57:まず、人手が足りない。
問題は山住だ。
まず、人手が足りない。
「親方。岩塩の採掘に、どのくらいの人手が必要になると思いますか?」
「そうだな。ノームの模型を見る限り、わしらの住居からさらに掘り進めていけば、岩塩層にぶちあがるだろう。わざわざここまで採掘に来る必要はねぇ。それを考えてもだ、少なくとも二、三十人はいるだろうぜ」
その人数は、村の働き手の男性全員に匹敵する人数だ。さすがに女性にやってもらうには力仕事があまりにも多すぎる。
だからといって男性全員を採掘に回せば、今度は畑仕事の人手がなくなってしまう。
どうしたものか。
絶対アカン選択肢は、アスデローペ卿に採掘権を委ねること。そして彼は、こちらが人手不足だと知れば――いや、村にいるんだ。辺境の村ゼナスに、余分な人手がないことぐらいすぐ理解するだろう。
岩塩の取引を持ちかければ、必ず言うはずだ。
――ご心配なく。採掘用労働者ならこちらでご用意いたします。
――ですので、採掘権をぜひわたくしめに。
とね。
それはダメだ。そんなことしたら、取引の主導権をあちらに握られてしまう。
だから自前で労働者は確保しなきゃいけない。
「先ほどから何を考えておるのじゃ?」
「ディル。キャット・ルー族はディルに恩があるにゃ。だから困ったことはあるなら、力になるにゃよ?」
「わ、妾たち砂漠エルフも、ディルの力になるぞえっ」
「にゃにぃ。真似するにゃ!」
「黙りゃっ。真似などしておらん! 妾はそのつもりでここまで来たのじゃっ」
「「きぃーっ」」
頼むからここで言い争わないでほし――ん?
だったら、労働力の提供とかお願いできるのだろうか。
「お、コロコロじゃ」
「コロコロ?」
滝のそばで一泊し、翌朝にはゼナスへ戻るため出発した。その道中でリディアレーゼが足を止め、何かを見つけたようだ。
その何か――とは、カブトムシ?
「砂漠にのみ生息しておるのかと思ったが、こんな緑の多い場所にもおったのじゃな」
「でも小さいにゃ~。栄養が足りてないにゃねぇ」
いや、カブトムシにしては大きいと思うんだけど?
八歳児の俺の掌より少し大きいぐらいだ。
その時、オルマンさんがしゃがんで、俺に教えてくれた。
「あれは一応、モンスターなのです。コロコロは糞尿を餌として食います」
「え!? あれでモンスターなんですか?」
それを聞いて親方が唸った。
「そういや、聞いたことあるぜ。気温の高い地域に生息するモンスターで、そいつらは他の生き物の糞やしょんべんを食料にしてるってな。で、そいつらが出す糞ってのが」
「もしかして畑の肥料に!?」
「お、おう。その通りだ。知ってたのか、坊?」
「なんとなくそんな気がしただけです」
っていうのは嘘で、まぁ日本で暮らしていれば普通に入ってくる雑学みたいな知識だ。
生ごみをミミズに食わせて分解させ、その土で家庭菜園をする。そういうのを見聞きしたことはあった。
ほかにも糞虫だとか、虫の糞も肥料としてはいいっていうのも。
この世界ではモンスターがその役目を担っているのかぁ。
「ということは、砂漠でもこの虫で、あ、モンスターを使って、肥料を作っているのですか?」
「そうにゃ。じゃないと、砂漠で野菜なんて育たないにゃ」
「うむ。それにの、コロコロは土を豊かにしてくれる。それはすなわち、砂漠化の進行を食い止めておるということじゃ」
砂漠にコロコロがいなければ、今よりもっと広い範囲で砂漠化が進んでいるのだとリディアレーゼは言う。
彼女ら砂漠エルフは、砂漠を緑化させることを至高の喜びとしている種族だ。だからコロコロをとても大事にしているのだと話した。
ということで、彼女は小さなコロコロを連れて帰るという。
「主の村にも必要じゃろ」
「そうですね。よい肥料を作ってくれるというのは、大変ありがたいことですから」
それに、下水――というか汚物処理もしてくれるなら、衛生面にもいい。
村へ帰ったらさっそく、共同トイレの改造錬金をしよう!
が、その前に――。
「やぁやぁ、おかえりなさいませせディル殿。四日も戻られないので心配しましたよ。西の山に登ったとは聞きましたが。はてさて、どのような『イイモノ』が見つかったのですかな?」
家に帰るなりいきなりアスデローペ卿に捕まった。
その目は儲け話を聞きつけた守銭奴商人のそれだ。
「申し訳ありませんが、一カ月も家族と離れていたのです。こんなに長く両親や弟、妹たちと離れて暮らしたことはなかった……。僕は凄く……凄く寂しかったんです」
「ハッ。わ、わたしとしたことが、うっかりしておりました。貴殿と話をしていると、どうにも子供だということを忘れてしまいそうで。いや、申し訳ない。ご両親は応接室の方にいらっしゃいますよ」
「ありがとうございます、アスデローペ卿。またお話は明日にでも」
そうにっこり笑って答える。
すまない。俺、中身はおっさんなんだ。
アスデローペ卿と別れて、応接室へと入る。
そこで両親と双子たちが、俺を出迎えてくれた。
「ただいまもどりました、父上、母上」
「おかえり、ディルムット」
「まったくこの子ったら。家には戻らず、先に山へ行っちゃうんだもの」
「すみません。アスデローペ卿がいましたので」
「わかっているよ。わかっている」
二人にぎゅっと抱きしめられ、少し恥ずかしく感じながらも満たされる自分がいる。
あぁ、やっぱり父上殿と母上の子供に生まれてきて、よかった。
「にぃちゃま、おかえりなさい」
「兄上、アスデローペ卿の足止め、上手くできましたよ」
「うん。ありがとうジーク。ティファニーもね」
へへへっと笑う二人が、本当に愛らしい。
こんなかわいい双子の兄になれたなんて、神様マジでありがとう。
ひとしきり抱擁を交わした後、俺は本題に入った。
「父上。砂漠の民の出稼ぎ労働者の受け入れを、ご許可ください」




