49:見ものだな。
レトン商業国に盗賊団と、その盗賊団に手を貸していたサルージ族を引き渡す――そう伝える書状を出した。
「商業国からフェアリー・ワイバーンを預かっていたんですね」
「あぁ。奴らも一応、無駄な争いはしたくないんだろう。ギリギリまで待つつもりで、フェアリー・ワイバーンを置いていったのさ」
よかった……。そりゃそうだ。
砂漠の民と戦になれば、最終的にはレトン商業国の兵士が勝利するだろう。だけど商業国の兵士にも確実に被害が出る。
そうなれば、国内は混乱するだろう。
それは望んではいないということだ。
「ダンド族長。レトンの兵士が到着するまで、どのくらいかかりますかね?」
「そうだのぉ。ここは砂漠のど真ん中だ。砂船を使っても、七日はかかるだろうよ」
それまで砂漠に足止めかぁ。
「ん? 族長。あれ、砂船じゃ?」
「あん?」
俺たちは岩山の上にいた。フェアリー・ワイバーンを飛ばすために登って来たんだ。
そのフェアリー・ワイバーンが飛んで行った真逆の方角から、砂船が一隻、やって来る。
「あれは……帆にサルージ族の紋が描かれとるな」
「じゃあ、サルージ族の船?」
「だの」
仲間を取り返しに来たのか?
でも聞いた話では、サルージ族の里に残ってる人たちは女性や子供、老人、それと盗賊行為を嫌った成人男性が僅かだって。
夫や、息子、父親を助けに来たにしては、戦力が乏しいのでは?
「ディルムット様。あの砂船、白旗を掲げております」
「え? 本当ですか、ロバート卿?」
「はい。ご確認を」
ロバート卿から単眼鏡を受け取り、砂船を見た。
あ、本当だ。船首とマストの先の二ヵ所に、白い布を掲げられているのが見える。
俺たちは下へ行き、滞在している各族長らと合流して砂船を出迎えることにした。もちろん、各部族を代表する戦士たちも一緒で、全員が武装している。
船は岩山から百メートルほどの所で停船。
甲板から白旗を持った初老の男性が下りてきた。
「あれは前族長のゲルダダスじゃ」
「えっと、リディさん、でしたっけ?」
いつの間にか俺の隣には、砂漠エルフの女王の娘が立っていた。
見た目は十歳ぐらい。背は俺よりほんの少し高かった。
「わっちはリディアレーゼじゃ。気安くリディと呼ぶでないわ」
「す、すみませんリディアレーゼさん。自己紹介がまだでしたよね? 僕はディルムットと申します。オルフォンス王国の者でして」
「知っておるのじゃ。わっちは砂漠のエルフ族、エディノアの娘リディアレーゼなのじゃ」
のじゃ……一部の性癖にクリーンヒットする、のじゃ属性か。生憎、俺の性癖にのじゃはない。
「リディアレーゼさん。あの白旗を持っている方が、サルージ族の前族長なんですか?」
「そうじゃ。愚か者のゲダスの父親じゃ」
「やっぱり世襲制なのか」
「世襲制のようで、そうではないのじゃ」
え? 世襲制じゃない?
「うちが教えてやるにゃ」
「あ、キャロ」
「む、猫娘め。わっちがこやつに説明してやっておったのじゃ。邪魔するでないわ」
「あのねディル。砂漠のエルフ族とフォックス・リー族は完全に世襲制なんだけど、他は世襲制でありつつ、族長に決闘を挑んで勝てばその座に就けるって交代制度もあるにゃ」
「ぐぬぬぬぬぬ。人の話を聞かぬ小娘めぇ」
小娘って、見た目からすると君の方が幼いんだけど。まぁ年齢で言えば圧倒的に上なんだろうけどさ。
ふぅーん。強くなければ族長は務まらないとかなんとか言ってたのは、そういうことだったのか。
「ちなみにじゃ、ゲダスにはひとつ上の兄がおって当然そちらがサルージの族長となったんじゃがゲダスが決闘を申し込んで自身の兄を殺しおったそれで奴が族長となったのじゃぞ。……はぁはぁ」
「あっ。うちが今言おうと思ったのに!」
「ふんっ。早い者勝ちじゃ」
だから息継ぎなしで一気に喋ったのか。
でもゲダスという男を知るには、十分なエピソードだ。
族長の座に就くために、血を分けた兄弟の命を奪うなんて。
「あの、その決闘って、相手の命を奪わなければいけないものなんですか?」
「そんなわけなかろう。同じ部族なのだ。命を奪う必要はない。勝負の判定はいろいろあるがな、相手に両膝をつかせるだの、気絶させれば確実に勝ちじゃ」
そう話したのはキャット・ルー族の族長だ。最後に「故意ではなく、結果として命を奪ってしまうこともあるが……」と、少し声を押し殺して話してくれた。
奴の場合、故意なのか、故意じゃないのか。
「ゲルダダスよ。もう主の息子たちの処遇は決まったぞえ。不服を申しに来たのか?」
「エルフの女王よ。不服など言える立場にないことはわかっておる。ただ……ただ最後に、家族との別れの時間をもらえぬか?」
その言葉は、普通であれば理解できる内容だ。
ただ、このアジトの場所を教えることに拒否した彼らの言葉を、どこまで信用していいやら。
妻や子供たちに楽をさせてやりたかっただけ。そう言って泣き崩れたサルージ族の顔が脳裏に浮かんだ。
家族はどんな気持ちなのだろうか。血に汚れたものを受け取って、喜んだのだろうか。
ふと、そのことが気になった。
「あの。いいんじゃないでしょうか? 強奪行為に手を貸した彼らには同情しませんが、残される方には同情はします。ですから、最後の別れはしっかりやらせてあげるべきかと」
ただどんな反応をするのか、見てみたかっただけだ。
「む……此度の功労者がそう言うのであれば、妾は反対せぬ」
「わたくしも、よいかと」
「ぬぬぬ……お二人がそういうのであれば、バトラスも賛同しよう」
「キンバル族も」
「では決まりだの。キャット・ルー族は当然、ディルに賛成じゃわい」
よかった。
さぁ、妻と子供たちは盗みを働いた父親に感謝するのか、それとも怒りの感情を抱くのか。見ものだな。
「幼子の優しさに感謝するのじゃぞえ、ゲルダダス」
ん?
「ディルがおらんかったら、お前さんたちなんぞここで引き返すことになっただろうからの。無関係な奴らの世話までするとは、お人好しだわい」
え?
「お人好しだなんて言わず、優しい子と言ってあげなさいなダンド」
いやいや。え? どうして俺が優しいなんてことになってるの?
なんでみんな……なんで微笑ましそうに俺を見るんだ!?
違うっ。俺は優しさから面会をさせてやろうって言ったんじゃなく、俺は……。
「そなたの優しさに感謝する……異国の少年よ」
うわああぁぁぁぁぁ。だから違うんだってばぁぁぁぁー!




