50:生きた人間ではやったことないんですよねぇ。
まぁ、だいたい予想通りの光景だと思う。
レトン商業国の兵士に引き渡せば、よくて終身の労働奴隷、悪ければ処刑。この二択しかないだろう。
もう二度と会えなくなる。
だから、里の人と捕らえた人は、互いに身を寄せ、泣き崩れた。
そうかと思えば、奥さんに殴られている人もいる。
こうなったのはあんたのせいだ。あんたが盗みに手を染めなければ、今でも家族で暮らせていたのに――そう泣きながら、拳を握る女性たちの姿も少なくはない。
そしてあそこでも、家族ドラマが繰り広げられようとしていた。
「あんた……」
「チェ、チェンチェ……チェンチェ。頼む、ここから出してくれ」
「何言ってんのさあんた! あんたが……あんたが里のみんなをそそのかしたんだろうっ。あんたが盗賊なんか呼び込まなければ、こんなことにはならなかったんだよっ」
あれ? 反省したのかと思ってたけど、意外とそうじゃなさそうだ。
いやぁ、図太いなぁ。
「わ、わしはお前や娘のためにやってきたんだっ。お前たちにもっといい暮らしをさせたかったんだ。わかるだろう? わしはいつだってお前たちのことを思って――」
パンッと乾いた音が響く。
ゲダスの頬をひっぱたいたのは奥さんではなく、キャロと同年ぐらいの女の子だった。
「嘘ばっかり。あんたの嘘は聞き飽きたよ。家族のため? 私のため? だったら、そばにいて欲しいって頼んだ時、なんで里に残ってくれなかったの! 私やお母さんが熱で倒れた時だって、平気な顔して出ていったじゃない! 自分のためでしょっ。自分がいい暮らししたいからでしょ!」
「チ、チーチェ。わしは父親だぞ! お前は父親を殴るのかっ」
「ほら見てよ。やっぱり家族のためなんて嘘。いいよ、別に。私はあんたみたいな父親、いらないんだから!」
「なっ。なんだとチーチェ! チェンチェ、お前の躾が悪いから――」
ここで二発目の乾いた音。今度は奥さんだ。
「あんたって男は、本当に最低な奴だね……お義父さん。彼女を連れて来てください」
「……ゲダス。いったいどこで育て間違えたのか」
前族長が手招きすると、離れた所にある木の後ろから女性と十五歳ぐらいの少年が出てきた。
二人はその手に、短剣を握っている。
一瞬、周囲に緊張が走った。
サルージ族が、ゲダスを逃がすのではないかと――そう思ったのかもしれない。
でも俺は、そうは思わなかった。
何故ならあの二人の目には、俺の……前世の俺の目に似ていたから。
鏡に映っていた俺の目――親を憎んでいたあの目に。
「サ、サーラ……セダン……お、親父、なんだこれは?」
「各部族の族長たちよ。これからこのサーラとセダンが親の仇をとること、許してやってはくれぬか」
「ゲルダダス老よ、しかしそれは……」
「ダンド族長。僕はいいと思います。レトンから、生きたまま引き渡せと言われたのですか?」
ダンド族長は他の族長らと顔を見合わせ、それから首を横に振った。
生死不問。それなら首を刎ね、それを引き渡しても問題ないだろう。
「かたじけない、少年よ」
「ですが条件があります」
「じ、条件とな?」
あのサーラって人とセダンって人。たぶんゲダスの兄であり、本来の前族長の奥さんと息子なんだろう。
ゲダスの娘とセダンって人の顔が、わりと似ている。兄妹と言ってもいいぐらいに。
「間違ってもゲダスを逃がすわけにはいきません。ですから、ゲダスは縛ったままでお願いします」
俺がそう発言すると、辺りはしーんっと静まり返った。
それから拍手が湧きおこる。
「なるほどのぉ。それは確かに大事な条件だ」
「うむ。逃げられては敵わんからの」
「ゲルダダスよ、この条件でよいかえ?」
「もちろんじゃ。感謝する」
「お、おい。わしは認めぬぞ! 認めぬっ」
どうせあんたは首謀者のひとりとして処刑されるだろう。だったら、これまで恨みを募らせてきた母子のために役立てよ。
各部族の長たちが見守る中、仇討はつつがなく終了した。
「さて、ずいぶんとお待たせしました。それで盗賊のみなさん。なんで砂漠で砂船を襲おうと思ったんです?」
「ちっ。ガキが――あがっ」
「はい。僕はガキですが、隣にいるロバート卿は大人ですし、彼、以前は凄腕の冒険者だったんですよ」
お上品なだけの騎士とは違うのだぞと、オブラートに包んで伝えてやる。
ずっとサルージ族の処遇について話し合いをしていたから、これまで盗賊団のことは放っておいた。
どうせレトン商業国に引き渡すのだから、どうでもいいと言えばどうでもいい。
だけど全ての元凶でもある盗賊団のことを、知らないままこの地を去るのはモヤっとする。砂漠の民だって知りたいだろうしね。
「話してくれない? あ、そう。残念だなぁ」
そう言ってから、俺は適当にその辺の石や木の枝を拾ってくる。それを盗賊たちに見せ錬金魔法を発動させた。
一瞬にして石と枝が融合。それから更に魔法を発動させ、今度は粉々に砕いた。
「錬金術の実験台……生きた人間ではやったことないんですよねぇ」
ニヤり、と笑って見せた。
過去にも人間を人体錬成しようとした錬金術師がいる。実際のところ、それが実話なのかどうかはわからない。
ただ、戒めとしてそういう話があるのだ。
普通の家庭に生まれ育った人はあまり知らなけど、こういうのは悪党に限ってよく知っている。
ほら。盗賊たちの顔は真っ青になった。
「ふふふ。ロバート卿。彼と彼を捕まえてくれませんか?」
「承知いたしました」
男二人を指さすと、ロバート卿がわざとらしく指をポキポキと鳴らす。
指さされた二人は罠で縛られたまま、悲鳴を上げて転げまわった。
「素直に話してくれれば、見逃してあげますよ」
ダメ押しでそう言うと、彼らは見事に――ゲロってくれた。
どこぞの人体錬成は・・・




