは抽出しただけの状態だな。これでは商品として売りには出せない。
「んなっ、なんじゃこりゃ!?」
「凄いじゃないかディルムット! 錬金魔法でここまで出来るなんて」
「いえ、父上。僕の想像だとインゴットにまで出来るはずだったんです。これだともうひと手間必要だし」
「だがディルムット。インゴットにするにはそもそも量が足りないだろう。それにね、インゴットのサイズや重さにはちゃんと規格があって、それ以下でもそれ以上でもダメなんだよ」
そ、そうか。前世でも、金の延べ棒とか決まった重さがあったしな。
「鉱石から何日もかけて俺らがやることを、ほんの一瞬でやっちまうとは……旦那ぁ、こいつぁ魔法かい?」
「そうなんだよ親方。息子は錬金魔法という、ちょっと珍しい魔法を授かっていてね」
「そうか……」
ん? 何か問題があったのだろうか。ドワーフの親方――ここで一番偉い人が、何やら神妙な面持ちで抽出した金を見ている。
じゅ、純度に問題が? 上手く抽出で来てなくて、不純物が混ざっているとか?
「旦那ぁ、こいつぁ……他の奴らに知られねぇ方が良い」
「え? それはどうしてなんだい、親方」
「どうしても何も、こんなすげぇ魔法、欲深い連中に知られたら大変だぜ。とっ捕まって、どっかの鉱山で朝から晩まで魔法を酷使されるのが目に見えてらぁな」
凄い、魔法……。錬金魔法がドワーフの頭に認められたってこと!?
でも……。
迂闊だった。両親を喜ばせたい一心でやったことだけど、確かに一瞬で鉱石から中にあるものを取り出せるとなれば……この魔法の利用価値は大いにある。
「幸い、ここにゃわしと旦那しかいねぇ。この事は秘密にすんだな」
「そ、そうか……そうだね。ディルムットが惨い目に会うのは絶対に避けなければ」
「で、でも父上。僕は……」
男爵家の役に立ちたくて、ずっと魔力を伸ばす訓練をしたのに。
そうしてようやく、ある程度まとまった回数が使えるようになったってのに。
優しい家族に恩返しを……感謝していることを伝えたかったのに。
「はっは。なぁに、心配すんなって坊主。何もお前さんの努力を無駄にしようってんじゃねえ」
「え? じ、じゃあどうすれば?」
「なぁに。わしらドワーフ秘伝の製法で金属を抽出したってことにすんのさ。さっきお前さん、インゴットまでやるつもりだったようなことを言ってたが、ソレは必要ねぇ。こっちでやるからよ」
ド、ドワーフ秘伝……。確かにありそうだ。そしてドワーフ秘伝なら、絶対人間には教えてくれないだろうし、人間もそれを分かっているから聞くこともないだろう。
この日から俺は、一日二回、町にある鉱石の選別場へと足を運んで、せっせと錬金魔法による金属の抽出を行うことになった。
表向きには「錬金術を学ぶ」ためだ。
男爵家の嫡男として、将来のための勉強ってことになっている。
本当のことは親方と、ここで働くドワーフたちだけが知っている。
彼らは口が堅く、義理堅い種族だ。決して他に漏らすことはない――と父上殿が太鼓判を押す。
だから信じた。父上殿が信じているドワーフを。
更に俺は、親方たちに協力してもらい様々な物を錬金した。
主に鉱山での掘削効率を上げるための道具だ。
その名もずばり、ドリル!
まぁ電気はこの世界にはないので、ドリルの回転は手動になるわけだが。
最初は手持ち式で錬金してみたが、実際に使って貰うと振動もあるし重いしで効率は上がらず。
そこでまず、キャラピラを錬金。これにはイメージ力が必要で、何度も思考を繰り返して完成。
それを頑丈な箱に取りつけ、その箱にドリルを取りつけ――更に角度調節も出来るように改良を何度も何度も加えていく。
そして二カ月後――。
「お頭、アレはいいぜ。硬い壁もガンガン掘れるし、なんせ作業してる俺らはハンドルを回すだけだから疲れもしねぇ。掘削効率も爆上がりだ」
「はっは。聞いたか坊主? お前さんの発明で、これからガンガン鉱石が掘れるぞ」
親方はそう言って俺の背中を叩いた。
手加減はしているんだろうけど、そこはドワーフと幼い子供だ。体がよろけ、危うく倒れそうになるのを慌ててお頭が支えてくれた。
痛いけど、でも嬉しい痛みだった。




