55:違ったらなんか嫌なんだけど。
「その昔の、この大陸は一つではなく、二つに分かれておったのじゃ。それがちょうど、この辺りでの」
砂漠エルフの族長の娘リディアレーゼは、祖母から聞かされた話を俺たちにしてくれた。
「つまり、ここは大昔、海だったということですか?」
「その通りじゃ。であれば、こんな内陸で塩が見つかった根拠にもなるじゃろう」
なるほどね。地球でも岩塩が見つかる場所って、大昔は海だった所だしね。
俺たちは館には戻らず、そのまま山へと登った。ロバート卿と二名の騎士には父上殿への報告を頼んである。
館へ戻ればアスデローペ卿に捕まってしまう。フィッチャーが必死だったのもあるし、レトンと万が一取引することになっても、こちらで主導権を握る必要がある。
そのためにも現物を彼には見せたくなかった。
「ぜぇ、はぁ……ま、まだ到着せぇへんのですか?」
「うん。途中で一度野宿して、それからまた歩くから――」
「明日の昼過ぎには到着すんだろうぜ」
「ひぃーっ。あ、明日の昼過ぎ!?」
最初は意気揚々と歩いていたフィッチャーだったけど、二時間もしないうちに値を上げてしまった。
今度ロバート卿に稽古をつけてもらう時には、彼も同行させよう。
「まったく、だらしない大人だのぉ」
「ほんとにゃ。この程度の山道なんて、砂の上を全力で走るのより楽にゃ」
……何故この二人は、当然のようについて来ているのだろうか。
二人がいるから、当然、お付きの人も一緒だ。
「い、いいですね、お二人とも。ぜぇ……岩塩、を見つけたのは、男爵家、の、ドワーフ族、なのですから。お、お二人の部族が、その権利を――」
「わかっておる。妾はただ見てみたいだけじゃ。それに、権利を貰ったとて砂漠のエルフ族の里から遠く離れておるのじゃ。どうすることもできぬわ」
「うちも見るだけにゃ。塩なんて貰ったことろで、腹は膨れないにゃ」
塩の価値がわかっていない子供がここにいる。
「お嬢。塩があれば肉が美味く食えるんですよ」
「にゃ!? お、お肉が美味しくなる魔法の塩にゃか!?」
塩の価値ををいまいちわかってない大人もいた。
「ディ、ディル。物々交換するにゃ!」
「現物を見てもいないのですから、何とも言えません。それに、僕は領主ではないのですから。父上と相談してくださいね。あ、もちろん、実際の取引の時にはフィッチャーを通すように」
そうじゃないと、父上殿は優しいから岩塩を安価に設定してしまうかもしれない。
ただ……俺には一つ、不安要素がある。
岩塩が十分な量があるとして、採掘に割ける人手がどのくらいあるか……だ。
親方が言った通り、滝のあった場所へ到着したのは翌日の昼過ぎだった。
滝は相変わらず、ちょろちょろとした水量しかない。
「流れを堰き止めていた岩を今砕くとな、全部地下の岩塩洞窟に流れ込んでしまうんだ。水を通すにゃ、新しい流れを作らなきゃならねぇぜ」
井戸水がなんとなくしょっぱく思えたのは、気のせいじゃなかったんだな。
親方たちが掘った螺旋状の坂道を下っていくと、その壁が途中から白くなった。
「これ、岩塩ですか?」
「舐めてみりゃわかるぜ」
え、違ったらなんか嫌なんだけど。
と思ったら、なんと後ろのフィッチャーが躊躇することなく壁をぺろり。
「どう?」
「塩、です。えぇ、塩ですよこれ!」
マジか。マジで岩塩か!
そこから更に少し下りると、突然開けた場所へと出た。
天井の高さは二メートルとちょっと、だいたいコンビニぐらいの広さがある。
「坊、あそこだ。上から流れてきた水だ」
「あぁ、天井にヒビが入ってますね」
天井からチョロチョロと水が落ちてきている。その水は岩塩の床を流れ、壁に空いた小さな穴の奥へと続いていた。
たぶん、あの穴の先は村の方だな。
「天井から地表までは三メートルぐれぇだ。滝つぼの深さがどんなもんだったか知らねえが、まぁ大岩で床がぶち抜けたのも仕方ねぇわな」
「んー、では滝つぼの底を完全に埋めて、水の流れを地表に戻す必要がありそうですね。フィッチャー。リーガル領の方には書状を――フィッチャー?」
フィッチャーが、壁に頬ずりをしている。
「フィッチャー?」
「岩塩や。これ全部岩塩やで。全部岩塩なんや。いくらになる? 国内だけでさばける量やろか」
「うん、そうだね。それよりも聞いて。お願いだから僕の話聞いてねフィッチャー」
「はっ!? じ、自分、何か言うてましたか?」
お金の事とか言ってたね。まぁ商人だし、そんなもんさ。
俺だってこれがどのくらいの富を生むのか気になるしね!!
でもその前に、水の流れをどうにかしないと。
「も、もちろん。男爵様ともご相談して、あちらのご領主様に書状を送りましてん。そのお返事も既にいただいております。あちらも水害に困っておられますから、二つ返事で了承を頂いてますよ」
「よし。それじゃあ地表の土木錬金は問題ないとして。ここの岩塩量だけど……親方、ざっくりとでいいんですが、わかりますか?」
「無茶言うな。かなりの量だとは思うが、どのくらいかってのはちょっとなぁ」
大地の妖精族であるドワーフなら、そういうのわかったりしないのかなって思ったんだけど。甘かったようだ。
「ふん、ふんふん」
錬金魔法じゃ埋蔵量なんてわからないしなぁ。
「ふんふんふんふん~」
「仕方ないですね。フィッチャー、岩塩の質はどうでしょう?」
「肉が欲しいですね。実際に食べてみて、味がどうか」
「ふふんふ~ん。ふんふんふふ~ん」
なら一度上に戻ろうかな。
「ふんふんふんふふんっふふふんふんふふ~んふんっ」
「あの、さっきから何ですか、リディアレーゼ」
「ふ……はぁ、はぁ……。コホンッ。あー、妾ならば、埋蔵量がわかるぞえ」
……え?
「わかるんですか?」
「んむ。待っておれ」
リディアレーゼが聞きなれない言葉を口にする。いや、これは呪文だ。もしかして精霊魔法?
「なぁにがわかるにゃ。そんなの嘘っぱちにゃよ」
「黙っておれ、猫娘めっ」
「にゃにぃ~」
リディアレーゼは呪文を中断し、キャロと揉めだした。
はぁ、こういうところはお子様だなぁ。
「キャロ、静かにしましょう。精霊魔法の邪魔をしてはいけません」
「ふにゃ!?」
「ふふん。黙ってそこで見ておるがよい――」
再び呪文を再開するリディアレーゼ。
すると、彼女の足元の岩塩がひび割れ、そこから石でできた人形――いや、岩塩でできた不細工な人形が出てきた。
ゴ、ゴーレム?
「こやつはロックン。岩の精霊じゃ。じゃが、やはり岩塩で体を作ったようじゃのう」
い、岩の精霊ロックン!?




