5:いつか絶対、倍にして返してもらうからな!
子供が生まれたから祝いの金を寄越せ。
そう言って現れた伯父上殿は、俺を一切見ようとはしなかった。まるで俺の存在なんて気づいていないかのように。
一歳二カ月の間、伯父上殿は一度もこの屋敷に来ていないはずだ。なのに自分の息子が生まれたら金を寄越せとは、どんだけ面の皮が分厚いんだよ。
おそらくこの伯父上殿は、事あるごとに金を催促しに来ていたんじゃなかろうか。
それでメイドさんと執事のこの表情だ。
「だいたいだ! この領地とてこの俺のものになるはずだったのだぞ! それを父上が嫡男でもないお前を不憫に思って小さな領地を与えてくださっただけ。つまり俺のお零れに預かっているだけだろう! だったらこの俺に、鉱山での利益の半分、いや八割を譲るべきだとは思わないのか!」
なんて無茶苦茶なことを言っているんだ、この伯父上殿は。
利益の八割? 鉱山の管理をしているわけでも、そこで働く人の雇用代金を払っているわけでもないのに利益を寄越せって……。うぁ、この男、よく見たら指にも服にも、宝石をジャラジャラ身につけている。色もデザインもバラバラ。統一感まったくなしの、センスのない装飾品だ。
ハッ、まさか!
「奥様、お持ちしました」
そこへメイド長が、小さな箱を持ってやって来た。普通の箱ではない。銀で装飾された宝石箱だ。
「伯爵様。後継者のご誕生、おめでとうございます。どうぞ、こちらをお持ちください」
え、まさか祝い金? 渡すの?
「おぉ、カティア殿。やはり貴女はよくできた奥方だ。どれどれ」
おいおい、贈られた傍から確認するのかよ。
「ちっ。これっぽっちか」
これっぽっちだと!?
「申し訳ありません、伯爵様。何分、急な来訪でしたのでおもてなしのご用意もできませんでしたので」
「ほぉ。では急でなければ、もっと金を用意出来たのだな」
「そ、それは……」
なんなんだ、こいつ。なんなんだ!
「わかった。ではまた日を改めるとしよう。その時には妻と息子も連れて来るのでな、しっかりともてなしてやってくれ。頼んだぞっ」
それだけ言うと、伯父上殿は帰って行った。
本当に金をもらいに来ただけ……あ、あんなのが父上殿の兄だと!?
「なんて酷い方なんでしょう。ディルムット様のご誕生の際には、祝いの言葉一つ寄越さなかったくせに」
と、メイドさんが腹立たしげに言う。それをメイド長が嗜めるが、彼女の気は済まないようだ。
「だって本当のことじゃないですか。伯爵が事業で失敗した借金だって、男爵様に擦り付けて」
「あの方や伯爵夫人の宝石やドレスも、うちのご主人様名義で買っているんだけどね……」
と、メイド長も不快感をあらわにする。
いや待って。伯父上殿の借金を、うちの父上殿に!?
もしかして時々やって来る借金取りって……あの男に貸した金の回収にしていたのか!?
な、なんて奴だ。
そんな奴にびた一文、出してやる必要なんてない!
とは言っても、優しい父上殿は断れないんだろうな。
後でわかったことだが、あの伯父上殿と父上殿は、腹違いの兄弟らしい。
自分の母から父を奪った略奪者の子――父上殿は、そう蔑まれて育ったようだ。
だが幼少期から優しかった父上殿は、義母や兄を恨むことなく、むしろ罪悪感すら抱いていたようだ。――と、執事長が言っていたのを聞いた。
だが実際には、略奪者は義母――俺から見て義祖母――の方だという。
こちらはお喋り好きのメイドさんたちの話だ。
なんでも祖父は祖母、父上殿の実母と恋仲だったのだが、義祖母が横恋慕をし、親の爵位で優っているのを利用して強引に婚姻を結ばせた――というのが実際の話のようだ。
母子揃ってロクな人間じゃない。
あんな男に男爵家を食い物にされるなんて、納得いかない!
けれど今の俺は赤ん坊とは言わずとも、まだまだ幼児だ。クソみたいな伯父上殿から男爵家を守ることも出来ないし、どう守ればいいのかもわからない。
今の俺に出来る事……とにかく錬金魔法を自在に操れるようになろう。
そうして男爵領をもっともっと豊かにするんだ。
そう決意して二年。その間にもクソな伯父上殿は宣言通り、一家で男爵家を訪れ金の催促をした。
一度ではない、この二年で五回もだ。
いつか絶対、倍にして返してもらうからな!
だが腹立たしいことばかりではなかった。
「ほぎゃあぁ、ほぎゃあぁ」
「ふえぇぇ、ふえぇぇ」
我が家に、家族が増えた。男の子と女の子の双子だ。
「僕の弟と、妹……初めての兄弟です」
「えぇ、そうねディル。あなたはお兄ちゃんになったのよ」
そう。初めての兄弟だ。
前世では一人っ子だったから、本当の本当に初めての兄弟。しかも弟と妹だ。
柔らかいほっぺ。
俺が赤ん坊の頃、父上殿が執拗に触っていた理由がわかった気がする。
この二年、コツコツ練習した錬金魔法の成果を見せるときが来たようだ。
お兄ちゃん、お前たちのためにオモチャをたくさん作ってあげるからね!




