53:数週間ぶりの我が家だぞ!
「わぁぁ。レトン商業国の砂船は、早いですねぇ」
「約束が違うぞ小僧!! 情報を渡せば見逃すと言っただろうっ」
アスデローペ卿の船に乗船させてもらい、俺たちは一路ゼナスへと向かっていた。
その船の中、ずーっとギャンギャン吠えている男がいる。
男の名はデリグス・ウォーケル。盗賊団の首領にしてレトン商業国の元評議会議員だ。
「いやぁ、まさかあの時ゲロった男が首領だったとはねぇ。さすがにそこまで僕も想像しませんでした」
「話を聞け小僧! 見逃すと言う約束だっただろうがっ。こんな不当な取引――」
「見逃したじゃありませんか。何を言っているんです」
「んなっ。嘘を吐くな、嘘を!」
まったく。盗賊団の首領ともあろう者が、約束だなんだと何を言っているんだ。
それにだ、まさか真っ先にゲロったのが首領なんだぞ。情報も何も、お前自身の話をしただけじゃないか。
捕虜を引き渡すときにアスデローペ卿が真っ赤な顔してあいつをぶん殴りに行ったときはビックリしたけど、こいつが首領だって聞いた時はもっとビックリした。
「嘘なんて人聞きの悪い。確かに僕は見逃してあげてますよ。錬金の人体実験。見逃したじゃないですか」
「んなっ。ハ、ハメおったな小僧!」
なんでそうなるんだよ。あの時の話の流れなら、逃がしてやるじゃなくって実験を見逃してやるって意味だろう。
「ギャーギャー喚くなデリグス! いい歳した大人がみっともないっ」
と言って、アスデローペ卿がデリグスの頭をげんこつで殴る。
「げはっ。くっ。アスデローペめぇ。貴様、この私が評議会から追放されてさぞ嬉しいだろうなぁ。なんせ私が追放されたから議員になれたのだから」
「あぁ、感謝しているとも。貴様が強欲で無能だったからこそだからな」
あ、そうなんだ。アスデローペ卿はつい最近、評議会議員になったってことか。
だから砂漠まで来させられたんだろうな。下っ端だから。
「ディルムット様、そろそろ」
「砂漠の終わりですね。ここからまた徒歩かぁ」
砂船は浮遊石のおかげでわずかに浮いているとはいえ、ごつごつした岩が転がっている場所では使えない。岩で船底を擦っては危険だからだ。
「おぉ、ディル殿。ご安心めされよ」
「え、安心って何をですか、アスデローペ卿」
取引の提案をした後、彼は何かと気を配ってくれるようになった。
これが掌くる~というヤツだね、まったく。
「小型の浮遊船を搭載しているのだ。十数人しか乗船できぬが、十分であろう? 浮遊船は地面から二メートルほどの高さまで浮くことが可能で、小型故に小回りも利く」
「そんなものまであるんですか! 凄いなぁ」
「いやぁ。小型船だからこそ、その高さまで浮かせられるのですよ。しかし急ぐ場合には便利でしてな」
そう。俺たちは急いでいる。
アスデローペ卿と交わした取引内容が内容なだけに、急いで王都へと連絡を取らなきゃいけないからだ。
その内容は、元評議会議員である盗賊の首領デリグスが、辺境領ゼナスを襲撃したことはなかったことにするというもの。
既に盗賊団の首領が元評議会議員だということは、陛下の耳にも届いているだろう。
陛下がレトン商業国に対し、遺憾を意を伝える前に止めなければならない。
だがらアスデローペ卿は急いでいるのだが、まぁそこは大丈夫だと思ってるんだよね。
アスデローペ卿には話していないけど、実際はオルフォンス国の役人も絡んでいる。だから王国としても身内の恥を晒すことになるから、その件で他国を責める事はできない。
だからここは『ただの盗賊に襲われた』という案に、陛下も異を唱えたりはしないだろう。
なんせ、レトンに借りを作れるのだから。
そして実際に被害を受けた男爵家だからこそ、陛下に進言することができる。
それもあって、アスデローペ卿は突然過保護になったのだ。
「ではお前たち、ここで待っているように。数日は戻れぬだろうから、後のことは船長に指揮権を委ねる」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ、アスデローペ卿」
「うむ。行くのじゃ」
「行くにゃ~」
……何故。
キャロと、それから砂漠エルフの族長の娘リディアレーゼが小型船へと乗り込む。
「またご厄介になります、ディルムット様」
「リディア様がお世話になります」
オルマンさんと、砂漠エルフの女性が会釈をして小型船へ乗り込んだ。
キャロとリディアレーゼの二人は最初、アスデローペ卿の船に乗り込んだ時に見送りに来たのかと思っていた。
だけど船は彼女らを下ろすことなく出航。
キャット・ルー族の族長もエルフの族長も手を振っていたから、おかしいなとは思っていたんだ。
まさか……。
「あの、お二人はお戻りになられないのですか?」
「リディアは帰るにゃ」「キャロは帰るのじゃ」
「んにゃ!?」「むむ!?」
つまり二人とも、相手が帰ると思っていたのか。いやそれとも、相手に「帰れ」と言っているのかも。
どっちにしろ。
「ゼナスまで来るつもりですか?」
「もちろんにゃ」「もちろんじゃ」
「にゃ!」「ぬ!」
「リディアは帰るにゃ!」
「主こそ帰れっ」
「にゃんですってーっ」
「ふーん、なのじゃ」
二人とも、帰ってくれてもいいんだよ。
「はっはっは。ディル殿はおモテになられますなぁ」
「違うと思いますけど……どちらかというと、遊び相手とか弟を見つけた的な、そういうのじゃないですか?」
年齢差からしてもそうだし。
「そ、そうであろうか……ま、まぁディル殿はまだ幼いし、そういうものに無頓着なのも致し方なしであるな。よし、では出発するぞ。船を出せ」
「はっ」
そういうものって、どういうものなんだよ。
気にはなったけど、面倒でもあるし聞くのは止めた。
さぁ。数週間ぶりの我が家だぞ!
「んぎぎぎぎぎぎぎ。猫娘は帰るのじゃあぁ」
「チビエルフの方こそ帰るにゃぁぁ」
「「きぃーっ!!」」
はぁ……小型船の上で火花を散らさないでほしいなぁ。




